1 これって転移?
多くの傍聴人。目の前には黒く多くの装飾は施された衣服をまとう3人の初老の男性。
そして私の体にはきつく何重にも縄が巻かれ解くことは到底出来そうもない。
見て分かる通り、私は今裁判を受けている。
「そのモンスターは辺境地に永久に追放とする! 2度と王都の土を踏むことはない」
「え、ちょっと待って」
「直ちに転送魔法陣を発動。この場所より汚物を叩き出せ」
中央の男性の言葉と共に私の足元には青く光る魔法陣が浮かび上がった。
これが転送魔法陣か、実際目にすると意外と綺麗……、じゃない!
あいつさっき辺境地に追放って言ったよね? もしかして今すぐ? 今すぐに追放されるって言うの!?
「発動!」
「ふざけんな、あんた達が私をこの世界に呼び出したんだろ! こんな勝手が」
眩しい……!!
私の声があいつらに届いたのかは分からない。でも絶対に忘れない。
最後に見た男達のニヤついた顔。傍聴席の私を蔑むような視線を送る多くの人間。
絶対に復讐してやるからな!!
こうした私の体は光に包まれその場から追放先へと転送されていった。
─数日後─
「なんて思っていたけど、これは何なのよぉ!!」
いや分かるよ? 私追放されたんだから、追放地って基本草木が生えていないような不毛な地が相場じゃん。
でも目の前にはどこまでも続くような深い森、森、森!
その中を私は全速力で走っている。どうしてかって?
それは後ろを見れば分かる。
「こんな化け物どうすんのよ!」
「グアァァァァ!!」
「私食べたって腹の足しにもなんないでしょうが! よく見なさいよこの体!」
あ、こいつ今ハッとした顔しやがった!
それよりも何なのよその体。10mはありそうな巨躯。びっしり生えた深緑の鱗。
爪は鋭く、牙に至っては私の体位ありそうじゃない。
ていうかよく見たらあいつの頭の上に【メイルトカゲ】って書いてあったわ……。
「ってまた追いかけて来た!」
皆さんこんにちは。
今不細工なオオトカゲに追いかけられ死にそうになっている私は堀川瑞樹。
元々は20歳の可愛い女子大生、だったのだけど今は……、骸骨やっています。
─1週間前─
20XX年。世界の東にある島国であるゲームが発売された。
─WORLD OF ANATORIA─ それはこれまでのゲームと一線を画し、プレイヤーが選択、作成したアバターとして実際に仮想現実の中でプレイが出来るVRMMORPGとして発売され、その現実世界の様なグラフィックに日々更新されるイベントにマップ。何より全世界1億人と言われるプレイヤーとの交流が可能ということで瞬く間に世界中に広がっていった。
かく言う私もそんなプレイヤーの1人、しがない女子大生です。
「さて、今日も早速始めますか」
いつものように学校、バイト終わりの夜10時からゲームを始める。
日本では見られない美しい景観。これが今の私の唯一のストレス発散よね。
まぁ私の姿はそんな景観には全く合わないんだけど……。
「はぁ、どうして半骸骨なんて意味の分からない種族を選んだんだろう」
このゲームでは最初プレイヤーに1万のステータスポイントが配布される。
これは課金では増えることは無く、最初のアバター選択の際に種族や固有スキルを選択するのに必要となるものだ。
当然エルフなどの能力値の高い種族などは必要ポイントが多く、スライムなどはほぼ0に近い。
そのため能力の高い種族にポイントを振るか、固有スキルに振る、あるいはバランス良くポイントを振るなど自分好みのカスタマイズが出来るということ。
まぁ、ここで決定したことはその後2度と修正は出来ないんだけどね。
私はと言うと、スキルにほとんどのポイントを使った口だ。
獲得した固有スキルは「最上位練成師」。
ありきたりじゃんとか思ったそこのあなた! 最上位錬成師にはいろんなものの設計図が付与されているの。
剣や盾などから自動車なんてのもあるわ。自動車の場合は動かない外側だけの自己満足の代物だけどね……。
だからこの固有スキルはプレイヤーの中じゃ消費ポイントが最大級なのに価値に見合わない捨てスキルなんて呼ばれているとかなんとか。
そんなこと知らなかったゲーム初心者の私は錬成師とかかっこよくね?って感じで安易に所得したばっかりに、ポイントが殆ど無くなり選べる種族がスライムくらいしかなかった。
その中でもマシだった半骸骨になるしかなかったのでした。
「1日の半分、日が沈めば人の姿になることが出来るけど、普通 骸骨なら夜こそ似合うでしょうよ……。なんで夜に人の姿なのよ」
このゲーム内の時間は現実世界の流れと変わらない。
ただ標準時間は現実通りイギリスのものになっているため、日本との時差は9時間。
私がINする22時はゲーム内では1時、つまりまっ昼間ということになる。
必然として私が人間になれることは平日では殆ど無いのだ。
「このゲーム人外は珍しくないんだけど、PVPになれば私みたいなのはカモになるのよね。スキルも戦闘には向かないし、錬成で作った防具と武器も時間稼ぎくらいにしかならない。ほんとミスったわ」
PVPはレベルを上げるには一番効率がいい。
ゲーム内の魔物を倒すよりプレイヤーを倒した方が経験値の獲得数が段違いだからだ。
今の私のレベルは72。MAX100に到達しているプレイヤーが大勢いる中では特段強いという訳ではない。
これで私がカモになる理由が分かったよね?
