小さな祈りに花束を
重いドアを開けると、血を流した君がいた。
悲しげに、それでも笑っていた。
小さな祈りに花束を
「痛い。」
「そらそうだ。」
「痛い。」
「分かったさ。」
包帯を巻く手を見つめながら痛い、痛いと口にしている君。
手首についた一本の赤い線は皮膚を裂いて、肉を切った。
「どうしてこんなことを?」
「少し、寂しかったから…。」
ガラス玉みたいな目が揺れる。
「俺を呼べばいいのに。」
寂しい時に傍にいられないのに、恋人だなんて呼べない。
なのにいつだって君は一人で耐えて。
脆いものだと思う。
君も、僕も。
二人でいて強くなることはない。傷つく心をさらに深く傷をつけているだけかもしれない。
なのにどうしてお互いが、お互いを必要としているのだろう?
「だって、あなたはヒーローじゃない。天使じゃない。
私が精一杯呼んだところであなたには届かないでしょう?
私が精一杯呼んだところであなたは来てくれないでしょう?」
叫ぶように言い放って、手当てをしていた左手を引いた。
そのまま子供のように両手を組んで小さく丸まった。
時折揺れるガラス玉に乗っているみたいに、不安定。少し大きく揺れればすぐに振り落とされてしまう。
そんなのはいつものことで慣れたけれど…。
「ヒーローじゃないし、天使でもない。もちろん、背中に羽なんてない。」
もう一度君の左手を取って手当てを始めた。
細い腕に無数の傷跡。
それを防げない自分にいらだって、ぎゅっと君の細い腕を掴んだ。
手当てに慣れている自分が嫌だった。
「どうしたら伝わる?どうしたら君を安心させられる?どうしたら頼れる腕になれる!?」
こんなんじゃ駄目だと分かっているのに。
こんなままじゃ君はもっと弱っていくと分かっているのに…。
ガラス玉はまだ不安定に揺れる。
振り落とされるのは君か、僕か。
「…離さないで…。お願い、離さないで。」
声が震える。
「離さないで…。」
抱きしめた。
きつく、きつく。君の細い体では壊れてしまうのではないかというほど強く。
コロコロと包帯は転がって、君の手首から白い包帯が遠くまで伸びた。
そんなことで君の傷が癒えるなら
そんなことで癒されるなら
何時間でも
何日でも
抱きしめていてあげる
これ以上君の傷が増えることのないように
膿んでしまうことのないように。
祈りがつぶされることのないように
君の小さな祈りに僕が花束をあげるから