#01
ここから、タイトル回収までお話が続いていきます。プロットでは完結の仕方が決まっているので、繋げられるように書いていきたいと思います。
ニーアスとの出会いは、幼少期に遡る。
伯爵家と伯爵家の結び付きを強める為に決められた婚約で、父に紹介され、挨拶を交わしたのは彼の家で開かれたお茶会だった。
「初めまして、アイラス・タティーニアと申します」
「…ニーアス・トラストムです」
成り上がりの貴族と言われ、その見目を厭われた小さな少年。真っ黒な髪に金色の瞳。カラスの悪魔と呼ばれて、気味悪がられている。
「…きれいな瞳……」
太陽の光に純金を混ぜたような発色の良さと、淡い紫を纏わせている。不思議で何よりも綺麗だった。
「…みないで、ボクは…見られるのがきらいだから」
冷たく突き放すような言葉に、私は少なからず心が萎んだ。わたしの言葉が届かなかったことは幸いだろうか。
「…婚約者としてよろしくお願い致しますね」
「……うん」
差し出した手をしばらく見つめられてから、指先だけを摘むように返された。二人きりにされたことが幸いだ。こんな彼を見たら父はきっと怒ってしまうから。私は両親に溺愛されている自負がある。彼と婚約する話が出た時は、嫌なら断ってもいいとまで言ってくれた。伯爵家として考えれば断るなどありえない縁談をだ。
「…あちらに行きましょう。顔色が宜しくないですわ」
「……かまわないでいい。いつものことだから」
「少しだけわたしとお話して欲しいだけです」
「…婚約者だから?」
「……はい」
(本当はあなたの瞳を見ていたいから)
「……そう。仕方ないね」
木陰で二人、ポツポツと話しただけ。
言葉が途絶え、会話が切れた。
「…濡れ羽色…きれいだわ」
「……?なにか言った?」
「いいえ。なんでもないの…」
彼がヒロインに惹かれる未来を、私は想像したくなかった。だから、少しだけストーリーを変えることにしたのだ。
「あなたに恥じない妻になるわ。きっと、わたし以上に相応しい方がいると思うのだけれど、選ばれたからには頑張るから」
「……ぼくなんかの奥さんに…なってくれる人いないから…キミがそれでいいなら…そうしなよ」
「ええ。だから…―――」
「…?なんて言ったの?」
(ヒロインに惹かれても、私のことをわすれないで)
「…勉強をもっと頑張るって言ったのよ。あなたはとても優れた人だから」
「……そう、じゃあ…頑張って」
私を忘れないで。あなたのどこかでいいから、婚約者である私を置いていて。
そう願うばかりで、私は運命に抗う気すら無かった。捨てられさえしなければ、私はきっと幸せだろうから。
お茶会は私の心とは裏腹に、滞りなくスムーズに終わった。ストーリー通りの脇役シーンだった。