第5話 企み
山岳宮殿・アデル。カナタたちが召喚されたのは、その宮殿に隣接する教会であった。
宮殿は城のような構造をしており、応接室は居館に位置し、アダルブレヒトの私室は居館よりもさらに奥、周辺を見渡せる塔の上階に位置していた。そして当然。電灯のような文明の利器が未だないこの世界において、部屋を照らすのはゆらゆらと揺れ続けるロウソクの灯であった。
革張りのソファにその身を沈めながら、アダルブレヒトは血のように赤いワインを嚥下する。
「……カスですな。本当に、最近はとみに質が悪い」
込められる感情は苛立ち、そして侮蔑。
もちろんそれはワインに対してではない。いや、ワインに対してであればどんなによかったことだろうか。
「そうは思いませんかな? ガスパール殿」
ひとりきりと思われた部屋にはもうひとり、存在していた。
「……すべては神の意志。私は課された任務を全うするまで」
直立不動に答えるガスパールの表情からは、なんの感情も読み取ることはできない。ただ、機械のように抑揚なく答えられたその返答はいたってシンプルであった。すなわち「無関心」。彼にとっては、自らの感情は重要でない。ただ、使命だけを全うするのだ。システムのように。
「フッ……そうでございますか。承知いたしました。ならば私が決断しましょう。彼らを早々に使えるようにするためには、一にも二にもレベルアップこそが先決でしょう。あの者たちのことは、このアダルブレヒトにお任せーー」
いただけますかな? と問いかけるよりも先に、ふと視線をやるもガスパールはすでにそこにはいなかった。
「まったく気味の悪い男だ」
すでに齢70を超えるアダルブレヒトにとって、ガスパールは邪魔者でしかなかった。すでに60余年教会に尽くし続け、司教の位をいただくも、未だ教皇に目通りをしたことはない。だのにあの男ガスパールは、教皇の側近として、その勅命を預かっているではないか。
本来ならば、自分こそが側近となるべきなのに。
「ーーだが見ていろ、必ずや万夫不当の英雄を改めてご覧に入れようぞ。だがその前に……」
「まずは処分が先決ですな」




