お嬢様が僕に何の用?
えー......ただいまですね、謎のメイドを引き連れて如何にもお嬢様です雰囲気を出す女子たちに蔑まられているんですけど……これ、どうすればいいですか?
明らかにこの二人が来た瞬間、教室全体の雰囲気ががらりと変わったから、だいぶ階級?というのが高いお嬢様だということは分かるんだけど……
「そこのあなた!!」
お嬢様が急に声高く叫びだした。
教室全体がさらに空気が重く歪み始める。
視線は変わらずに僕の方向を向いている。
めちゃくちゃ怖いんですけど!!
こうなったら僕ではないことを信じて無視だ!無視!!
多分僕の後方に犬猿の仲の友達がいるに違いない。
絡むと面倒な事になりそうだし……本読もう。
僕は暇になった時用に準備していた本を机横にかけているバッグから取り出し、体を前方に向け、読み始める。
「そこのあなた!!聞いていますの!?」
そんなに気に入らない人がいるんだな。ちょっと気になるけど無視だ、無視。
「そこまで、わたくしのことを無視する人は初めてですわ!!」
へぇ~、怒らせても無視する人なんだ。ちょっと友達になりたいかも――と思っていたら背中をちょんちょんと突かれた。
僕は反射的に後方を見る。
その時……気づいた。
これ……向いたらいけないやつだ。
無意識の行動のため制御が効かない。そのため後方を向き終えた頃には背中を突いた本人――メイド姿の女子と目が合った。
「あなた様、お嬢様がお呼びになっているのに何故無視をなさるのですか?」
あー、僕だったのか。でもこんなお嬢様たち知らないけど?
これまでも、綺麗なドレスとかメイド服とか着て学校来てたら、さすがに覚えているはずなんだけど。
まぁ、話しかけてくるということは僕に用があるということだ。
とういうことは、失礼のないように敬語で対応しなければならないのか!?
お嬢様と呼ばれていることだし、メイドであっても何されるか分からん。
今後の学校生活のためだ。発言に気を付けながら話そう。
「すみません、会った覚えがなかったもので、後ろにいる友達かなと思っていました」
「あー、なるほど。これは失礼しました。確かに知らない人に話しかけられたら無視しますよね」
メイド姿の女子が礼儀正しく僕に向かって深々と頭を下げてきた。
「いやいやいや、やめてください!!お願いします。頭を上げてください」
まだ入学式も始まっていないのに、「メイドに頭下げさせている男がいる!!」と噂になりたくないし、目立つし嫌だ。
………もう目立っているかもしれないけど…………
「失礼しました。これは礼儀ですので」
「礼儀」ねぇ、その言葉聞いた時改めてここがお嬢様学校であることを再認識した。
「それでなんですけど、僕に何の用でしょうか?さっきお呼びになったとか言ってましたよね?」
「それはお嬢様にお聞きください」
え、僕が行かないといけないの?
すぐ近くなのに?2、3歩しかない距離を?
メイドさんが話してくれるわけじゃなくて?
お嬢様を見ると扇子を仰ぎながら優雅に僕を待っているように見えた。
これがお嬢様、身分が低い者が話しかけないといけない……アニメやラノベだけの話だけかと思ってたけど本当にあるんだな。
席から立ち深呼吸。
僕は金持ちじゃないから、こういうのは初体験。
意外とワクワクしていると同時に面倒くさいとも思った。
流石にさっきみたいな威圧感ないよね?優しく接してくれるよね?と暗示をかけながら僕はお嬢様の側まで来た。
「あのー、僕に何か用でしょうか?」
お嬢様は来たことに気づいたのか、扇子を畳み僕の方を向いた。
「あなた名前は?」
え、名前なの?
まずは挨拶みたいな……こと?
「樹地瑞希ですけど……」
「誰ですの?」
さっき言ったんですけど……声が小さかったかな~?
「樹地瑞希ですけど……」
「そんな名前存じておりませんけど?」
何なの?このお嬢様?
「あなた、どこの社長のご子息ですの?」
「え?僕の親は…………社長ではないですけど………」
「何を言っていますの?」
そんな可笑しなことだったのだろうか?
お嬢様は困った様子でメイドを呼んで内緒話をし始めた。
お嬢様だからか、怖いイメージを持っているからなのだろうか、なんかこの間がめちゃくちゃ緊張する。
何を話しているか、僕が覚えていないことを何かしたか、などなどそんな思考がループする。
でもその中で僕にはある引っ掛かりを覚えた。
お嬢様が言っていた「社長」という言葉だ。
親が社長ではないことを言ったら雰囲気が変わった。
親が社長じゃないからなんだと言うんだ?
