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北風系ヤンデレと太陽系ヤンデレ  作者: 赤茄子橄
第0章 プロローグ
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第0話 プロローグ

「大丈夫。私は絶対にナナくんに痛めつけたり、恐い思いさせたりしないからね。だから私の胸の中で、ゆっくり眠っていいんだよ?」


母性だとか包容力だとか、そういう類のパワーに吸い寄せられて、ベッドで座っている彼女をただ無言のまま腰に手を回して抱きしめて横になる僕。


真霜(ましも)さんの腕に抱かれている間は、彩咲(ささ)と一緒にいたときのような恐怖を感じるなんてことはない。

そこにあるのは、ただただ絶大な信頼と安らぎだけ。


適度な柔らかさをたたえた胸元からは強烈な引力が発せられているような錯覚に陥るほど。

逃れられない、というか逃れようと思わないくらいには、すっかり溶かされてしまっているらしい。


「真霜さん......。僕は真霜さんのためなら、なんでも捧げられます。

お金も仕事もまともに持ってない、真霜さんに何もあげられない甲斐性のない僕ですけど、僕の人生を真霜さんに預けさせてもらっても、いいですか?」




本当に、今の僕にはなにもない。


自分の身体だって、現在の闇市場で良い金額の金に変換できる部位は腎臓くらいのもので、それすらも既に半分売り払ってしまった後だ。

僕が腎臓を売ったときは特に需要が高く、売るときの値段もかなりいい額になったのはラッキーだったとしか言えない。


片方だけで大体2000万で売れた。


仮にこれが手元に残っていたら、ある程度はゆったりとした生活もできたかもしれない。

まぁ、そういう現在はないんだけど。


正規の販売ルートなんてなく、闇取引に回すような黒い手順を踏む必要もあったから、手術やら売買の仲介手数料なんかを諸々ひかれた上で、手元に残ったのは1500万ほど。

押し付けがましい言い方になっちゃうかもしれないけど、その全額を真霜さんを救うために使って、すでに手元には1円も残ってない。



仕事だって、地盤がしっかりしてるわけじゃない。

高校中退の自分なんかを正社員として雇ってくれた今の職場には感謝しかないんですけどね。



そんな何もない自分でも受け入れてくれるのか。


口に出した言葉はほとんど無意識だった。

気づいたときには、自信のなさからくる情けない質問を投げかけてしまっていたんだ。




「もちろんだよ。それに、ナナくんに何にも無いなんてこと、ないよ。優しくて私のためにいっぱい頑張ってくれるし、愛情だって私だけにたくさん向けてくれるもん」



真霜さんが僕の頭を優しく撫でながら、穏やかな声をかけてくれる。


......正直、そういう優しい答えを返してくれるだろうな、っていう下心みたいなのありきで質問したみたいな部分はある。

ちょっと申し訳なさも感じるけど、やっぱり安心する答えをくれる真霜さんのことが、大好きだ。愛してる。







頑張るのも、愛情を注ぐのも、当たり前だよ。


僕にはもう、真霜さんしかいないんだから。

真霜さんはこんなにも安心をくれるんだから。



「それに、もしナナくんが私に何もくれなくても、全然いいの。私は、私を助けてくれたかっこいいナナくんに、私のすべてを受け取ってもらいたいだけなんだから」


これもすでに何回か聞かせてもらった、甘く優しい言葉。


僕に何もなくても許してもらえる。

僕からの見返りを求めないなんてどういう了見だ、って思うところだけど、彼女はこれまで行動でそれが本当だと示してくれている。



「ありがとう、真霜さん。真霜さんの全部を、僕にください。僕も、僕の全部をかけて、真霜さんに尽くします」



ようやく言えたプロポーズに、真霜さんはさらに温かい表情で僕を見つめ返して、甘やかにつぶやく。


「嬉しい............。ね、ナナくん。眠る前に、私と、1つになろ?」



この夜、僕は彼女、星迎真霜(ほしむかえましも)と、心も体も1つになった。



*****



まさか、そんな最高の夜を越えた次の日に、悪夢が再び目の前に訪れるとは思いもしなかった。

完全に逃げ切れたものだと思い込んでしまっていた。


彼女(・・)がそんなに諦めが良いわけがなかったのに......。

過去に比べて過度に幸せすぎる日々のせいで、危機意識が薄くなっていたんだと思う。



「なぁくん、ミツケタ」


ひっ......。


「あっ............。え......っと......、うぇ............。そ......の......」



たった数ヶ月前に僕が逃げ出した相手。


真っ暗な瞳に、いびつに口角が上がった口元。地の底から響くような声音、何もないはずなのに背後に見える溢れるような黒いオーラ。


見えない左側から一歩一歩地面を踏みしめてじっくりと視界に侵入するように、威圧するようにゆっくりと接近してくる。


