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67.顛末

「結婚式の……あの後、一体どうなったんですか?」


ティアの問いにサンドラの顔が曇った。


目を伏せてサンドラは答える。


「アーサーは死んだわ……」

「そうですか……」


仕方がないのかもしれない。


知らなかったとはいえ、先に手を出したのはアーサーの方だった。


「イヴは半狂乱になって……大変だったわ。衛兵に連れられて地下牢に入れられた」

「衛兵たちは皆国王陛下の味方だと思っていましたが……」

「ええ、そうよ。でも、アーサーは死んだわ。王妃の味方ではなかったということね」


サンドラは悲しげな表情を浮かべた。


「……王妃付きの侍女やテイラー男爵家の侍女ホリーも捕まったわ。当時は知らなかったけど、彼女が間諜の元締めのような立場だったらしいの」

「無理矢理……言うことをきかざるを得ない人たちもいたと思います……」

「これからイヴも含めて、全員の裁判になるわ。事情によって情状酌量の余地はあると思うから、心配しなくて大丈夫よ」


ぽんぽんと頭を撫でられると懐かしくて目頭が熱くなる。本当にサンドラは生きていたんだ。


「あなたが失神した後、ヒューが全員に事情を説明してね。アーサーが他国への侵略をたくらんでいたこともロバートが証言したわ。多くの参列者が怒り狂って、クーデタっていうか、王の交代を支持してくれたわ。私たちは戦争を望まないって明言したから」


「……これからはお父さまとお母さまが国王と王妃になるの?」


サンドラが苦笑いしながら頷いた。


「ずっと逃げてきちゃったからね。もっと早くに覚悟を決めて戦うべきだった。そしたら、あなたがあんなに辛い思いをしなくて済んだのに……本当にごめんなさい」


目を潤ませながら深く頭を下げる母親にティアは焦って首を振った。


「そ、そんなことないわ。……あの離れでの生活は辛かったけど、でも、あの頃の生活の経験のおかげでアスター領のみんなに喜んでもらえたし……サイラスに出会えたし……」


「うふふ、あなたもサイラスが好きなのね?」


ティアの顔だけでなく首や手まで完熟トマトのように真っ赤になった。


「あなたはアスター領に帰りたいのね? サイラスの妻として?」


「は、はい。もし、それが許されるなら……私はサイラスを裏切りましたが……許して頂けるなら、そうしたい……です」


「あなたがアスター領を守ろうとしてロバートとの結婚を決めたのはみんな知っているわ。ロバートがそう言ってた。何よりサイラスはあなたのこと、大好きだもの」


相変わらず頬が火照ったままだ。


本当だろうか?という不安もあるが、誠心誠意謝ったら、許してもらえるかもしれない、という淡い期待はある。


「あ~あ、でも、そうすると後継ぎの問題が出てきちゃうのよね~。あなたは女王とか王妃になるのは嫌よね?」


ごほっとティアは咳込んだ。


「けほっ、いやっ……無理です」


ティアの背中を擦りながら、サンドラは水の入ったグラスを手渡した。


「ロバートはいい子よね。だから、ロバートは王太子のままにしようと思ったんだけど、彼は教会で魔法の研究をしたいからごめんこうむりたいって言うのよ」


生真面目な彼らしい返事だ。


「そしたら、ウィルソン公爵から、私とリヴァイに頑張ってもらわないとって」

「へ!?」

「まだ一人くらい産めるっていうのよ。ホント困っちゃうわ」


親のそういう話はあまり聞きたくない。ティアの気配を察知したのか、サンドラは咳払いして話題を変えた。


「宰相のウィルソン公爵も私たちの味方をしてくれるわ。王妃の秘密は知らなかったみたいだけど、以前の私とは違うって不審には思っていたみたい」


「サイラスがウィルソン公爵は理解のある上司だって言っていました」


ティアの顔が輝いた。


「そうね。ウィルソン公爵は最初ヒューに頼まれてサイラスを事務官として雇ったんだけど、とても優秀だってサイラスのことを褒めていたわ」


「宰相閣下とオルレアン公が味方でいてくだされば百人力ですね」


サンドラが嬉しそうに片目をつぶった。


「それにリヴァイがいてくれる。あなたは父親のこと、記憶にも残っていないでしょ? トマスとしても、ほとんど口をきいたことがないって寂しそうに肩を落としていたから、後でちゃんとお話ししてあげてね」


そう言われると弱い。実はトマスのことを薄気味悪く思っていたなんて口が裂けても言えない。墓場まで秘密として持っていこうと心に決めた。


でも、たまに自分のことをじーっと見ていたのも、きっと心配してくれていたんだなと今なら分かる。


「あ、そうそう。それからサイラスがアスター伯爵家のタウンハウスを売却したそうだけど……」


サンドラの明るい口調に反して、途端にティアは後ろめたくなる。自分のドレスもそのお金で買ってもらったことを思い出した。


「ティア、そんな顔しないで。大丈夫。買ったのはヒューなの。彼はあなた達のこともずっと見守っていてくれたのよ。タウンハウスも結婚祝いとして返却するつもりだって言っていたわ」

「え!?」


衝撃でティアは固まった。


オルレアン公の厚意は有難いが、サイラスがどう思うか分からない。


サイラスに相談してみるというと、サンドラは優しく微笑んだ。


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