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3/3

 ─謁見があったその日の夜─

 皇帝との謁見、そして褒美として与えられたリアの地。

 私としてはすれ違うたびに侮蔑のこもった視線を向けられるこんな場所以外であればどこでもいい。

 ただリアの地とは一体どんな場所なのだろうか……。

 骸骨スケルトンである私に与えられるような土地だ。豊かな場所な訳はないだろうけど。


 「あの、確か堀川さんでしたよね?」

 

 城内の中庭にあるベンチに腰かけていた私の側に3人組の1人が近寄ってきた。

 確か名前は古橋眞子ふるはしまこ……。この子は他の2人と違い特別私に敵意がある訳ではなさそうだった。


 「そうだけど、あなたは古橋さんだったよね?」


 「はい。というより、本当に堀川さんですか? 身に着けている者で声をかけたんですが顔が……」


 「顔?? ……っは、忘れてた!」


 そうだ今は夜! 頭の上から足元まで覆っているこの服だから顔をちゃんと見ないと分からなかったんだ。

 今の私は骸骨スケルトンじゃなくて人間。そう思ったら急に恥ずかしくなってきた。


 「ハ、ハハハハ。私実は半骸骨ハーフスケルトンなの。だから夜は人間の姿になっちゃうんだ」


 「そうだったんですね。半骸骨ハーフスケルトン、ゲームでも見たこと無かったので驚きました」


 そうでしょうね、こんななんの取柄もない雑魚種族よっぽどのことがない限り好き好んで選択しないもん。

 そう言えばあのゲームはまず自分の顔をVRマスクでスキャンされ、その顔を元にアバターが作成されたはず。

 だから今のわたしの顔は本来の顔なんじゃ……。

 私は恐る恐る近くにあった噴水、その水面に写る自分の顔を覗き込んだ。

 やっぱりだぁぁ! しかもすっぴん! 生きててすみません。


 「あはは、このことは誰にも言わないでね?」


 「言いませんよ! でも何か安心しました。あんなに怖い骸骨スケルトンが本当は綺麗なお姉さんだったので」


 「お世辞はいいよ……。大学でも恋人1人いない芋女なんだから」


 「いえいえ! お世辞じゃないです。堀川さんみたいな人、私の高校にもいません!」


 ああ、なんていい子! ゲーム内で狩られそうになった時は殺してやろうと思うくらい腹が立ったけど、何ていい子なんでしょう。

 それによく見ればすごく綺麗な顔。人間種は自分の顔がそのままアバターとして使用できる。

 大抵の人は身バレを防ぐためにかなり加工しているけど、古橋さんはどうなんだろうか。

 肩まで伸びた真っすぐな黒い髪。胸当てに青いマント、職業は魔導士マジックキャスターなのかしら。

 こうしてよく見て見ると私は彼女たちの事を全然知らない。

 そうだ、この子たちも突然この世界に来た被害者みたいなもの。

 それに古橋さんは高校生みたいだ。不安じゃないはずじゃない。

 同じ女として、元気づけてあげないと!


 「ねえ古橋さん、これから古橋さんの事眞子ちゃんって呼んでもいい? 私仲のいい人は皆下の名前で呼んでるの」


 古橋さんは少し驚いたような表情を浮かべたが、すぐに笑顔を浮かべた。


 「は、はい! 実は私高校で友達が殆どいなくて……。それで幼馴染のあの2人に誘われてゲームを始めたんです。だから名前で呼んでくれる友達が出来ると本当に嬉しいです。あ、それじゃあ私もお名前でお呼びしても……」


 「いいよ。そうだ、名前を言ってなかったよね。私は堀川瑞樹ほりかわみずき。これからよろしくね眞子ちゃん」


 「こちらこそです! み、瑞樹さん!」


 眞子ちゃんはそう言うと満面の笑みを浮かべた。

 尊い、可愛すぎる。この世界に来て初めて良かったと思えたわ。

 それにしてもあの2人は眞子ちゃんと幼馴染なのか。

 話してみると意外と眞子ちゃんみたいに仲良くなれるかもしれないな。

 そうだよ、元は同じ日本人。仲良くなれない訳がないじゃない。

 その後、私と眞子ちゃんは数時間は話し込んだだろうか。

 いつの間にか空に浮かぶ月が高く上り、気温も低くなっていた。


 「くしゅん!」


 「あ、ごめんね眞子ちゃん寒いよね」


 「い、いえ。でも少し眠たくなってきました」


 「フフッ、もう夜も遅いしお話はまた今度しましょう」


 「そうですね、分かりました。それじゃあ瑞樹さんおやすみなさい」


 眞子ちゃんはそう言うと城内へと足早に入っていった。

 恐らく大丈夫と言いつつ本当はかなり寒かったのだろう。

 私には環境変動に耐性スキルがある。元々が骸骨スケルトンだ、寒さや暑さに影響は受けないのは当たり前。

 半骸骨ハーフスケルトン、唯一の取り柄だなこれは。

 しかしこの世界に召喚されてしまった時はどうなることかと思ったが、眞子ちゃんとも友達になれた。

 考えて見ればどんなところか分からないとはいえ住む場所も貰った。

 学校に行く必要もなければ働く必要もない。人間の姿の内はお腹もすくし眠くもなるけど日が昇り骸骨スケルトンに戻ればそれらは一瞬でなくなってしまう。本当につくづく現実では便利な体じゃないか。

 