その表情、その声、その雰囲気。どれもがあまりにも恐くて、言葉がうまく紡げない。




「本当に。本当に本当に本当に本当に本当にほんとぉ〜〜〜〜〜に、たくさん探したんだよ。なぁくん成分が足りなくて、危うく狂っちゃうところだったよ。

いや、今も狂いそうだけどね?目の前の光景が信じられないんだよね、どういうことなんだろうね、なぁくん?」



キミは昔から狂ってるよ、なんて言葉を出せるはずもなく、ガタガタと細かいビートを刻む身体の震えを止めることができない。


隣に真霜さんがいてくれなかったら、手を繋いでいてくれていなかったら漏らしてしまっていたと思う。


一瞥したあとは真霜さんを無視するように、かろうじて正気を保つ僕だけをその昏い双眸に映して、近寄ってくる悪魔のような彼女、彩咲(ささ)



「ねぇ、なぁくん。いいえ、夏凪晴(ななは)ぁ? どういうこと? その女は何? 急に彩咲の元からいなくなったと思ったら、なに、浮気するためだったの? だめでしょ、夏凪晴の全部は彩咲のものなんだよ? あれだけ言うこと聞くように教えてあげたのにまだわかってなかったなんて、彩咲は悲しいよ。ほら、こっちに戻っておいで?」



彼女は光を宿さない瞳を瞬きで閉じることもせずに僕を突き刺し続けたまま、片腕を前に出しておいでおいでをする。


僕らと彼女の距離はおよそ10m。


場所はなんでもない住宅街の道の真ん中。

昼間のこの道の人通りは少なく、目に見える範囲に助けてもらえそうな人は見当たらない。


仮に誰かいたとしても、こんな痴話喧嘩みたいなものに好き好んで巻き込まれてくれる物好きはいないかもしれないけど。



「ふざけたことを言わないで。あなたが織女(おりめ)さんね。話は聞いてる。でも残念、ナナくんの全部はもう私のものよ。あなたが諦めて大人しく帰ってくれれば全部丸く収まるのよ」



若干煽るようなセリフを吐く真霜さん。



「......は? なんでお前が答えるの? 彩咲は夏凪晴に聞いたんだけど。つーか、夏凪晴があんたのものですって? 何意味分かんないことほざいてんの?」


「残念だったわね、私とナナくんは昨日、1つになったの。ナナくんがたくさんリードしてくれてね? 生でシたよ。赤ちゃんもできちゃうかもね」



普通なら恥ずかしいカミングアウトに照れてしまうところなのかもしれないけど、状況がそれどころじゃない。

まぁ、すでにこのやり取り自体が異常だから「普通」を語るのもおかしいけど。


「......嘘だよね、なぁくん......? 私とだってまだシたことないのに、こんなアバズレとなんて、あるはずないよね?」


「............」


脅すような名前呼びが、あだ名呼びに戻っている。

それだけショックを受けているんだろう。


それでも真霜さんのことを悪く言わないでほしい。

と、文句の一つも言いたいところだけど、僕の口は真一文字に引き結ばれたまま一向に動いてはくれない。



「気持ちよかったし、幸せだったなぁ。あなたみたいな外道は大人しく帰って、泣きながら一人で慰めて寝てたら?」


本当に幸せそうに綴る真霜さんの言葉を受けて、彩咲が僕の方を流し目でちらっと見る。

辞めてほしい。見られただけでビクついてしまうから。


僕はその視線に何も返さない、いや、返せないまま無言を貫く。

だけど、僕のその反応はそのまま、答えになっていたらしい。



「..................本当......なんだ。本当にこんな女とえっちしたんだ。..................そっか、洗脳されてるんだね、可哀想ななぁくん。今助けてあげるからね」



普段の真霜さんなら言わないような煽りに真っ向から乗っかるように、彩咲がポケットからバタフライナイフを取り出して叫ぶ。






「ふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんなふざけんな、消す消す消す消す消す。大丈夫だよ、夏凪晴。すぐに彩咲があなたのこと取り戻してあげるからね。帰ってきたら、今度こそ一生、彩咲のお部屋で一緒に過ごす生活を送らせてあげるから。余計なこと考えられないようにおクスリで脳ミソも蕩けさせてあげるからね。だから、もうちょっとだけ待っててね」



ひえぇ......。

彩咲に連れ戻されたら、いよいよ僕は終わりらしい。


絶対戻りたくない。



「理解力のない妄想女は嫌ね。ナナくんは私のものだし、私だけがナナくんのものなの。心も、身体も、ね♡」


「こんの、クソ女ぁ!」



煽る真霜さんに襲いかかる彩咲。


この場で一番物理的な力は強いはずなのに、恐怖で震えて一言も口を挟めない情けない僕をさし置いて、状況だけが悪い方へと転がっていく。


その様をただ呆然と眺める僕の頭は、色々考えているようで何も考えてない。

ただ一人思う。











なんでこんなことになったんだっけ......。

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