この学校の入学条件見ておけばよかったと、またもや後悔。
金銭的な事なのだろうか?
でも金銭的な面だと……学費のことなら大丈夫だから学校側には何も迷惑はかけないというか、かけるとしたら入学拒否してくるか。
だったら行事関係?
確かに毎回何百万かかるとかなると厳しいけど………というかこんなこと聞くはずないか。
まず会ったこともないんだし。
「あなた特待生ですの?」」
「違いますけど」
この学校特待生制度なんてあったの?
へぇー、初めて知った。
まぁ別に知っていてもその制度を使ってこの学校に入学したいとは思わないけど……というか、僕この学校に入学するというのに無知すぎるな。
というか、これ何の確認?
またお嬢様たち話し込んでしまったけど。
「瑞希、何で扉のまえに突っ立ているんだ?」
「あー、りくか。那結との話はもう終わったのか?」
「まぁ………な」
僕が考えているうちにりく達は話を終わらせたらしい。
「そんなことよりなんでこんなところで突っ立ているんだよって聞いているんだ。邪魔だぞ?」
「あー……まぁ?話せば長くなるというか、ならないというか、そうでもないというか」
「とりあえず話きかせろよ」
お嬢様の方を見るとまだ話しこんでいる見たいだし、これまでのことを話すことにした。
何も関わりのないお嬢様が僕の両親のことや、僕のことについて聞いていたことを。
「ということで、今の状況になっているんだが」
「なるほどな」
「りくは知っているか?あのお嬢様たち」
「知らないぞ?俺金持ちじゃないし、親も社長とかそういう上の階級じゃないし」
「だよな」
やっぱり知らなかったらしい。
じゃあ何の用?
「何か目的があるんじゃないか?」
「うーん、危険性がないかとか?」
「あー、共学なって初めてだということもあってか……確かに俺たちのことが気になるわな」
「それもあると思うけど……どちらかと言えば会社なのかもしれない」
「何で会社?」
「いや、何か、社長とか聞いてきたから、ライバル企業だと仲良くできないとかじゃないかな」
「でもそれって、瑞希関係ないじゃん」
「それなんだよな~。だから前者の方の危険性とかだと思ってる」
「お嬢様だしな」
そんな話をりくとしながら話終わったお嬢様が近づいてきた。
「あなたのことはよく分かりましたわ。貴重な時間を奪ってしまい申し訳なかったですわ」
「は、はい」
急に何だ?
さっきまでと違う雰囲気で話てきたぞ?
「瑞希様この度は貴重な時間を割いていただきありがとうございました。もう入学式が始まる時間になりますのでこれで失礼します」
メイドさんも近づいてきたと思ったらご丁寧に挨拶だった。
いや、これだけ?
本当になんだったんだ?あのお嬢様たち。
というか人に名乗らせておいてそっちは名乗らないのか。意外と気になるぞ。
「ねぇ瑞希、もう女子と仲良くなったの?」
何か恐ろしいほど威圧感のある声と波動を後方に感じた僕は恐る恐る見ると那結が扉の前に立っていた。
「な、なに怒っているんだ?」
「別に?怒っていないよ?」
そういうと那結は自分の席へと戻って行った。
「那結となんかあったか?」
「別に?あれは……那結の勘違いだな」
「勘違い?」
「あー、何でもない」
何か隠しているのか、りくは笑顔で誤魔化していた。
「もう入学式始まるだろ。席に戻って、指示を待っていようぜ」
「まぁ、そうだな」
何か隠しているとか、今はどうでもいいな。
とりあえず、入学式の頭にしておかないと校長の話で寝てしまうことになる。
初っ端にやると怖いし、元はお嬢様学校でもあるから余計に怖い。
それにしても、一人姿を現さないことが気になった。
「りく、「あいつ」の姿見たか?」
「あー、見てはないな」
「珍しいな。今頃には来ているはずなのに」
「まぁ。風でも引いたんだろ」
そんな心配をしていると放送で僕たち1年生が呼ばれた。
「さぁ、入学式だな。瑞希行こうぜ」
「分かった」
僕とりくは席を立ち廊下に出る。
それにしても、入学式も変わっているんだな。
放送で呼ぶとか、他の高校では先生が付きそうなんだが。
そんなことを思いながら僕たち1年生は体育へと向かった。




