第2話
光のさす部屋の中、説明を受けた王は呆れ半分でカレルの事を見ていた。
「なるほど、『ベルガモット』と名に負う男がそなたという訳か。そなたの噂は私の耳にも入っている。相当に腕が立つとか」
「お褒めにあずかり感謝の極み」
書類仕事をしていた王は手を止めてカレルとルドウィクに視線を向けて話していた。
血まみれのカレルを見て王は顔を引きつらせていたが。
「ルドウィクが連れてくるなら信用はあるのだろう。いいだろう、雇ってやる。表向きは姫の警護をしろ」
「表向きは?」
「私がおおっぴらに動けない仕事を、そなたにはしてもらう。無論他言無用だ。約束を違えれば殺す。肝に命じておけ」
こうしてカレルは当面の間、王の娘の警護を任されることになった。
王から渡された金はルドウィクから受け取っていた金貨の倍はある。
休日ももうけてくれるらしくカレルにとっていい仕事だった。
さて、血まみれの服と武器を持ったまま姫君に会うわけにはいかない。
カレルの身支度を整えるためにルドウィクは城の近くにある使用人が住む館に案内した。
高さから考えるに恐らくは3階建て、白い壁に赤い瓦の屋根が特徴の館だ。
城と比べるとみすぼらしいがそれでもかなりいい住居である。
「今日からここに住んでくれ! 交代で姫様をお守りする!」
勢いよく開かれた館の扉、中には数名の使用人が賽子を振って賭け事に興じていた。
次の瞬間にはカレルに目が釘付けになっていたが。
「え、ええとルドウィク様……この方は一体?」
「ああ気にするな! 今日から入った新人だ! といっても姫様の警護を担当するから殆どこの館には居ないだろうがな! ハッハッハ!」
こうしてカレルは使用人に案内され一つの部屋に入っていく。
どうやら各使用人に一つの部屋が割り当てられているというものらしい。
部屋の中には豪華ではないものの一通りの家具や服が置かれ、窓からは陽光がしっかりと入ってきている。
「井戸は中庭にあります。服はその棚の中に。それでは私はこれで」
「ああ、ありがとう」
使用人の服に着替えたカレルはルドウィクと話をしながら中庭で血の付いた山刀を洗っていた。
この時点で空は赤く、日が沈みかけていた。
そんな時だ、城の方から騒ぎが聞こえて来た。
慌てて城へと向かうと何やら城に居た使用人たちが外に出て上を見上げ叫んでいる。
「おおっと……これは」
「姫様!!」
彼らが視線を送る先に居たのは見目麗しい少女の姿、赤いドレスに身を包み、銀灰色の髪を靡かせていた。
彼女がカレルの守るべきお姫様なわけだ。
だが彼女は今、3階の窓から僅かな足場を頼りに外へと出ていた。
転落寸前だ。
「……ルドウィク殿、まさか彼女が姫様なので? あの方を?」
「そうだ! とりあえず今はお助けするんだ! 姫様!?」
慌てふためくルドウィクをよそにカレルは姫様の下へと走っていく。
が……
「きゃっ!」
短い悲鳴と共に、姫様は壁から下へと落下。
赤いドレスをなびかせそのままでは地面に激突するだろう。
「おっと……」
重力に従い勢いよく落下する姫様、何とか滑り込んだカレルが両の手で受け止めた。
「貴方……誰?」
抱きかかえられたまま、姫様はカレルを真っすぐ見ながらそう言った。
「こんにちわ。お転婆なお姫様」
これが『ベルガモット』と謳われるカレルと、スウォンツェ王国の王女、ユスティナ・レヴァントフスキとの最初の出会いだった。