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第7話『はじめての友達はサイコさん』

この世界に転生して、初めてのお友達から貰った物は、毒入りの紅茶でした……。


誰だよ! ただ話をするだけなんだから大丈夫とか言ってた奴!


初手から殺意マックスじゃないか!


偶然私がエルフで、微量な魔力を感知出来たから、紅茶の中に含まれる異物に気づけたものを!


私がエルフじゃ無かったら、ペロッ。これは青酸カリ! ぐえー! シーナ姉ェェエエ! となる所だ!


まったく、気を付けて欲しいものだな!


「……毒入りのお茶とは、随分な歓迎ですね」


「あら。気づいたのね。益々私のコレクションに加えたくなったわ」


「コレクション?」


「そう! これよ! 私のお人形さんコレクション!」


アイヴィちゃんはニコニコと笑いながら、椅子から立ち上がり、私の手を引っ張って立たせながら部屋の奥にあった扉に向かう。


そして、開かれた先にある光景に、私は思わず思考が止まってしまった。


何故ならそこには多くの女の人が同じような母性たっぷりの顔で微笑みながら並んで座っていたからだ。


「ひぇ」


皆メイド服を着ているというのもホラー感が高い。


いや、ずっと笑顔でいるというのも中々に恐怖だ。黙って笑ってると美人さんって怖いのよ。


「どう驚いた?」


「……えぇ」


これ見て驚かない奴が居たら見てみたいよ。


ホラー耐性強すぎだろ。


廃病院とかで、電話が突然鳴っても何も動じないで電話に出るタイプの人間だわ。


「私の国にはね。初夜権っていう決まり事があるんだけどね? お父様はもう年だし、お兄様は潔癖で「民の自由を奪う権利がどこにあるー!」なんて怒っててね。この決まり事を廃止しようとしてたんだけど、お兄様が要らないなら私が欲しいって言って貰ったの!」


「……」


「それでね。くふふ。私の傀儡魔法で、お人形さんにしたのよ? どう? 素敵でしょ」


何処がやねん。


何も素敵じゃないねん。


というか薄々感づいていたが、この女もサイコか!


『春風に囁く恋の詩』は度々敵にサイコキャラが登場する事でも有名だが、まさかゲームに登場しないようなキャラにもサイコが居るとは……そりゃ主人公達がちょくちょく出くわす訳だよ。


ありふれてるんですね。サイコさんが。


どうしようもねぇ。


「あら。反応が悪いわ。まだ傀儡魔法は使って無いのに。どうしたのかしら……あぁ、そうかぁ! お友達の事が気になるのね!? うんうん。それはそうよね。どんな子がお友達になるか分からないと怖いものね。分かるわ」


いや、もう貴女とお友達になるのは無理そうなんですけど。


正直許して欲しい。


このままここに居るくらいならエルフの里に帰りたいレベルだよ。


いや、帰らないけど。


「じゃあ、私の一番のお気に入りを紹介してあげるわ。この子! エミリーよ! どう? 可愛いでしょう? 去年手に入れたばかりなのよ? 年齢は14歳でね。同じ村で育った幼馴染の男の子と結ばれようとしたのよ? 初恋なんだって言ってたわ。でね。それでね? 何と、初夜権が嫌だからってこの国から逃げ出そうとしていたの! どうしても初めては幼馴染にあげたかったんだって。うんうん。泣ける話だよね」


「……」


特に聞きたくもない話をひたすら聞かされるのって結構な苦痛ですよね。


えぇ。分かります。


正直私も今すぐ逃げ出したいくらいだよ。


でもね。さっきから私の両肩を後ろにいるメイドさん達が掴んでいて、実は逃げるどころか動く事も出来ないんですよね。


ハハッ、笑える。


いや、マジでヤバい。どうしようこれ。


今はとりあえずアイヴィに気持ちよく喋らせて隙を伺ってるけど、本当にどうしたものか。


「そんなに心配しなくても、お父様はもう使う気が無いし、お兄様は興味が無かったのにね。知らないっていうのは罪だわ。ふふ、くふっ、だからね。私、わざわざ二人の逃亡計画をギリギリまで見逃してあげたの。兵士から二人の話を聞くたびにドキドキしたわ。これからこの二人はどうなっちゃうんだろうって!」


