第4話
ユスティナの部屋で手当てを受けるカレル。
王族に仕えている医者が近くにいたようで、カレルはすばやい治療を受けることができた。
そして手当てが終わる頃には窓から見える空は既に暗く、星が頭上で瞬いていた。
「大丈夫、なのですか?」
ルドウィクを押しのけ、ユスティナが恐る恐る尋ねてくる。
そして上の服を脱いでいるカレルの姿を見て、矢傷とは別に驚いたことがある。
カレルの身体は傷だらけなのだ。
頭や顔には特に何の怪我もない。
だが彼の背中や腹には切り傷や火傷の跡のようなものが無数にある。
一体何をどうすればこうまで傷がつくのかと思わず問いたくなるほどだ。
「このくらいの矢傷なら問題ありませんよユスティナ姫。今日はもうお休みになられた方がいい」
「こんな状況で寝られるわけがないでしょう!?」
ごもっとも。
「本で読みました。針の一本が刺さっただけで死んだ人だっています。矢に毒が塗られていて死んだ人も」
「大袈裟ですな。ですがこれで分かったでしょう? ここも最早安全と言える場所ではありません。貴女の言う血なまぐさい者の手を借りなければ貴女は3日と持たずに命尽きる」
カレルの言葉に、ユスティナはその綺麗な顔をそらす。
「……貴方を愚弄したこと。お詫びいたします。それと……ありがとう。私を守ってくれて」
「光栄です。ユスティナ姫」
そっぽを向いたままではあるが、ユスティナは謝ってくれた。
カレルとしてはユスティナの緑の瞳を見ながらその言葉を聞きたかったが、そこは妥協だ。
「さて、私は外で警備をしておりますので何かありましたらお声がけ下さい。ルドウィク殿、参りましょう」
「ああ、それでは失礼致しますユスティナ姫!」
窓から月明かりが差し込む廊下を歩きながら、カレルとルドウィクはヒソヒソと話をしていた。
ルドウィクが小さな声を出せるのかと思ったが、意外にもできた。
「命懸けで姫様を守ってもらって済まないが、暗殺者を取り逃がしてしまった。すまん」
「いえ……ルドウィク殿。改革派は一体どれだけいるのですか? 何か情報は?」
「あくまで予想だが……恐らく国民の3分の1は既に改革派に入る」
──やっぱりそれくらいはいるだろうな。
「話は変わるがカレル。俺がお前を呼んだのは腕もそうだがお前の人間関係も絡んでくる」
「ほう?」
「お前は友達も仲間もいないだろう?」
友達が居ないは余計だ、そう思いながらも話の腰を折らないために頷くカレル。
ルドウィクは立ち止まり、近くにあった窓に体を預けて夜空を眺め始めた。
「どの勢力にも属していないなら信用できる。加えて言うならお前には何度か仕事を依頼したこともあるからな」
「全部無茶な仕事ばかりでしたがね」
言うな、ルドウィクはそう言って笑った。
「まぁ、これからもよろしく頼む。改革派はできる限りこちらで対応する、お前は姫様と王様の言うことを聞いていてくれ」
「承知しました」
ルドウィクと一緒に見上げた夜空、カレルは月が見たかったがあいにく雲がかかっていた。