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15.食事

*ティア視点に戻ります(#^^#)

ティアは溜息がでないように注意していた。


その日の夕食は、正餐室でサイラスと向かい合って食べないといけない。


サイラスに自分にして欲しいことはあるか質問した時は、まさかそんな返事がくるとは想定外だった。


『俺が君を愛することは一生ない』


彼は確かにそう言った。つまりティアと親しくなることは何もしたくないのだろうと思っていた。


みんなで楽しくおしゃべりしながらの食事が懐かしくて、正餐室の豪華なテーブルに座っているティアは俯いた。


向かい合うサイラスはむすっとした顔で腕を組んで腰かけている。

気まずい沈黙が続いた。


タマラとカーラが飲み物と前菜を運んでくるとティアはホッと安堵の息を吐く。カーラがティアを励ますように片目をつぶった。


いつもにこやかなタマラが不機嫌そうな顔でサイラスの前に皿を置く。


弱りはてたサイラスが「おい、まだ怒っているのか?」というのを無視して、二人は出ていった。去り際に、タマラはティアにはにこりと微笑みかけてくれた。


ふぅっと息を吐いたサイラスが首を振りながら前菜の皿に視線を移動させると、その目が大きく見開かれた。


「これはなんという食べ物だ? 初めて見る」


呟いたサイラスにティアはつい答えてしまった。


「こちらは舞茸というキノコの揚げ物です。私とカーラが森で集めてきたものです」


サイラスの表情が少し不安そうに曇った。


「確か七~八年前に間違って毒キノコを調理して売ったせいで何十人も死者がでた事件があったな……」

「あ、では私が毒見しましょう」


ティアが慌てて言うと、サイラスは「いや」と首を振った。


「ジェイクが君の知識は本物だと太鼓判を押していた。俺も君を信じるよ。しかし、変わった料理だな」

「小麦粉と水を練ったものをからめて揚げました。味付けは塩胡椒のみでお召し上がりください」


からっと揚がった舞茸は噛むとさくっと音がする。そして口の中でじゅわっと熱い旨味が広がるのだ。


「これは、美味いな」


一つを食べ終えてサイラスは思わず感嘆の声をあげた。


「良かった!もう一つは紫蘇という葉です。やはり森で見つけました。葉の片面にだけ生地をつけて揚げました」


「ふむ」と言いながらサイラスは大きな口で紫蘇の揚げ物に噛みついた。さくさくっという音と同時にふわりと爽やかな匂いが鼻をくすぐる。


「これも美味いな。こんな美味い食材が森でとれるのか?」

「はい! 私はずっと自分で食べ物を探さなくてはならなかったので、自然の中で食べられるものを見つけるのは得意なんです」


ティアが胸を張るとサイラスがくすっと笑った。いつもは鋭くて怖いサファイアの目が柔らかく弧を描き目尻が下がる。


「あ、あの、申し訳ありません。出過ぎたことを申し上げました」


小さくなって俯くとサイラスがこほんと咳払いした。


「あー、俺は君のこれまでの生い立ちを全然知らないんだ。城の使用人はみんな知っているのに……」


自分だけ知らないのは不本意だとばかりに少し口を尖らせるサイラスは、急に子供のような表情を見せる。


「も、もちろん、旦那様にもお伝えいたします。大変申し訳ありません。これまでお話しする機会もありませんでしたので……」

「いや、それは俺が悪いから……嫌なことを言ったり怖がらせたり、君も災難だな、こんなろくでもない夫を持って……」


サイラスがきまりわるそうに頭を掻く。


苦笑いをしながら影のある表情を浮かべるサイラスに興味が湧いた。


ティアは彼のことをもっと知りたくなった。


「私の話は楽しいものではございません。食事の時にはそぐわないものです。なので、食事の後、お茶を飲みながら私の生い立ちを聞いて頂けますか?」

「ああ、分かった」


フォークをテーブルに置いてサイラスは返事をした。真摯な眼差しにティアの頬が熱くなる。


「そして、旦那様の話も聞かせてくださいね。私の話だけ聞くのはずるいです」

「え、待ってくれ、それは、面白い話ではないから……」


端整な顔立ちが狼狽して崩れる。それでも魅力的なのだから美形は得だ。


「私の話だって面白くはないです。いきなり全部話せなんて言いません。話せる範囲で構わないので、お願いします」


真剣な表情で頭を下げると、サイラスも真面目な顔で「そうだな」と頷いた。


***


その後のメニューも二人はおおいに楽しんだ。


次に出てきたほうれん草の冷製ポタージュスープはさっぱりした味で飲みやすい。


「冷たいスープとは初めてだ。美味いものだな」

「菜園で収穫されたばかりのほうれん草なので新鮮なんですよ」


サイラスに褒められると嬉しい。満面の笑顔で菜園をアピールすると何故か彼の頬が赤く染まった。


「菜園と家畜小屋も君が作ったと聞いた。大したものだ。……あのジェイクも君のことを絶賛していた。正直、驚いたよ」


ジェイクも自分を褒めてくれていたと聞いてティアの顔がほころんだ。サイラスは肩をすくめて大袈裟に溜息をついた。


「セドリック、タマラ、カーラ、リチャード、ジェイクは全員君の味方だ。領民からの人気も高い。テイラー男爵邸から七年間一度も外に出たことがないと聞いたから、てっきり人と関わるのが嫌いなのだと思っていた」

「後でお話ししますが、自分の意思で外に出なかったわけではないですから」


声に棘が混じるのを止められなかったが、サイラスは何も言わずに食事を続けてくれた。


主菜も風変りなメニューだと感じたのだろう。黄色い半月形を見てサイラスの目が丸くなる。ティアは得意気に料理の説明をした。


鶏肉、マッシュルーム、玉葱、トマトを細かく刻み米を混ぜてコンソメスープで煮詰める。溶き卵に砂糖と少しの塩を加えてフライパンに広げ、卵に軽く火が通ってきたら、煮詰めた米を加え卵で包むようにする料理だ。


「これらの食材も君が育てたものだと聞いた。すごいな」

「卵はメアリたち鶏部隊が頑張ってくれています。トマトと玉ねぎは菜園から、マッシュルームは森から集めてきました」

「鶏に名前をつけているのか?」

「あ、はい、私にとって七年間命を支えてくれた大切な友達なんです」


ふむ、と興味深そうにサイラスはティアを見つめた。


「それも後で話してくれるんだな?」

「はい」

「ならいい」


サイラスはスプーンを握ると猛烈な勢いでメインの食事を食べ始めた。あっという間に皿がきれいになる。


「はぁ、美味かった」


そう呟くとサイラスはグラスに入っていた白ワインを一気に飲み干した。


「お気に召して良かったですわ!」


まだ三分の一も食べていないティアは微笑んだ。


「あ、すまない! 美味かったのでつい……君はゆっくり食べてくれ」


頭を掻きながら恥ずかしそうに詫びるサイラスは思いのほか少年っぽく見える。そして一緒の食事を自分も楽しんでいることにティアは気がついた。

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