狐憑き巫女は和菓子に喜ぶ
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
神戸の悪霊騒動を無事に解決し、後は凱旋あるのみ。
そうして往路と同じ顔触れで渡月橋を越えた時には、本当にホッとしたよ。
この深草花之美、嵐山の霊能力者集団である京洛牙城衆で戦闘の要を任されて久しいけど、仲間が傷付くのは見るに堪えないからね。
私は狐憑きの家に生まれたから身体も頑丈だけど、他の皆はそうじゃないもん。
他の皆にも狐憑きの力があれば良いけど、深草家の血が必要なのが難しい所だよ。
『私達が結ばれたら、武信さんの飯綱使いの力と私の狐憑きの血を継いだ子が生まれる筈。そうすれば…』
こう考えながら傍らの束帯姿を一瞥すると、思わず顔が赤くなっちゃうな。
何せ私と稲倉武信さんは、今や単なる戦友以上の仲だもの。
そんな私の思いを知ってか知らずか、武信さんは驚くべき一言を告げたんだ。
「御雇外国人の洋館に潜入した花之美さんの洋装姿は、実に美しかったですよ。あのような装いも新鮮ですね。」
「本当ですか、武信さん!」
あの洋装姿が、美しい?
思わず狐耳と尻尾が硬直しちゃったよ。
私は普段着が和服だから、洋装は落ち着かなかったの。
今一、気合が入らないんだよね。
でも武信さんに褒めて貰えたなら御の字かな。
とはいえ執事に扮した武信さんも、それはもう素晴らしかったね。
まあ、普段の束帯姿が一番だけど。
こうして嵐山に無事帰還した私と武信さんは、参集殿の食堂で細やかな祝賀会と洒落込んだの。
「沢山注文されましたね、花之美さん。連戦で御疲れですし無理もないでしょう。」
「御萩に大福、それに御汁粉…どれから召し上がりましょうか!」
御盆に並んだ和菓子を目の当たりにすると、思わず頬が緩んじゃう。
武信さんが言うように、消費した気力を補おうと身体が求めてるんだろうね。
「神戸の異人館での賄いは洋食でしたからね。こうした品の方が我々には合うのでしょう。」
「絹掛雅さんなどは、ケーキやクッキーに喜んでおりましたけどね。『南蛮菓子は美味しいです!』と騒いでましたよ。」
あの後輩の子にとって、今回の任務は役得なのかもね。
「それにしても花之美さんは、小豆の和菓子が御好きですね。随分と頬が緩んでますよ。」
「昔から小豆や油揚げには目が無いのですよ。五穀豊穣を願う狐憑きの血がそうさせるのでしょうね。」
笑顔の武信さんに頭を掻いて応じた私だけど、今日の和菓子は一際美味しく感じられそうだよ。
だって今日は武信さんと、互いの無事と勝利を祝いながら食べるんだからね!