表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アクマが暮らすテンシのセカイ  作者: 3ur4t4.5h0z0(村田庄蔵)
1/5

何気ない朝

初投稿。

ある湖畔にて。


一人が、背もたれが小さい椅子に座っていた。


その4脚の椅子は木で作られてはいるがニスも塗られておらず、ただ釘で固定しただけ、しかも脚の長さもバラバラでその一人が少し重心をずらすだけでガタンと動いた。湿った土の上にそんなものを置けばどうなるのか分かりきったことだが、その一人は全く気にする素振りも見せなかった。


ただ、風に揺れる水面を見ているだけ。辺りは風の音しか聞こえてこない。その静寂を破るように、椅子に座っている一人の後ろに立っていた別の男が彼に声をかけた。


「どうか、聞き入れくださいますよう...何卒...何卒...」


話しかけたのは黒い頭に白いものが混じり始めた男だったが、片膝を地面につけてすすり泣くような声を出して椅子に座る一人に話しかけた。


椅子に座っていた一人は後ろに重心をかけた。また、椅子の重心がずれる音がした。その一人はそれだけしかしなかった。その様子を見て、男は顔に喜色を浮かべ、安堵するように1つ、2つを息を吐いてなにも言わずにその場を去った。


椅子に座っている一人は、最後まで話かけた男の方を向くことはなかった。


また一人、別の者が椅子に座る一人の後ろに立った。


「おい、いつまで黙りこくってるつもりだ。さっさとしろ。ヒューザー様を待たせるつもりか。」


その男は見て判るように子供だった。着ている服はモノトーンの燕尾服だったが、細かな装飾からその身分を伺わせた。


椅子に座っていた一人が、重心を変えて2本脚で自立させた。そのまま、前に重心を寄せた。またあの音が響いた。後ろに立っていた男は、消えていた。


訪れる者が居なくなったとき、はじめて椅子から立ち上がり、辺りを歩き始めた。その様子は、まるで人間だった。


着ているモノトーンの服に特に細かな装飾はない。何かネックレスや指輪やらをしているわけでもない。


彼の名は、ジョリー・リーベ。悪魔である。真っ黒な髪に瞳と全く同じ色をしている虹彩。決して悪魔の中で珍しい配色ではない。それでも異質に扱われるのは2対の大きな黒い翼と、唯一の装飾である喉仏に引かれた黒い線を持つからだ。


彼はしばらく歩き、黒い穴のある地点にやってきた。その穴を背を屈めながらくぐると、そこは暗い部屋の中で足元には誰もいない1人用の布団があった。自らの姿を変えてその布団に潜り込んで、眼から先を掛け布団から出した。


3分ほどした頃だろうか。充電コードに刺さったままのスマートフォンから音楽が流れ始めた。5:12という数字とともに表示されているアラームを解除し部屋のドアを開け、少しの廊下を歩いた。


そのままリビングを覗いてみたが、リビングには誰もいなかったため部屋へと戻り、服を改めてから玄関を出て、辺りの住宅街を走り始めた。


何のために走るのか、など考えたこともない。ただ走って息を上げ、また走る。この繰り返しだ。だが人間はこれをする。だからこそ今人間の街にいるのだから。


長いこと走っていた。走り始めは暗かったのにすでに陽はわずかに出ていた。彼はまた持っていた鍵を使って玄関のドアを開けた。いつも通りの物音がダイニングやキッチンの方から聞こえてきた。


リビングのドアを開け、ダイニングの方へと向かう。「おはよう」と3人それぞれに声をかけてから彼の席へと着いた。既に彼の席には茶碗によそわれた白米とパックに入ったままの納豆、それから水の入ったガラスコップと野菜と目玉焼きがあった。


「寒くない?大丈夫?」


どこか気遣うような声が隣の席から聞こえた。その声を無視して彼は小さく合掌してから箸を持って納豆を開け、反時計回りに混ぜ始めた。


いつも通り。至っていつも通りである。人間のふりをして人間社会に溶け込んで、人間というものを観るだけだ。

初投稿終わり。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