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51.脅迫

アーサーは雄弁に語り続ける。


「君は不思議な能力を使えるそうだね? 部隊長に向かって命令したら彼はその通りに動いたとか。その時に君の瞳と左の頬の傷が青く光っていたと密偵から報告を受けているよ」


ティアの肩がビクッと揺れる。


くすっという国王の笑い声が聞こえた。


「君は隠し事や嘘が下手だ。カッサンドラと同じだな。密偵の報告を受けて、俺も色々と考えた。それで一番良い解決法は君が王太子のロバートと結婚することだと結論づけたんだ」

「「は!?」」


イヴもティアと同じくらい驚いているようだ。苛々した口調でアーサーに食ってかかる。


「どうしてこんな小娘とロバートを結婚させないといけないんですか!?」


アーサーは子供に言って聞かせるようにイヴを諭す。


「いいかい。君のしていることを知ってしまった今、彼女を傷つけることは俺の死に繋がる可能性がある。だから、彼女は殺せない」

「それはっ……確かに……」

「危険は冒したくないだろう?」

「はい……」


アーサーの声音には不思議な説得力がある。イヴが大人しくなった。


「フィッツロイ家の血筋は王家の役に立つ。これまでの歴史でそれは証明されている。カッサンドラの知識のおかげで俺も助かったのは事実だ。しかし、イヴを妻にするためにカッサンドラを追放した。現王家にはフィッツロイ家の血が足りていない」


「必要な知識は得られたから、あの女はもう用済みだってアーサー様も……」


アーサーの低い笑い声が聞こえる。その禍々しさにティアの腕に鳥肌が立った。


「魔法を使えるフィッツロイ家の先祖返りが現れたら話は別だ。確実に俺の役に立つ。手放すつもりも危害を与える気もない。俺に逆らうなら君も母上のように離宮に行ってもらうよ」


「そ、そんな……」


イヴの声が震えて涙声になった。


「アリスティア嬢が魔法を使えることをカッサンドラは秘密にしていた。恐らくだが頬の傷痕は偽物だろう?傷の下に四つ葉の形をした赤い痣があるんじゃないか?」


ティアは何も答えず、身動き一つしないように気をつけた。


「まぁ、いい。君を王家に迎えたい。ロバートと結婚させるのが一番簡単だ。それに彼女の髪と目を見れば、フィッツロイ家の血を引いているのは明らかだ。君の親戚の娘が見つかったとか、そんな話にすればいい。いくらでもつくろえるさ」

「嫌です!義理でも親子になるなんて! ロバートにはもっと良い縁談が……」


イヴが心底嫌そうなのは伝わってくるが、自分も同じくらい、いや、それ以上に嫌だとティアは心の中で叫んだ。


「ロバートは縁談をことごとく毛嫌いして断っているだろう? あの変わり者は一生結婚しないんじゃないかと思っていたんだ。でも、アリスティア嬢ならロバートは確実に興味を持つ。絶対だ」


「そりゃ、まぁ、確かにその通りかもしれませんが……」


渋々同意するイヴの声を聞きながら『どういう意味だろう?』とティアは内心訝しんでいた。


「ロバートとアリスティア嬢を結婚させる。異を唱えるなら君は離宮行きだ」

「そんな……」


弱々しいイヴの声が聞こえて、ティアは慌てて口を挟んだ。


「ちょ、ちょっと待ってください! そんな勝手に決めないでください! 私はサイラス・アスター伯爵の妻です。他の誰とも結婚するつもりはありません!」


サイラスの笑顔が脳裏に浮かんで、胸が締めつけられるように痛んだ。


アーサーがふっと嗤った。


「俺はこの国の王だ。逆らうと、どうなるか分かるかな? アスター伯爵夫人は事故死したことにすれば全く問題ない」


明らかにこちらを莫迦にした態度にティアの体が再び怒りで熱くなった。


「いくら国王でも無理矢理結婚させることなんてできないはずです!」


「俺は国軍を動かす力がある。アスター伯爵領なんてあっという間につぶせるんだぞ」


今度は脅すように声を低める。ティアの顔から血の気が引いた。


「いいか! お前がアスター城の使用人や領民と仲良しなのは知っている。最近はサイラスともいい雰囲気だそうじゃないか? サイラスには手を出せないかもしれないが、他の奴らを全員殺すことだって俺にとっては簡単なことだ」


「酷い……」


ティアの目から涙がぼろぼろと零れた。悲しいからじゃない。怒りと悔しさの涙だ。


自分は無力だ。目隠しされただけで魔法すら使うことができないではないか。


「お前が大人しくロバートと結婚して、俺の役に立つと約束するならアスター領もアスター伯爵家にも一切手を出さない」


「アーサー様、契約魔法の書を使いましょう!」


得意気なイヴの声がする。ティアは絶望に打ちひしがれた。


「待て……そうすると、万が一、将来的にアスター領が力をつけた場合に一切手出しできなくなる可能性もある…か」


アーサーは独り言を呟きながら考え込んでいる様子だ。


「契約魔法は使わないが、俺に歯向かったらアスター領を攻め滅ぼす。いいな」


念押しするように言われて、ティアは何も答えられず泣き続けるしかなかった。


しばらくするとアーサーとイヴが退出する音が聞こえてきた。

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