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22. 反逆

「大変お似合いだと思います」


アスター伯爵家の城に滞在して一週間後、カッサンドラとリヴァイがもじもじしながらウィリアムのところに報告にきた時、ウィリアムは笑顔でそう言った。


ウィリアムはリヴァイのことを高く評価している。


万事派手好きなアーサーよりもカッサンドラと合うのではないかとずっと思っていた。


カッサンドラの後見人を務め、リヴァイとも懇意にしてきたウィリアムにとっては望ましい結果だ。


しかし、当然懸念もある。


「ただ、そうなるとリヴァイ殿下が王太子ということになりますが……正直、アーサー殿下がそれを素直に受け入れるとは思えませんな」


リヴァイとカッサンドラも表情を曇らせた。


「兄上は激高するかもしれませんね。僕は正直王位にこだわりはありません。勿論、サンドラと結婚するためなら何でもしますが……」


「ウィル、私も王妃になりたいわけじゃないの。ただ、二人で静かに暮らせれば。例えば、リヴァイがウィルの後を継いだら、私はここで彼と静かに暮らしたいわ」


領地管理人のセドリックは親切で誠実な人柄だ。

彼の妻のタマラも優しいし、まだ赤ちゃんのカーラも可愛くてたまらない。


ここでリヴァイと家族として過ごせたら、最高に幸せな人生になるとカッサンドラは胸を弾ませる。


「うーむ、そううまくいくかどうか。王族にとって先祖の定めた法は絶対ですから……」


ウィリアムは言葉を詰まらせた。


***


案の定、彼らが王宮に戻り、ウィリアムが国王夫妻に報告すると国王は頭を抱えた。


「……アーサーは意地でも引かないだろう」


ウィリアムがコホンと咳払いをした。


「恐れながら陛下、陛下はアーサー殿下に甘いように感じてしまいます」


虚を突かれたように国王はぽかんと口を開けた。


「甘い、か?」

「わたくしもそう思いますわ」


王妃が扇で口を隠しながら呟く。


「サンドラは何があっても王妃になる。それは変えられない」


国王は断言した。


(やはり……)


ウィリアムは内心で嘆息した。


「リヴァイ殿下は国王として素晴らしい資質をお持ちです。堅実で真面目で義理堅い。良い君主におなりでしょう」

「うーむ」

「それにアーサー殿下がフィッツロイ家の財産を掠め取ろうと……こほん、いえ、フィッツロイ邸を勝手に売却したのをご存知でしょう?」


国王は気まずそうに視線を外した。


「私が私財を投じて屋敷を買い戻しました。将来カッサンドラ様がお使いになる時のために管理人を置いて手入れをしております。その事件だって、陛下にご報告したのにアーサー殿下には何も処罰をくだされませんでしたね? 結局、屋敷を売った金はアーサー殿下が握ったままだ。他にもフィッツロイ家の財産を着服した容疑があります。そして先日の婚約破棄騒動です。もう看過することはできません」


頭を掻きながらふぅと溜息をつくと国王は何度も頷いた。


「分かった。お前の言う通りだ。我が息子ながらあれほど愚かなことをするとは思わなかった。今夜にでもアーサーに王太子の地位を廃しリヴァイを王太子にすると伝えよう」


「ありがとうございます」


ウィリアムは立ち上がって深々とお辞儀をした。


***


事件はその日の夜に起こった。


カッサンドラとリヴァイのことが気にかかり、ウィリアムは王宮に滞在していた。


真夜中に突然暴漢が部屋に押し入ってきた。


声が出せないようにウィリアムの口の中に布を詰め込み、目隠しをして両手を後ろで縛る。


眠っていたウィリアムは何が起こったのか理解できなかった。そのまま逞しい肩に担がれて、どこかに運ばれていく。


混乱と恐怖の中で、ウィリアムは忙しく頭を働かせていた。


(一体これはどういうことなのか? 王宮に暴漢!? 近衛騎士たちは何をしている!?)


ようやくどこかの一室に入り椅子に座らされる。縄で椅子に縛りつけられる感覚があり、ますます恐怖がつのった。


ようやく目隠しを取られると薄暗い部屋にいた。周囲を見回して呆気にとられる。


自分を襲った暴漢は近衛騎士だったのだ。


そして、自分と同じように椅子に縛りつけられているのは国王夫妻とリヴァイ、そしてカッサンドラだった。


全員口に布を詰め込まれているので何も言えない。


目で訴えようとしたら、ガチャリと背後の扉が開いた。


「やぁやぁ、皆さん、お揃いで」


人を莫迦にするような言い方に覚えがある。


(やっぱり……)


ウィリアムは絶望的な表情を浮かべた。


部屋に入ってきたのはアーサーとイヴだった。


「……近衛騎士団と衛兵は既に俺が掌握しているのを父上はご存知なかったようで。まぁ、金はかかりましたがね。それにカッサンドラが以前、人に暗示をかける効果のある植物の話をしてくれた。それも大変役に立ちましたよ」

「んんんん……」


口に布を詰められているせいで喋れない国王の顔が泣きだしそうに歪んだ。


その場にいた騎士を部屋の外に出した後、アーサーはだんっと足で地面を踏みつけた。


「俺の代わりにこの凡庸な弟を国王にするだと!? そんな莫迦げた話がまかり通るはずがない! ふざけるな!」


アーサーが大声で恫喝した。


しかし、カッサンドラは怖じけずに彼を睨みつけている。


「ほぉ、カッサンドラ、お前は何か言いたいことがあるようだな」


カッサンドラに近づいて口の布を取り除く。


はぁっと大きく深呼吸すると、彼女は瞳に涙をいっぱいに浮かべアーサーに向かって訴えた。


「私が教えたことを悪用してこんなことを謀るなんて! リヴァイ殿下も私も王位に興味はありません。なぜそんなに王位に執着するのか分かりませんが、王位なら差し上げます。私たちは静かに生きていきたいだけです! だから放っておいて!」


にんまりと笑うとアーサーは、無遠慮にカッサンドラの顎に指をかけて上を向かせた。


リヴァイの顔が怒りで紅潮するが声は出せない。そんなリヴァイをアーサーは嘲笑った。


「ああ、そうだ。分かっている。だから、お前たちにはこの国を出ていってもらう。追放だ。俺たちの利害は一致している。それなのに伝統だとか何とか言って反対する愚かな輩がいて困るんだ」


国王夫妻とウィリアムは同時に抗議の呻き声をあげた。


リヴァイはただ心配そうにカッサンドラを見つめている。


ウィリアムの頭は怒りで沸騰しそうだった。


この愚か者は一体何を言っているのか? 第二王子とフィッツロイ公爵家の令嬢を国外に追放するだと!?


「ああ、面倒くさい奴らが多くて嫌になる。だから、イヴをカッサンドラにすることに決めた」


アーサーがイヴの肩を抱きながら高らかに宣言し、その場の誰もが呆気に取られるしかなかった。

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