第一部
よくあの日の悪夢を思い出す。
そこは暗闇で、僕を合わせて5、6人の子供達が立ちすくんでいる。年は小学校高学年くらいから、僕みたいな中学生、高校生くらいまでとまばらだ。
顔には恐怖や絶望が色濃く映り、中には泣き出しそうな子もいる。
そして何人もの大人達が、僕達を取り囲むように見下ろしている。
見下している人、
嫌悪感をあらわにしている人、
汚物を見るときのような視線を投げかけてくる人、
僕達を見るのも嫌とばかりに顔を背ける人、
何を考えているのか分からないくらい無表情な人。
皆それぞれ表情は異なるが、誰一人として僕達を快く思っている人がいないという事実が、ずっしりと理解できた。
「この不純物共が……」
誰かがそんなことを吐き捨てるように呟いた。
意味は分からないが、その声に含まれる負の感情はどこまでも深く、僕達の心に突き刺さった。
その声を契機に他の声が続く。
「今まで色々教えてやったのに……」
悲痛の声が罪悪感を芽生えさせる。
「この出来損ないが……」
嘲笑の声が胸を削る。
「汚らわしい……」
嫌悪感を含んだ声に足下をフラつかせる。
「こんな奴らを育ててきたのか、俺たちは……」
後悔の声が希望を打ち砕く。
「何で貴方達みたいなのがいるのよ……」
憎悪の声に絶望の色が深まる。
「死んでしまえばいい」
呪詛が聞こえる。
「そうだ、死んでしまえ」
呪詛が続く。
「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」
(もうヤメてくれ!)
大声を出そうとするが、喉に石でも詰まっているように、息を出すことができない。
現実から目を背けるように、僕は両手で耳を覆って蹲った。そうすることで大人達が、その言葉が消えてなくなる訳ではないとわかっていても、大人達の声をこれ以上聞くのには耐えることができなかった。
どれくらいそうしていただろう。大人達の声が聞こえなくなっても、しばらくそのまま蹲っていた。そんなところに、
カツン……カツン……。
耳を塞いでいるのに、何か固いものがぶつかる音が、僕の鼓膜を震わせた。
顔を上げると、一人の男が立っていた。周りにいた大人達は、いつの間にかいなくなっている。
その男は黒の神父服を纏い、右手の松葉杖に体重を預けている。4、50代に見えるが、その幼い目のせいで老け顔の30代前半と言われても、不自然に思えない風貌をしている。
その男は厳かに言った。
「お前達には悪いが、永久追放することが決まった」
誰かが泣く声が聞こえた。
僕もどこかでこの人が、僕達を助けてくれるのではないか、と思っていたのだろう。目頭が熱くなり、視界が滲んだ。
すっ、と誰かが僕の肩に手をおいた。
「僕が一緒にいてやるから、泣くな」
隣を見ると、親友も涙で潤んでいる。それでも僕を安心させようと、一生懸命口元を歪めて笑おうとしている。
「…………ありがとう」
僕も無理矢理笑った。口元が引きつり、鼻がツンとする。開いた口に涙が流れ込み、しょっぱい味がする。膝も、腕も、力が入っているのかもわからなくなる。それでも笑って、微かな声で感謝した。
「命があっただけでも、感謝しなさい」
男はそう締めくくり、闇の中へと消えた。