アイヴィはエミリーちゃんの頬を撫でながら笑う。


どう考えても、どう好意的に受け取っても、エミリーちゃんにとって最悪の事しか話していないというのに、エミリーちゃんは何も変わらない笑顔を浮かべているばかりだった。


「そして逃亡の当日。私たちは国境付近で二人を待っていたわ。いつ来るかな。まだかな? まだかなって待ち続けて、それで、遂にその姿が見えた時、私嬉しくなって思わず隠れていたのに、跳び上がってしまったの。そしたら、エミリーの嬉しそうな顔が、最初は訳が分からないって顔だったのに、兵士が自分たちを囲んでいると分かったら顔を青ざめさせていってね。ガクガク震え始めたのよ! どう? 面白いでしょう!?」


いや、今の話のどこに笑うポイントが……?


「でもね、私。怯える二人の姿を見ていたら、何だか可哀想になっちゃって。チャンスをあげたの。二人の愛を試すチャンスだわ。真実の愛があれば乗り越えられる。そんな機会をね。二人にあげたの」


正直嫌な予感しかしない。


ここから先の話はまったく、全然これっぽっちも聞きたくない。


のだけれど、話ながら大変興奮してらっしゃるアイヴィは私の気持ちなど完全に無視して話を進めるのだった。


「もし、これから何が起きても愛を信じ、貫くことが出来れば見逃してあげるって言ったの。そしてね。幼馴染の男の子にね。さっきシーラにあげたお茶と同じお茶を飲ませて、それから罪の告白をさせたわ。ねぇ。エミリー。あなたが言われた言葉をシーラに教えてあげて?」


「はい。アイヴィ様」


エミリーちゃんは淡々とした口調で話しながらも、顔だけは笑顔で語り始めた。


涙を流しながら。


「エミリー! 俺はお前のことなんか好きじゃなかった!」


「本当はお前のお姉ちゃんが好きだったんだ」


「でも高嶺の花に頑張って挑むより、手頃な花の方がいいだろ? お前だって俺のことが好きだったんだから別に良いよな?」


「でも良かったぜ。初夜権の相手がお姫様だったなんてさ。これでエミリーの初めては俺も楽しめるってことだもんな」


「でも、そう考えたら惜しいよな。俺もお姫様とヤリたかったぜ。エミリーお前が羨ましいよ」


「こんなことなら逃げることなんてなかったんじゃないか?」


「あーあ。俺も貴族に生まれてりゃあな。遊べたのに、残念だぜ」


「ま。でもエミリーとヤレるだけで良いか。それくらいの得が無きゃエミリーを選んでやった価値がないもんな」


私は怒りのままにメイドさんたちの手を振り切って、地面に右手を叩きつけた。


そして、ようやく見つけたエミリーちゃんとアイヴィの間にある魔力の線を無理やり引きちぎる。


「……あ、ぇ? わたし」


エミリーちゃんは突然のことに呆然としていたが、すぐにエミリーちゃんを私のすぐ近くへ転移させて、アイヴィからの魔力干渉を断ち切った。


「エミリーは私の物なんだけど?」


「違います」


「……あなたは、貴女様はまさか」


「エミリーちゃんはエミリーちゃん自身の物です。決して貴女の所有物ではない!!」


私は燃え滾るような怒りに反応して吹き荒れる魔力をそのままに、アイヴィを睨みつけた。


「エルフ様……!」


「シーラ!!」


エミリーちゃんの声と、アイヴィの声が重なり、全員の視線が私に向けられる。


そして私は、嵐の中心で右手の人差し指を真っすぐにアイヴィへと向けた。


「何人たりとも、私の前で、暴虐は許しません! ここに居る人は、私が全て救います!」

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