大した戦闘スキルもなく種族ステータスも低い私はレベル50以下のプレイヤーでも準備をすれば簡単に倒せる。
なおかつ獲得できる経験値は大きい。こんな美味しい獲物は他にないだろうね。
それでも私がこのゲームを続けるのは、自然や街並みが好きだからだ。
まるでその場にいるような臨場感。日頃大勢の人間やアスファルトばかり見ている私にとっては無くてはならない癒しの時間。
あ、ちゃんとゲームも面白いんだけどね。
「さてと、そうこうしている間にもう3時か……。ってことは現実では0時を回ったところね。そろそろ寝ないと明日に響きそう」
「うわっ、骸骨じゃないか! ラッキー!!」
ゲームをログアウトしようとしたあ私の目の前に現れたのは3人のプレイヤー。
全員種族は人間、レベルは……、49、58、52。
これはログアウト前に死ぬかもね……。
「あのぉ、私もうログアウトするところなんですけど」
「うるせえ、あんたみたいに高レベルの雑魚は滅多に見つからないんだ。経験値獲得のためにも死んでくれよ」
「はぁ……、やらないとだめ?」
「当たり前だ!」
面倒くさいけど、ログアウトした場所から次回はスタートになる。
待ち伏せされたらそれこそ面倒だしなぁ。
ならサクッとやられますか!
「分かった。じゃあ早く始めましょう」
「そうこなくちゃな! 皆、雑魚でもレベルは72。一気にやるぞ」
『おぉ!!』
やめる前に死ぬと後味悪すぎるんだけどな……。
まぁやられて経験値を獲得させれば納得するでしょう。こいつら頭悪そうだし。
……え、なにこれ!
3人組が私に攻撃しようとしたその時、突然目の前が光に包まれ視界には何も映らなくなった。
機器の故障? でも時刻やHPMP表示は消えてない。
ゲームのエラーかしら……。まぁ何はともあれこれは好都合ね。この隙にさっさとやめて寝ようかな……ってあれ?! ゴーグルが取れない!!
いやちょっと待ってよ、頭に装着していたゴーグルそのものがない!
ど、どういうこと? 目の前にはさっきと同じ真っ白な世界が広がっている。
でもゴーグルはない? もう意味分からないんだけど。
「…………」
ん? なにか聞こえて来た……。
「………だな。…………」
言葉? でもなんだろう、いつもの機械的な声質じゃないような。まるで実際の……。
「よもや4人もの召喚に成功しようとは」
「これも我が帝国の魔導研究の賜物でございますな。まぁ1人は……」
視界が鮮明になってきた。
そこは広く多くの人間がこちらを見ている。
どこかの広間かしら、周囲には取り囲むように高い石造りの塀が立っていた。
「おい、これはなんだ!」
「どういうことだ、地面を触った感覚がある。それに匂いも、風も感じるぞ」
あれは先ほどの3人組。
彼らも事態を把握できていないようだ。
しかしその言葉通り、私もこれまでのゲーム内では感じることのない物を感じていた。
何よりまるで本当の体のようにアバターを動かせる。いやこれは動かすというよりも本当に……。
「皆の者、静まれ」
大勢の人間の中から一人の初老の男性が出て来た。
短髪に口元には整えられた髭。いくつもの装飾品を身に着けている所からも身分の高い人だろう。何より体格、風格が他の人間達とは違う。
「この度の召喚の儀、見事成功した。しかも4……、まぁよいか。4人もの方がこうしてこの地に来られた。これで我が帝国の繁栄は一層強固なものになろう!」
『おぉぉぉぉぉぉぉ』
「ではいつまでもお客人をこのような場所に居て頂くわけにはいくまい。すぐに王宮内にお連れせよ」
「おい、ちょっと待て。召喚だと? これはゲームじゃないのか!?」
我慢しきれず3人の中の1人が声を荒げる。
気持ちは分かるよ、でもこれはもうゲームなんかじゃない。
時刻表示も、HPMP表示もいつの間にか消えている。
でも体はゲーム内のまま。しかも五感まであるとすると……。
「ふむ、さぞ混乱されているだろう。これまでの方々も皆そうであった。しかし話すとながくなるのでな、ひとまずは王宮内に来ていただけぬだろうか。話はそれから」
「……分かった」
「おい、あんな意味分からない爺さんの言葉を聞くのか?」
「そうじゃないが、運営共連絡できない。それにこれはもうゲームとは……。いまは少しでも情報を手に入れることが重要だろうが」
「くそ、分かったよ」
3人はその後も少し話し合っていたが、渋々と言った様子だが男性に続き歩き始める。
「フッ、そこの方も来られるが良い」
「え、は、はい!」
びっくりした、急に話しかけられて声が上ずってしまった。
それにしても何だ今の笑いは?
心なしか他の人間達も私を見る目が3人とは違う。
あの目は知っている。人を蔑むときに向けられる目だ。
「これは歓迎されていないのかな……。まぁ、骸骨だもんね」
しかし3人組が言っていたようにこの不測の事態を何とかするには情報がいるだろう。
私は考えをまとめると3人に続いて目の前の建物へと歩き始めるのだった。