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アリスと魔法使い~I am The Cheshire Cat~  作者: ORANGE
~第1章~回想と回想、そして出会い 
2/8

第一部

 よくあの日の悪夢を思い出す。


 そこは暗闇で、僕を合わせて5、6人の子供達が立ちすくんでいる。年は小学校高学年くらいから、僕みたいな中学生、高校生くらいまでとまばらだ。


 顔には恐怖や絶望が色濃く映り、中には泣き出しそうな子もいる。


 そして何人もの大人達が、僕達を取り囲むように見下ろしている。


 見下している人、


 嫌悪感をあらわにしている人、


 汚物を見るときのような視線を投げかけてくる人、


 僕達を見るのも嫌とばかりに顔を背ける人、


 何を考えているのか分からないくらい無表情な人。


 皆それぞれ表情は異なるが、誰一人として僕達を快く思っている人がいないという事実が、ずっしりと理解できた。


「この不純物共が……」


 誰かがそんなことを吐き捨てるように呟いた。


 意味は分からないが、その声に含まれる負の感情はどこまでも深く、僕達の心に突き刺さった。


 その声を契機に他の声が続く。


「今まで色々教えてやったのに……」


 悲痛の声が罪悪感を芽生えさせる。


「この出来損ないが……」


 嘲笑の声が胸を削る。


「汚らわしい……」


 嫌悪感を含んだ声に足下をフラつかせる。


「こんな奴らを育ててきたのか、俺たちは……」


 後悔の声が希望を打ち砕く。


「何で貴方達みたいなのがいるのよ……」


 憎悪の声に絶望の色が深まる。


「死んでしまえばいい」


 呪詛が聞こえる。


「そうだ、死んでしまえ」


 呪詛が続く。


「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」「死ね」


(もうヤメてくれ!)


 大声を出そうとするが、喉に石でも詰まっているように、息を出すことができない。


 現実から目を背けるように、僕は両手で耳を覆って蹲った。そうすることで大人達が、その言葉が消えてなくなる訳ではないとわかっていても、大人達の声をこれ以上聞くのには耐えることができなかった。


 どれくらいそうしていただろう。大人達の声が聞こえなくなっても、しばらくそのまま蹲っていた。そんなところに、




 カツン……カツン……。




 耳を塞いでいるのに、何か固いものがぶつかる音が、僕の鼓膜を震わせた。


 顔を上げると、一人の男が立っていた。周りにいた大人達は、いつの間にかいなくなっている。


 その男は黒の神父服を纏い、右手の松葉杖に体重を預けている。4、50代に見えるが、その幼い目のせいで老け顔の30代前半と言われても、不自然に思えない風貌をしている。


 その男は厳かに言った。


「お前達には悪いが、永久追放することが決まった」


 誰かが泣く声が聞こえた。


 僕もどこかでこの人が、僕達を助けてくれるのではないか、と思っていたのだろう。目頭が熱くなり、視界が滲んだ。


 すっ、と誰かが僕の肩に手をおいた。


「僕が一緒にいてやるから、泣くな」


 隣を見ると、親友も涙で潤んでいる。それでも僕を安心させようと、一生懸命口元を歪めて笑おうとしている。


「…………ありがとう」


 僕も無理矢理笑った。口元が引きつり、鼻がツンとする。開いた口に涙が流れ込み、しょっぱい味がする。膝も、腕も、力が入っているのかもわからなくなる。それでも笑って、微かな声で感謝した。


「命があっただけでも、感謝しなさい」


 男はそう締めくくり、闇の中へと消えた。


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