表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

つれづれ

作者: 椎名


ふと、商店街の雑貨屋さんが目に入った。なんの変わりもない、普通の田舎の雑貨屋さん。その店先に置かれた、淡い暖色を照らすランプ。


「こんなお店、あったっけ?」


入口の前に立ち、じーっと中を探る。お客の気配はないけれど、お店は開いているようだ。少し迷ったけど、サチは重い扉を開いた。

店内には文房具やキッチン用品、衣類や雑貨が置かれており、思ってたより広かった。サチは店内をゆっくり歩いて回る。オルゴールのような音楽がかかる店内は、外観からは想像つかないほど新しかった。

レジの方を見るけれど、店員の姿はない。なんだか異世界に来てしまったような、変な気分になる。


店の中央に、店先に置かれていたランプを見つけた。

灯りは消えているが、入口に置いてあるものと同じ、月の形をしている。値段も、それほど高くない。


「やっぱりかわいいなぁ」


ぽつりと呟くと、すぐ後ろから声が聞こえた。


「それ、人気なんですよ!ずっと売り切れでして…こないだ入荷したばかりなんです!」

「………!?」


びっくりして、声にならない声を上げてしまう。

サチは思わず飛び退いて、棚に当たるところだった。

声の主は、30代後半くらいの女の人だった。紺色の「Moon」と英字が印刷されたエプロンを身につけている。


「あら、ごめんなさい!驚かせてしまいましたね。」


クスクスと申し訳無さそうに笑う店員。口元に手を添えるその仕草がとてもかわいい。


「初めましての方ですよね?この店の店主です。空き家を改装して、半年前にオープンしました。この店の商品は、私が気に入ったものだけを集めているんですよ〜。ぜひゆっくり見ていってくださいね。」


「あ…はい、ありがとうございます」


「ふふ、ここに来てくれたのも何かの縁。これをプレゼントです!」


店主はエプロンのポケットから、透明なビニールに包まれた何かを取り出し、サチに手渡した。


「ステッカー?」


「そう、作ってみたんですよ。どうかしら?」


「とっても…かわいいです。」


満月の前で、黒猫が背を向けて座っているステッカー。夜空がラメでキラキラしていて、とても綺麗だった。


「キレイなものとか、可愛いものに触れることって、とてもワクワクするでしょう?それを誰かと共有出来たら、もっと最高じゃない?」


店主は目を細めて笑った。とても、綺麗だった。

コクリと頷いたサチは目線をもう一度ステッカーに移した。ステッカーと一緒に、ビニールに入っているお店の名刺をじっと見つめてしまう。

1階は雑貨屋さん。2階は休憩所になっているようだ。それを見ていた店主はまた、サチに言った。


「ふふふ、実はね…2階は自販機と本が置いてあるのよ!無料ではないんだけどね、本も私が好きなものを集めているの!その場で読んでもいいし、購入や取り寄せも出来るわ。」


店内には誰も居ないのに、秘密をこっそりと教えるように、口の横に片手を添えながら店主は言った。


「良かったら、利用してみてね!」


ここに来てくれたのも、何かの縁だから。


いつの間にかタメ口に変わっている店主はもう一度サチに言った。こんなに店主から話しかけられて居るのに、いつものように嫌な気持ちにならない。むしろ、興味が出た。


「…はい。」


サチは、そっと頷いていた。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