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北風系ヤンデレと太陽系ヤンデレ  作者: 赤茄子橄
第2章 脱出〜幼馴染との再開
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第16話 出会いと旅の終わり1

スポーツドリンクの旨さに驚いてからおよそ3日が経過している。


その間、ネットカフェでシャワーを浴びて休憩を挟んだり、見かけたスーパーで軽食を購入して空腹を満たしたりしながら、自転車を走らせ続けてきた。


彩咲なら、家の力を使って警察に根回ししたりして、道にある監視カメラを調べたり、ネットカフェの利用履歴を調査したりすることで僕の居場所を突き止めてしまうかもしれない。


それをできるだけ回避するために、僕はできるだけ監視カメラがなさそうな道を選んだり、山の方に進んだりしながら、目的地もなく走った。

ネットカフェも、僕の実際の年齢では夜の利用ができないし、仮に出来たとしても、免許証やらの個人情報を提示しないといけないから、そこから彩咲に居場所が漏れる可能性は否定できない。


厳重すぎる注意かもしれないけど、彩咲の行動を常識の枠では買ってはいけないことは、僕自身が一番良くわかっている。

これでもまだ警戒が甘いくらいかもしれない。


だけど、これ以上びくびくしていたら進めるものも進めなくて、彩咲に見つかってしまうかもしれなかった。


だから僕は基本、必要な施設は日中に利用して、夜に移動するっていうコウモリみたいな夜型逃走生活を送っていた。



僕の地元からすでに800km以上は離れた場所にいる。



今いる街の名前を僕はこれまで聞いたことがなかったけど、どうやらかなり大きい街らしい。


この街の名前を最初に知ったのは、街を囲む山を超えて、道がある程度なだらかになったころに見かけた、高い電柱のようなポールの上に設置された看板だった。

何年も風雨にさらされ続けているのであろうその寂れた看板には、『常夜町へようこそ』と街の名前とともに還元の言葉が綴られていた。


地域の境にこうした看板があるのは別段珍しくない。

というかむしろほとんどの場合はこうした看板が設置されている。


暗い夜道の中、人気のない長い山道を越えて、不安と疲労でへとへとになっていた頃、やっとの思いでその看板のところまでこぎつけていた僕だったから、人里におりてこられたっていう安心感がすごかった。



別段変わった様子はない街だけど、休憩で立ち寄った高台から街全体をよく目を凝らしながら見てみると、街の反対側の端の方はかなり離れていて白い霧がかかっているようにも見えるけど、チラチラと緑が見え隠れていて、おそらく山岳に囲まれた地域なのだろうことがわかる。


そう、どうやらこの街は巨大な円形状に山に囲まれて、周りの地域からまるで隔離でもされているかのような場所らしいのだ。


だけど、だからといってものすごい田舎感があるのかといえば、むしろビルがたくさん立っていたり、都会と変わらない風景を映していて、朝日が上ってしばらくしてから、自分と同い年くらいのたくさんの学生と思しき人たちが制服を着て道を歩いているのも見えた。


過疎地域というわけでもないらしい。



何か......。地形だけじゃなく、ナニカ違和感を感じる気もするのだけど、しばらく考えてみてもその原因には一切行き当たることはない。

......まぁ、こんな感じの街くらい、どこにでもあるか。


今まで彩咲と一緒に都会のド真ん中に住んでいたから、そことの違いを感じているだけだろう。

そう楽観的に気持ちに整理をつける。


だけど僕は心のどこかで感じていた。

なんとなくこの街に定住することになるんじゃないかっていう、漠然とした予感を。




それからまたしばらく自転車を走らせて、街の中で見つけた銭湯に立ち寄った。


銭湯といってもスーパー銭湯に近いもので、レストランや休憩スペースなんかも併設された大きめのものだ。


これまでは背中に焼き込まれた『彩咲への忠誠を誓う焼印』の数々を他の人に見られたくなくて他人の前で背中を晒すようなことはできなかった。


というか、そもそも風呂の場合、入れ墨厳禁の銭湯とかも多いから。

僕の場合は入れ墨じゃなくてただの焼印だけど、似たような理由でお断りされることだろう。


そう思っていたけど、疲労が限界に来ていること、これまでの旅の中で入れたのはネットカフェのシャワールームくらいのもので、背間狭とした空間で心も体も休まらない日々に限界を感じていた。


疲労が羞恥心も破壊してくれたらしく、銭湯の中では時折少し視線を感じることはあったけど、それほど注目を集めたわけではないらしく、ゆったり過ごすことが出来た。


というか、少し周りを見渡してみたら、焼印はなかったけど、僕と同じように背中や下腹部におそらくパートナーの名前であろう文字を彫っているお客さんが驚くほど多く、僕のやつは全然目立ってなかった。


正直この異常な景色に恐怖と違和感を抱きはしたものの、僕にとって都合が良すぎる展開だったので、ノータッチということにして、羽根を伸ばすことにした。


まずは風呂で汗を流したり、すこし伸びたままだった髭をそったりしたあと、レストランで軽く食事をし、同じく建物内に用意されていた休憩スペースで数時間ほど仮眠をとった。


かつての生活との大きすぎる差。

あまりの極楽さに、風呂に入っているときも、ご飯を食べているときも、眠るときも、つい頬に涙がこぼれてしまったのを誰が責められるだろうか。


畳の休憩ルームで横になってややもなく、僕は夢の世界に入っていった。









とんとんっ。


「............さい。お......て......さい。」


とんとんとんとんっ。


優しく方を叩かれる感触と一緒に、遠くで声が聞こえる気がする。


優しくて柔らかくて、心地よくてそして、どこか懐かしい感じのする女性の声。


......誰だろうか。

僕がよく知る人の声を検索しても、当てはまる人は出てこなかった。


というか思い出そうとしても悲しいことに、洗脳が進んでしまっている僕の脳は彩咲の声を思い出すことしか出来ない。

愉悦にまみれた表情を浮かべながら僕が排泄物を頬張る姿を見おろしながら、「なぁくんはカワイイね♡」とこぼす彩咲の幻影が僕を苛む。


とんとんとん。


さらに肩を叩かれ、徐々に意識が現実世界に覚醒しだしたことで、さっきよりはっきりと声が聞こえた。


「お客さん、起きてくださーい。もう閉館のお時間ですよ〜」

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