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失敗よ、どうか輝け #001
薄曇りの朝、魔力の霧をまとった陽光が展望台のガラス壁に虹色の輪郭を描き、エリシアの頬をやわらかく照らした。
千メートル下には都市・《ノウアーク》が広がる。七本の主幹道路は放射状に伸び、その隙間を埋める格子区画が碁盤のように複雑な秩序を形づくっている。路面電車は淡い青の軌跡を残し、空中庭園の蔓花は雲の高さで風に揺れていた。魔力導管を透かして見える琥珀色の光流は、都市が“循環する生き物”であることを雄弁に語る。
十年前、瓦屋根が肩を寄せ合い、河口には錆びた貨物クレーンがいくつも残っていた頃。エリシアが初めて杭を打ったあの日、この完成図を正確に描けたわけではない。
けれど、胸に宿っていた輪郭のない理想──「人と魔法と機械が衝突ではなく共鳴を選ぶ都市」──その灯だけは、今も曇ることがなかった。