第4話 代償執行
カナタは改めて自身のステータスプレートへと視線を落とす。スキルの箇所にある「黒塗」も確かに気になるが、それ以上にこのステータス自体が腑に落ちない。
「カナタくん、どうしたの?」
「あ、ああ……あのさ、おかしくね? これーー」
「あ、ステータスのこと? ううん、異世界召喚にはこれがつきものなんだよ! 何もおかしくないって!」
カナタの問いかけに雪乃はあっけらかんと答える。これが普通なんだよ、と。
「いかがですかなみなさま! みなさまにはさぞやすばらしいスキルが授けられていることでしょう! あなたはーーいかがでしたか?」
思いの外大人しく話を聞いていた金髪の少年に、アダルブレヒトは問いかける。
「あん? そもそもスキルってなんだよ、どこ見ればいいかわかんねえし」
「おやおや、ちょっと拝見しますよ。ふむふむーー仁歳優哉様ですね。ここに『スキル』という欄がございますでしょう? そこに記載されているのが皆さまに授けられたスキルになります」
「んじゃあ俺はーー『影魔法』? おいジジイなんだよこれは」
「…………ほうほう。『影魔法』ですか。すばらしい。その名の通り『影の魔法』を使用できるスキルでございますな。レベルが上がれば、さまざまな魔法を習得することでしょう」
『レベルアップ』
それもまたおかしな言葉だ。だが、当然ながら誰も疑問を抱かない。
「レベルアップってーーどうするんですか?」
「なにカナタ? あんたレベルアップも知らないの? あんまゲームしない私でも知ってんのに。『敵を倒して経験値を得ること』でしょ」
当然。とばかりに可憐が答えると、「そうだよカナタくん」と雪乃が頷いた。
「みなさまよくご存知で。左様でございます! いやはや今回の召喚された英雄様たちは、聡明でございますな!」
何か面白のか、アダルブレヒトは突然呵呵、と笑い出す。「いやはやーー聡明でございます」
「敵を倒せばーー何で経験値が手に入るんだ?」
「ーーおや。カナタ様は皆様に比べて少々疎いようでございますな」
やはり誰もが普通と思っている。カナタは反論を心の中に押し留め、愛想笑いを浮かべる。
「あの、カナタくんは記憶喪失みたいでーーなので、わからないことがあるのも仕様が無いんです」
「ほほう、記憶喪失と。それはまた新しいパターンですな。とは言え失礼をばいたしました。もしわからないことがございましたら遠慮なくお尋ねくださいませ」
この異常な状態全てを納得できるような説明が欲しい、とは口が裂けても言えなかった。
今この場において、正しいのは皆でおかしいのは自分、という図式が構成されているのだから。
「ーー敵を倒せば、経験をつめる、というのは理解できます。けどそれが経験値として数値化され、しかもそれが一定値たまるとレベルアップするっていうのが納得できなくて……」
「そういうものなのです」
「いやでも」
「そういうものだから、としか言いようがございません。これでは納得いただけませんかな?」
「充分です。ありがとうございました」当然の思いとは裏腹に、カナタに今できることは再度愛想笑いを浮かべることだけだった。
● ● ●
各々が得たスキルはーー真樹はダンジョンや空間をマッピングなく把握できる『空間理解』。優哉は『影魔法』。可憐は武の技能が使用できる『格闘術』。里穂は物体の性質を変化させる『練成術』。
「私は……うわぁ!『治癒魔法』だって。これって回復魔法が覚えられるやつですよね?」
「……左様でございます。本当に、皆さま……!」
各自がスキルを自己申告していくにつれ、徐々にアダルブレヒトは無表情へと変わっていった。
だが未だその変化、理由には誰も気づいていない。
「カナタ様、貴方はどのようなものでございましたかな?」
「【代償執行】ーーそれが俺のスキルのようです」
「……」
無言でカナタのそばへと歩みよったアダルブレヒトは、背中越しにカナタのステータスを覗き見る。
「ーーどいつもこいつも、カスばかり」
「え……?」
誰の耳にも届かないような小さな声。最初は気のせいかとも思った。
だが、確かにアダルブレヒトの口から漏れたその言葉に、カナタは弾かれるように振り返る。しかしアダルブレヒトは、何もなかったかのように、変わらず笑顔をたたえているだけ。
「【代償執行】んなの聞いたことねえよ! おーいカナタくぅん。記憶だけじゃなくてスキルまでイカれちゃったんじゃねえの」
すぐさま優哉に反論しようとした雪乃を制して、カナタは静かに首を横に振る。明らかに煽りたいだけの相手の意図に乗る必要はない、と。
「【代償執行】ーーそれはですな」
優哉の質問に対するアダルブレヒトの答えは、こうだった。
「簡単に言えば、ある代償を捧げることで自らのステータスを底上げするスキルですな」
「すごいよカナタくん! すごく強力なスキルだよ‼︎」
「いえ。それは異なりますぞ雪乃様」
カナタに変わり、喜びを見せる雪乃をアダルブレヒトは静かに質した。
「その代償が高すぎるんですよ。例えば腕一本ぐらいを代償にしないと、全く効果を発揮できないスキルですな。まぁイタチの最後っ屁のようなもの。パーティの殿が味方を逃す時によく使われると聞いたことがあります。そしてそのスキルを使った後は、当然のように体力値が尽きて殺される。それが、【代償執行】」
「……」
何も言えないカナタの袖を静かに雪乃が掴む。可憐は同情にも見える視線を送り、真樹と里穂も同様。優哉だけが笑いを嚙み殺しながら、「ざまぁ」と小さく呟いた。
話は終わったとばかりに、アダルブレヒトはカナタたちに告げた。
「スキルの確認も終わりましたので、今日はここまでにいたしましょう。皆さまにはそれぞれ部屋を用意いたしましたので、どうかおくつろぎくださいませ」




