第6話
翌日の正午、ユスティナの部屋。
「ねぇ、カレルはどうしたの? 今朝から姿を見ないけど……もしかしてクビになった?」
男の教師に教えてもらいながら算術に励むユスティナ。
彼女は朝からずっと姿の見えないカレルのことが気になって教師に聞いてみた。
「カレルさんは確か王から使いを任されたとかで外に出ております」
「そう……私が頼んでおいた仕事はしないのにお父様の言うことには従順なのね」
不貞腐れるユスティナに、教師は答える。
「カレルさんは料理をきちんと買ってきていましたよ。王がそれを見て止めたのです」
「え?」
握っていた羽根ペンを置いて、緑の瞳を丸くするユスティナ。
「ユスティナ姫、貴女は王族なのですよ? そのようなお方が庶民の物を食べるなどということはお止めください」
「…………」
「ユスティナ姫には、私がしっかりと王族にふさわしい振る舞いというものをお教え致します」
笑みさえ浮かべながら話す教師に、ユスティナは目を伏せた。
「……私が本当に知りたいことは、貴方には教えられないわ」
「何か?」
窓の外を見ながら小さく漏らしたユスティナの言葉、その言葉が教師に届くことはなかった。
ユスティナが勉強している中、カレルはというと……
「はじめまして。カレルです」
「どうも、神父のヤクブと申します。貴方が……その」
「ええ、王からの使いです」
教会の前で握手を交わすカレルと神父。
カレルは今、王からの命令で南にあるラス教会へと出向いていた。
周囲を森に囲まれた場所にその教会は建っていて、何もなければ木漏れ日の差し込むいい場所だ。
それほど教会自体も大きくはない。
そして神父は麻服に着替え、山刀とマスケット銃で武装したカレルを見て、眉をひそめていた。
「それで本題に移りますが……ここに改革派の人間が出入りしているのは間違いないんですか?」
「ええ、私も修道士達も教会に住んでいるわけではなく夜はここから近い場所にある自宅で生活しているんです。ですが夜になるとどうやら教会の中に侵入して会議のようなことをしているとか」
「それが改革派だと?」
教会の中に2人で入りながら、神父は続ける。
「たまたま忘れ物をとりに戻った修道士が目撃しています。王のいる城をどう攻めるか、改革をどうなすべきかなど。不穏な会話ばかりで」
「なるほど、人数は分りますか?」
「十数名と聞いております」
今は誰もいないようなので遠慮なく話せる。
ついでにカレルは教会の中の造りを見て回る。
教会の中は長椅子が並ぶ礼拝堂があるのみ、出入り口は修道士たちが使う狭い出入口が1つと礼拝に来た者の為の大きな門が1つだけだ。
──改革派が一般市民だけならどうとでもなるな。
カレルは夜を待って行動することにした。