 「案外この世界で生きていくのも悪くないのかもしれないな。ゲームがないのはつらいけど」


 私は小さく笑みを浮かべるとその場を立ち、部屋へと戻るべく城内へと戻る。

 しかしその時、背後に視線を感じ急いで振り返った。


 「……誰もいない、気のせい?」


 いや、確かに誰かがいた気がする。

 でも魔力感知でも発見することは出来ない。

 まぁここは皇帝のいるお城。その警備にあたる兵士の数も尋常ではない。

 魔力感知に引っかからないのも魔力を殆ど持たない兵士だからかもしれない。

 そう自分に言い聞かせると、再び城の中へと歩みを進めた。

 しかし私はこの時もっと警戒するべきだったと後に後悔することになるのだった。









 「……けろ、ここを開けろ!!」


 う、眩しい。部屋に戻ってからいつの間にか寝てしまっていたのか。

 日も昇り、部屋の中にも温かい光が差し込んでいる。

 体も骸骨スケルトンに戻っているな。それにしても外が騒がしい気が……。


 ドゴン!! その瞬間、私の部屋の扉が勢いよく壊され部屋には10人ほどの兵士がなだれ込んできた。

 鎧を身に着け、手には槍や剣の武器。明らかに私に敵意を向けている。

 今までもこの世界の人間には敵意を向けられていたが、今回違ったのはこれまでとは段違いの敵意を向けてきていたことだった。


 「この骸骨スケルトンめ、やはり本性を現したな! 捕縛!!」


 「い、痛い!」


 こ、これは一体……! 

 目の前に現れた兵士が投げつけてきた鎖は瞬く間に私の体に巻き付き、きつく締め上げていく。

 これはゲーム内でもあった封魔の鎖というアイテムだ。

 私のような魔物に使用すれば一定時間の動きを封じることが出来る。

 でも現実では痛みがある。体が上手く動かない!


 「魔物め、抵抗するな!!」


 「一体どういうことよ! 私が何をいたって言うのよ!」


 「ハハハハッ、まだそんなことをほざく元気があるのか。何をしたかだと、笑わせるな! 貴様は昨夜フルハシ殿を殺そうとしただろう」


 「ちょっと待って、何で私が眞子ちゃんを」


 「ええい、黙れ! マコちゃんなどと軽々しく口にするな! 昨夜貴様がフルハシ殿を中庭で脅していたという証言もあるのだ」


 そう言うと目の前の兵士は床に倒れ身動きの取れない私の顔を蹴りつけた。

 どういうこと? 確かに昨日眞子ちゃんとは中庭で話した。でも脅すだなんてそんなことは。

 そこで昨日の妙な視線を思い出した。

 あれがその偽の証言をしている人の物だったとしたら?

 いや、そんなことはどうでもいい。これには元々私を陥れようとしている悪意が感じられる。

 兵士達は床に倒れる私の姿に嫌な笑みすら浮かべているのだ。

 

 「私はそんなことはしていない! 眞子ちゃんに聞けばすぐに分かることじゃない」


 「ハハハハッ、もとよりその予定だ。いつまでその強気が保てるかな?? おい、この薄汚い魔物を裁判の間へ連れて行け!」


 「はっ! ほら動け魔物!」


 ぐっ……。兵士達は数人がかりで殴る蹴るの暴行を続けながら私の体を部屋から連れ出し長い長い廊下を引きづっていく。

 しかしこれも眞子ちゃんが証言してくれれば疑いが晴れる。

 こいつらは眞子ちゃんを私が『殺そうとした』と言った。

 つまり眞子ちゃんは死んではいない。疑いは絶対に晴れる、そうに違いないんだ。


 「魔物を連れて参りました!」


 「入れ!!」


 ひと際大きな扉の前まで連れてこられると、その扉はゆっくりと開いていく。

 そこは私もドラマで見たことがある裁判所に似ていた。違うのはその大きさだ。1階、2階と別れておりそこから何百人という傍聴人が入ってきた私に敵意のこもった視線を向けている。服装からして恐らく身分の高い人達だろう。

 部屋の中央には大きな空間があり、完全武装の兵士が警備に当たっている。

 更に一番奥には壇上があり豪華な椅子に座った黒い服に身を包んだ3人の男性、そして皇帝がいた。

 中央の空間まで連れてこられた私はそこでようやく兵士達から解放された。

 

 「話には聞いていたが、本当に見るに堪えない姿をしている」


 黒い服の男性、その真ん中に座る男が口を開く。


 「ではこれよりこの魔物への裁きを下す! 皆、こちらをご覧あれ」


 そう言われ、私の目の前に車いすに乗せられた女性が連れてこられた。

 顔の半分と胴体を包帯で覆われ、それには血の滲んでいる。

 その凄惨な姿に周りの傍聴人からも悲鳴に近い声が上がった。

 それは私も同じだ。この女性は紛れもなく眞子ちゃんだったのだから。


 「ま、まこちゃ」


 「このクソ野郎が!!」


 「あぁぁぁあ!!」


 い、痛い! これは魔力斬撃?!

 骸骨スケルトンには物理攻撃は基本的に効かない。

 しかし魔法、魔力攻撃は別だ。この攻撃を受け続ければいずれ私の体は消滅してしまう。


 痛みに耐えながらも顔を上げると、顔を紅潮させている人間がいた。

 彼は知っている。私と一緒に召喚された1人、芦原幸也あしはらゆきやだ。


 「よくも眞子を……」


 「はぁ、はぁ……、私は何もやってない」


 「まだ言うのか! 同じプレイヤーとして、いや人としてお前は許せねえ」


 「待つのだアシハラ殿」


 更に攻撃を加えようとする彼を、皇帝が止める。


 「その魔族の罪状は明らか。これより裁きを下す故今しばらく我慢されよ」


 「くっ……」


 芦原幸也は渋々と言った様子で剣を収めた。

 

 「では裁きを再開する!!」


 皇帝のその言葉で再び私の元に全ての敵意が集中するのだった。

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