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 ─王宮内─


 王宮の中はそれは見事なものだった。

 装飾品から建築様式…、ゲーム内のものとよく似ているがあちらは画面上の作り物。

 こちらは触ると石の冷たさも木の温もりも感じられる。

 そのことが一層これが現実なのだということを思い知らされるんだけどね。


 「ではこちらに」


 3人と私が通されたのは少し狭い応接室の様な場所だった。

 狭いと言ってもこれまで見て来たものに比べればということで、広さは50畳はありそうだけど。

 部屋の真ん中には机とソファー。対面の豪華な椅子には先ほどの初老の男性がいた。

 

 「掛けられるがよい」


 促されるまま私達はソファーに腰を下ろす。

 3人組も緊張しているようだ。それは私も同じだけど……。


 そこから男性の話が始まった。

 彼はアルメリード・ラ・トルネリアといい、私達が今いるこの国トルネリア帝国の皇帝らしい。

 偉い人とは思っていたが、まさか皇帝だったとは……。

 トルネリア帝国は大陸中央に覇を唱え、現在西のジョシュア―ナ王国、南の連合国群、北の遊牧民国家 ハモンドと呼ばれる国々と対立中であること。

 東には魔物と呼ばれる異形の存在がおり、そちらの脅威にも晒されている事。


 ただ先に述べた3つの勢力には優勢を保っているが、魔族は違うらしい。

 戦いの度にかなりの損害が出ている。そのため50年に一度行われる召喚の儀を20年前倒しで行った結果。私達3人がこの国に来たということ。

 大まかにだがそこまでの経緯を聞かされた私は、妙に納得してしまった。

 恐らくここがゲーム内でもましてや日本でもないことは察しが付いていた。

 それがこの人の話で更に裏付けされてしまった感じだ。


 「……召喚者は総じて我々とは一線を画する力を持っていることが常だ。そこであなた達には是非とも我が国にお力をお貸し願いたい」


 「そう言われてもなぁ……」


 「俺は協力する。どうせ日本にいても俺みたいな落ちこぼれは先が見えてた。それならこの世界の方が100倍ましだ。どうやらゲーム内の能力がここではそのまま使えるみたいだしな」


 「おおアシハラ殿、恩に着るぞ」


 「はぁ、お前がそう言うなら俺も協力するよ」


 「……な、なら私も」


 「ゴウダ殿、フルハシ殿もありがたい!」


 3人がそう答えると、皇帝は笑みを浮かべた。

 彼らは芦原幸也あしはらゆきや合田武光ごうだたけみつ古橋眞子ふるはしまこと言って全員日本人だということだ。

 この部屋に来るまで不安そうだったくせに、腹を括ったのかな?

 でも確かにこの世界ではゲーム内のスキルや魔法が使えるみたいだ。

 一体どういう原理なのかは分からないけど、手のひらから魔法で水を作り出すことが出来たから間違いない。


 「それで、君はどうだね?」


 「私ですか……」


 皇帝の目線がこちらを向く。

 

 「まぁ無理にとは言わん。君は彼らと違い、……フフフッ、いや失礼。彼らのように勇ましくは無さそうなのでな」


 ……こいつ、顔面殴ってやろうかしら。

 ダメダメ、相手はこの世界で一番力を持っていると言っても過言ではない皇帝。 

 そんなことしたら首が飛びそう……、まぁ飛んでも死ななさそうだけど私。


 「それでどうする?」


 「私はお手伝いは出来ません」


 「ほう、断るか」


 「私のような者が手伝わなくても彼らが力になるでしょう。それにここまでの城内の様子で分かりました。私のこの姿は、あなた方には快く思われていないということは」


 私がそう言うと皇帝の表情が一瞬厳しいものになったように見えたが、すぐに先ほどまでの柔らかい表情に戻る。


 「そうか、それでは仕方がないな。しかしそうと言っても君をこの世界に呼んだのは我らだ。明日、4人には詫びと言って何だがこれからの活躍を願い何かしらの褒賞を渡す予定。それだけでも受け取ってもらえると嬉しいが」


 これは断る訳にはいかなそうね。

 これ以上は引かないという顔をしている。


 「……分かりました。ではそうさせて頂きます」


 「では今宵はこの王城で休まれるが良い。誰か、案内を」


 「ありがとうございます」

 

 私はそう言い席を立った。

 皇帝は表面は友好的だ。でもさっきの表情といい、今案内のために来た人の私を見下すような目と言いどう考えても嫌われているようだ。

 東方の魔物の存在。普通に考えれば私って魔物に属する存在よね?

