第3話 違和感
ズズズ、と。
何かとてつもなく重いものが動くような音。出所は、この教会のような建物の入り口に備え付けられている大きな扉だ。
絢爛な装飾が施された扉は、その重量ゆえかひどくゆっくりと開かれ。
そして、2人の男が姿を現した。
ひとりは、痩身に漆黒の祭服を纏う青年。
もうひとりは、白地に金糸の刺繍が施され豪奢なローブをまとい、その顔に柔和な笑みを浮かべる老人であった。
突然の人物の来訪に、全員がにわかに警戒の色を濃くし、視線を集中させる。
2人は、何やら2、3言葉を交わしながらカナタたちのほうへ近づき、そしてこう告げたのだった。
「ようこそおいでくださいました。テリブル を滅する、異界の英雄の方々よ!」
「……テリブル ? 異界の英雄? あの一体何のことでしょうか? もしこの状況を説明できるのなら、話してください!」
と、当然の疑問を投げかけたのは真樹であった。全員が全員、その真樹の言葉に首を縦に振る。
「あの、私たち全く現状が理解できないので。ちゃんとご説明をしていただけないでしょうか? ……あ、もしかして日本語が通じてないとか? よ、よく見るとーー見なくても明らかに外国の方ですもんね! あれ? でもさっき日本語喋ってたから、それはないの、かな?」
二の句をつないだ雪乃は、チラチラと老人を見やる。
そんな彼女の姿を見て、カナタたち全員が警戒感をあらわにしていることをようやく悟ったのか、安心させようと柔和な笑みさらに破顔させた。
「ホホッ……、元気なお嬢様ですな。大丈夫ですよ。貴方たちの言葉は理解できています。そして、こちらも何の説明もなく大変失礼をば。まずは場所は移動しましょう。ここは寒くて、老体にはこたえますからな」
まだ何も解決はしていないが、意思疎通ができることにみなが胸をなでおろした。
もしかしたら早々に状況が改善するかもしれない、という淡い期待。
だがそんな中、カナタだけは目を離すことができなかった。老人の後ろに控えている黒の祭服を着た青年から。
● ● ●
「申し遅れました。私はアダルブレヒト。ヴァルタレス教の司祭を務めております。この者はガスパール。ヴェルタレス教の総本山である唯一教会より派遣されている者です」
アダルブレヒトより紹介され、ガスパールが小さく頷く。どうやら挨拶のつもりなのだろう。
今カナタたちは、大きな円卓に着席していた。先ほどの場所と異なり、絢爛な調度品が配置されているここは、アダルブレヒトによれば応接室。くるぶしまで沈むほどの絨毯の感触を踏みしめながら、美しいメイドが淹れてくれた茶を飲み、カナタらは自分たちの場違い感を感じているのだった。
そして全員のカップが空になったタイミングで、アダルブレヒトは語り始めた。
この世界にはごく稀に「厄災」と呼ばれる超常の存在が誕生すること。かつては各国が手を取り合い、総力を結集してそれの討伐に挑むもあえなく惨敗。残された希望は、ヴェルタレス教会に伝わる異世界より英傑を召喚するという奇跡「英雄召喚」であること。そしてその英雄召喚にて召喚されたのが自分たちであり、どうか「厄災」を討伐してほしい、と。
「厄災ーー我々はテリブル ・デーモン。テリブル と称しておりまする」
全員の視線が自分に注がれていることを確認し、アダルブレヒトは叫ぶように続ける。
「今この世界は窮地に立たされています! 救えるのは! みなさまだけなのです! どうか、どうか!」
話し始めは柔和な笑みをたたえ、好々爺とした印象のアダルブレヒトだったが、次第にその笑みは狂気を孕むものに変わっていた。そしてひと息に話し終えて、肩で息をしながらもうわ言のように続ける「……どうか。どうか!」
「ねね。私の言ったとおりでしょ」
「マジかよ」
どうだと言わんばかりに、雪乃は隣に座るカナタを肘でつつく。
「はぁはぁ……。はぁ。んおや、どうかなさいましたかな?」
説明を終え、大きく息を乱していたアダルブレヒトが雪乃の様子に気づき、またもや柔らかな笑みを浮かべカナタらへと問いかけた。
「いえいえ! な、なんでもないです! あは、あははは……」
流石に大真面目で話すアダルブレヒトに対して、物語でよく読みました! とは言えないのか、お茶をにごすようにしたようだ。
「…….何となく話はわかったけどさあ」
そして、代わりに口を開いたのは今までスマホをいじりながらも黙って話を聞いていた可憐だった。
「あたしらには無理でしょ。だって、あたしらフツーの高校生だよ? ましてや英雄なんて」
「僕も……可憐さんの言うとおりだと思います。ここが自分達がいた世界と違うことはわかりました。ーーいえ、まぁわかりませんが。とにかく僕らに戦えと言われても、そんな力はありまーー」
「大丈夫です‼︎」
真樹の言葉を遮るようにして、アダルブレヒトは答える。
「みなさまには力があります。なぜならば、この世界に召喚された異世界の方には唯一神より能力が授けらているはずですから。みなさま。頭の中で『ステータス』と念じてみてくださいませ」
よしきたとばかりにウキウキと雪乃はステータスを開く。
他の面々も、何の疑問を抱くこともなくアダルブレヒトに言われたとおり。
ただひとり拭い去れない違和感を抱えていたカナタもそれに、倣ってみると確かにステータスが出現した。
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■■彼方 17歳 男 人間
職業:
レベル:1
筋力値:30
体力値:30
耐性値:30
敏捷値:30
魔力値:10
魔法耐性値:10
スキル:言語理解、■■■■、代償執行、
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「ウソ、だろ……」
なぜ、自分の能力が数値化されているのか?
なぜ、『ステータス』と念じればステータスプレートが出現するのか?
それはありえないことのはずなのに、
なぜ、みながそれを当然のように受け入れているのか?
「(何で誰も。これを異常と思わないんだーー?)」
名前の誤り大変失礼いたしました!
ステータス部分の名前修正いたしました。




