第1話
翌朝、死体が転がる荒野でカレルは白けていく空を見ながら寝っ転がり、革袋に入っている葡萄酒を飲んでいた。
「ごっほごっほ……がふっげほごほ」
むせた。
「カレル!! クソッタレのカレルはいるか!?」
葡萄酒を吐きながら盛大にむせていると荒野の向こうからカレルの名前を呼ぶ者がいる。
声のする方向へカレルは視線を向けた。
彼の視線の先にいるのは馬に股がり、青い衣装と長い槍を装備した兵士達の集団。
スウォンツェ王国の近衛兵だ。
そして先頭は彼等の隊長ルドウィクだ。
「これはこれは、王国近衛兵の隊長さんがわざわざこんなところまで。ご苦労様です」
「カレル! 良かった生きていたか!」
近衛兵の隊長ルドウィク、彼には欠点がある。
声が大きすぎるのだ、お陰でカレルは毎度毎度耳に指を入れて話を聞くことになる。
「『改革派の集団がたむろしているから手段は問わないから片付けてくれ』と、まさか俺1人でやらされるとは思いもしませんでしたよ」
「何を言ってる? お前は毎度1人で仕事をするだろうが! まぁいい今回の礼金だ! 受けとれ!」
「ありがたく」
カレルはルドウィクが投げて寄越した革の小袋を受けとると中身をあらためる。
金貨が数枚入っている、これだけあればしばらくは贅沢な暮らしができるだろう。
「それでカレル! お前に次の仕事を与えようと思うのだ!」
「突然ですな。して何の?」
「いつも通りの命がけの仕事だ! やるか!?」
ルドウィクの問いに対し、カレルは口角を吊り上げながら言った。
「名誉ある仕事ならば喜んで」
ルドウィクは上がってくる太陽にも負けないほどの笑顔を浮かべた。
ルドウィクの馬に一緒に乗り込み、途中休憩をはさみつつ走り半日。
カレルが連れてこられたのは巨大な白亜の城。
「はー、立派なものですな。さぞ高貴な方のお住まいとお見受けしますが」
「そりゃそうだ! 王の城だからな!! ハッハッハ!!」
「え?」
目の前に広がるのは綺麗に切り出された石を積み上げて作った高い城壁とその周囲に掘られた掘。
高くそびえる白い城はおとぎ話にでも出てきそうな壮麗さを誇る。
そんな場所に、カレルのような傭兵を連れてくるのか?
「ルドウィク殿、次の仕事というのは……」
「王族の手となり足となるのだ!」
「あー……」
王の手駒として働け。
ルドウィクはそう言っているのだろう。
「私で良いのですか? 私は近衛兵ではなく一介の傭兵ですよ?」
「お前は腕が立つからな! 問題ないさ。開門!!」
ルドウィクがそう叫ぶと、城に取り付けられた分厚い扉が開かれる。
「さぁ行こうか。くれぐれも粗相の無いようにな」
開門と共に入っていく青い衣装の近衛兵達。
彼等を待っているのは多くの使用人や槍で武装した兵士達。
城の中にある広い庭には噴水があり、色とりどりの薔薇が咲き乱れていた。
「これはまた、どれだけのお金があればこんなことが出来るのか」
「素晴らしい場所だろう? 私も誇らしいわ! ハッハッハ!!」
ルドウィクの笑い声を聞きながら、カレル達は馬を降り石造りの城の中へと入っていく。
使用人の多くは近衛兵達に対して恭しく礼をとるが、カレルに対してだけは違った。
疑問と、まるで汚らわしいものを見るような目で見てくる。
──まぁ、仕方ないか。
今のカレルは切り殺した改革派の返り血まみれ、そして大きな山刀が2本とマスケット銃まで持っている。
近衛兵に連れられてきた賊と思うほうがまともだろう。
「さぁ、ここが王の部屋だ! 行くぞ!」
城の中を歩き回りたどり着いた1つの部屋。
精緻な細工が施された木製の扉を前にルドウィクがそう言った。
ここが王の部屋らしい。
ごくりと唾を飲み込みながら、王の部屋へと入っていくルドウィク達。
赤い絨毯が敷き詰められた部屋の中には深い皺の入った男が使用人と共に座っていた。
これが王なのだろう。
「我が王、此度は役に立つ男を連れて参りました! カレルです!!」
ルドウィクの声に王様はただ顔をしかめこう言った。
「もう少し声量をおとせ」