 もしかしてそのせいもあるのかしら……。

 

 「……ここでもカモとか思われるのかなぁ」


 

──────────────────────────────────────────


 その夜、皇帝アルメリードは側近の大臣達を自室に呼びこれからの事を話し合っていた。


 「しかしよもや3人もの召喚に成功するとはな」


 「左様でございますな、陛下」


 「それで? あの者達の鑑定はしたのであろうな??」


 皇帝の言葉にトルネリア帝国第一軍団長 フォルゲイ・ブラナは1枚の紙を取り出し皇帝へと差し出した。

 それは会談の後3人に受けさせた鑑定の結果、それに伴う意見書であった。


 「……これはすごい。まさかここまでの数値だとはな」


 

 ユキヤ・アシハラ 人間/LV.58

          魔力/7821

          耐性/火 毒

          スキル/念能力サイコキネシス


 

 ミツアキ・ゴウダ 人間/LV.52

          魔力/7538 

          耐性/水 

          スキル/魔法攻撃無効


 マコ・フルハシ 人間/LV.48

          魔力/6622

          耐性/雷

          スキル/召喚獣使役




 皇帝は報告書の内容に額に汗が流れるのを感じた。

 この世界の人間の平均レベルは10程度、国の英雄と言われる団長クラスでも30なのに対し、彼らの数値はそれを優に超えていた。

 しかも意見書によるとまだまだ伸びしろがあるという。

 更に各々が保有するスキルと言う存在。魔法はこの世界では一般的だがスキルと言うものは存在しない。

 ましてやスキル使用には魔力の消費が見られなかった。

 これほどの戦力が3人もこの国に現れたのは奇跡としか言いようがない。


 「ふぅ、それであの魔物はどうであった?」


 「それが部屋に入ったきり姿を見せずこちらの鑑定の願いも拒否されておりまして」


 「それなら良い、捨て置け」


 「よろしいのですか?」


 「うむ。見た所あれは骸骨スケルトンであろう。であるならば大して問題はない」


 「しかし他の3人と共に現れたのであれば特筆すべき何かしらの能力を持っている可能性も」


 皇帝としてもその部分を考えなかった訳ではない。

 魔物である骸骨スケルトンが召喚の儀で現れたことなどこれまで一度も無かった。

 それだけでも恥ずべき事であるのに、ましてやそんな能力を持っているなど考えたくなかった。

 魔物は敵。これは帝国の国教でもあるジュルド教の教えである。

 

 「実際に対峙しただが、他の3人の様な力は感じなかった。確かに何かしらのスキルを持っているかも知れぬが」


 「では監視を続けますか?」


 「そうだな……」


 「でしたらよろしいですかな陛下?」


 ここで口を開いたのは帝国宰相 ポルーネ・ギューリウスだった。

 彼は皇帝の幼いころからの右腕であり、内政から外交に至るまでその才能をいかんなく発揮している。

 しかし彼が最も得意とするのは謀略である。


 「何だポルーネ」


 「明日の褒賞、あの魔物に与える良い物を思いつきました。かの地を与えて見てはいかがでしょう?」


 「かの地……、なるほど良い案かも知れんな。あそこであれば人目に付かず、また監視も容易だ」

 

 「ええ。それに抹殺、ということもあり得るかと」


 「なるほど……。流石は宰相だな」


 こうしてその日の密談は朝方まで続けられた。

 

                  


 ──────────────────────────────────────────


 次の日、約束通り私は王城内にある大広間にやってきていた。

 既に他の3人は来ているようだ。全員服を着替え、美しい騎士の様な出で立ちだ。

 一方私はと言うと白い布1枚で体を覆っているだけ。

 ハハハ、とんだ場違い野郎ねこれは。


 「何故このような所に魔物が……」


 「陛下も何を考えているのやら……」


 皇帝が来るまでの間、大広間に集まっている貴族のらしき人達が口々にそんなことを言っている。

 やはりこの国では私のような存在は歓迎されないみたいだ。

 にも関わらず皇帝は私に褒美を渡そうとしている。

 そんなことをすれば逆効果、皇帝の権威を落とすだけのように思えるのだけど……。

 しばらくすると、皇帝が姿を見せ騒がしかった貴族も一瞬で静まる。


 「アシハラ殿、ゴウダ殿、フルハシ殿……、そしてホリカワ殿も昨日はよく休まれたかな? まぁ、ホリカワ殿は骸骨スケルトン故眠りは必要ないかも知れぬがな」

 

 皇帝の言葉に貴族達、そして他の3人からも笑いが起きた。

 こいつ、こうもあからさまに態度に出すのね。

 でもここで怒ってはダメ。魔族が毛嫌いされていると分かった以上下手に動けば本当に殺されかねないもの……。


 「冗談はさておき、では4人にはこれからの活躍を願い帝国よりこれらを贈らせてもらう。まずはアシハラ殿には金300枚、そしてミスリルで製作したこの剣を」

 

 「す、すげぇ……」


 彼の前に置かれた剣は光を放ち、その美しさはその場の全員から言葉を失わせるには十分だった。


 「次にゴウダ殿、そしてフルハシ殿にも同じく金300枚。そしてこの槍を」


 2本の槍にはそれぞれ紅玉、蒼玉が付いておりどうやら魔法が付与されているようだ。

 これだけのものを贈るなんて……。


 「最後にホリカワ殿には……、帝国西端にあるリアの地を与える。ホリカワ殿は帝国には協力できないと仰った。であるならば安らかに過ごせる地を与えることが良いと思ったのだがどうであろう?」


 笑みを浮かべながら問いかけて来た皇帝。

 リアの地。そこがどんな場所かは分からない。でも周りの貴族たちの反応。

 皆嬉しそうに笑みを浮かべている。私にあげて嬉しい土地、そんなのどういう場所かなんて考えるまでもない。

 でもこんな所から離れられるならどこでもマシだ!


 「謹んでお受けいたします」


 「そうかそうか!! お主ならそう言うと思っていたぞ!」


 こうして私はリアの地を譲り受けることになったのだった

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