第7話
星が空に瞬く頃、教会の周辺では動きがあった。
──あれか。
教会の周囲に生えた背の高い木。
その上に登ったカレルが教会へと続く一本の道を行く灯りの行列を見た。
カレルはあらかじめ修道士や神父に対しては今日は決して近付かないように伝えてある。
これからここに来る者は改革派の人間でほぼ間違いない。
木の上から観察を続けるカレル。
松明が近付いてくるにつれてカレルの表情も険しくなる。
──12人、武器はなさそうだな。
教会の正面から堂々と入っていく彼等を見ながら、彼等の武器などにも目を配る。
幸いにして、武器を持っているような人間は居なかった。
仮に持っていたとしても短剣、銃剣の類か暗器程度だろう。
「さて、それじゃお仕事といきますか」
カレルは険しい表情のまま、懐から出した小瓶に入ったベルガモットの香水を首に付けた。
柑橘の爽やかな香りを身に纏いながら木の上から音もなく飛び降りるカレル。
彼の瞳には静かな闘志が宿っていた。
教会の中では集まった男達が長椅子に座り会議のようなことをしていた。
「一体いつになったら俺達の目的は達成されるんだ? もう限界だぞ」
「王様に税で金から物からとられていくのはもうまっぴらだ」
「あのクソ王を早いとこぶち殺してやりてぇよ」
などと中身のないただの愚痴のようなことを口走っている。
余談だがスウォンツェ王国は、いや国王は彼等に対してそれほどのことを言われるだけのことはしていない、むしろ良政だろう。
学校を建て、道を作り、治水工事をし、病院と薬を作り、学者に補助金を出して新しい技術を作るために動いている。
「けど改革派はもう結構な数いるはずだ。勢いに任せて突っ込めばいくら王様が強いっていったって……うん?」
「どうした?」
暫く喋っていた男が眉根を寄せ鼻をならし始める。
何かが焦げたような匂いが漂ってきていたのだ。
「なんだ? 煙……?」
「おい嘘だろ!? 燃えてるぞ!!」
男達がいる教会の中に煙が入り込みつつあった。
そして煙の出所は……正面の門だ。
扉の隙間から入ってくる橙色の炎があった。
「裏に出口があったはずだ! 逃げろ! もたもたしてると焼け死ぬぞ!」
窓は高い位置にあって出られない。
あわてふためいた彼等は修道士達が使う出入口から逃げようと殺到した。
だがそこは本来1人づつ出入りする場所、当然狭い。
「どけよ!」
「うるせえ俺が先だ!」
言い争いをしながら我先に出ようとする彼等。
やっとのことで1人が外へと出ることに成功したのだが……
「クソ。なんで火事なんて起きたんだ全く」
外に出て、まだ出てこれない仲間を見ながら悪態をつく男。
彼等は慌てていて気付かなかった。
それが放火であったことに。
漂ってくるベルガモットの香りに。
「がっ──」
「ひいいい!?」
外に出た男は頭を叩き割られた。
月灯りを受けて鈍く輝く山刀によって。
前を見ればマスケット銃と山刀をそれぞれ片手で構えている男……カレルがいる。
「てめぇよくもやりやがったな!!」
叫ぶ男達に向かって、カレルは容赦なく銃を撃った。
白煙と共に銃口から吐き出されたのは複数の弾が詰まった散弾。
当てられた男達は傷口を押さえて転げ回る。
「な、なんなんだお前は! 俺達は改革派の戦士様だぞ!! こんなことしやがって!」
「戦士なら戦えよ」
カレルの持っているマスケット銃は一度発砲すればもう使えない。
銃口に銃剣を付け、逃げ惑う改革派の男達を狩りに前に出る。
離れた男には山刀を投擲し、椅子や石を持って向かってきた者には銃剣が突きこまれた。
特に感想などはない。
ただただ一方的に、無慈悲に、無感情に、カレルの仕事はそれでいい。
やがて悲鳴も聞こえなくなってくる。
朝日が登るのを待つ必要すらもないだろう。