第35話 オリガ
「ああ.......時間切れだ」
その名を呟いたことで溜飲が下がったのか、穏やかな表情となった青年は残念そう呟く。
「最後に、僕の力の一片を君に託そう。ーーうん。アルビオンを打倒しえた君ならば、きっと使いこなせるはずだ」
刹那、カナタは脳髄に刺すような痛みを覚えた。だが彼は今、かつて自分を救い力を与えた者の名に狼狽していたのだ。その痛みすら受け流してしまうほどに。
「どうかーーテリブル の解放を。そして、オリガをーー」
その痛みとともに青年は消えた。まるで初めからいなかったかのように、消える。その最後の姿をカナタはただただ呆然と見つめていた。
「ーーカナタ、様」
いつの間にか、イオナはカナタの手を握りしめていた。だがそれにも気付けないほどにカナタが受けた衝撃は大きかった。
掴んだ世界の真実。そして新たに生まれた疑問。なぜ、自分を救い、力を与えてくれたあの男が。
絶え間無く押し寄せる疑問符がカナタの頭を埋め尽くし。そしていつしか、カナタは意識を失っていたのだった。
● ● ●
それはずっとずっと、昔の話。
オリガはこの世界へと喚び出され、この世界を救った。だがそれこそが悲劇の始まりであった。
オリガを招喚した国王は、当初彼を元の世界へと返すことを約束していたが、それは不可能であるということを悪びれることもなく告げたのだった。
だがそれも当然。なぜならばオリガは無限に存在する世界から、あくまでランダムに招喚されたにすぎないのだから。
オリガは旅を続けた。自信が元いた世界に帰るための手がかりを得るために。かつて仲間と歩いた以上の土地を歩き、かつて仲間と訪れた以上の国を訪れた。
しかし、彼が望む答えは得られなかった。
気がつけば多くの月日が流れていた。霊長は反映を極め、文明を築く。
進化は人々から神秘を奪うもしかし、誰も困るものはいなかったーー
オリガを除いて。
「元の世界に帰るという悲願」
その方法をようやく掴み始めたオリガにとって、過剰な文明の進歩は埒外のこと。
だから彼は、その世界を文字どおりーー壊した。
オリガにはそれが可能だった。
気が遠くなるような長い年月。魔物を、時には人を殺し続けたオリガはいつしか、あるスキルを芽生えさせていた。
それこそがが【世界の破壊と創造】。
いつか訪れるべき世界の終焉。それを瞬時に引き起こすと同時に、いつか訪れるべき世界を創造する奇跡。
神だからこそ世界を壊し、創造したのではない。世界を壊し、創造したからこそーーオリガは神のごとき存在となった。
ーー2週目の世界
オリガは自身の世界へと帰るための、あるひとつの方法を思いついていた。
それを実行するため、オリガは新たに創造した世界にあるギミックを追加する。それこそ「ステータス」「認識」という概念であった。
そして異世界より多くの英雄となる存在を招喚する。彼らは自身の戦力を数値化し、加えてそれに対して違和感を覚えずそれを活用するようになった。
なぜオリガはそんなギミックを設けたのか。
この世界を救ってもらうため? この世界を発展させるため?
否。
彼らは全て燃料。
自らの願いを叶えるためのリソースでしたかった。
オリガは気づいていた。かつて自らが戦い抜くたび、強くなっていったことを。
ただの人ではなく。レベルアップした人のほうがより多くの力を内包することを知っていたオリガは、彼らがこの世界で「生きやすく」なるようにステータスを作った。
だがそれでもダメだった。多くの英雄は早々に生き絶えてしまったのだった。それでは、リソースの回収など到底不可能。
ーー7週目の世界
今までの失敗を踏まえたオリガは、新たなるギミックを追加した。
「言語理解」と、「スキル付与」。
それにより多くの異世界転生者が生き延びることになった。
中には、与えられたスキルを「ハズレスキル」と侮られるも、そのスキルを駆使して生き抜いたものがいた。もしくは、冒険に出立せず自らのスキルでただ生活していく者もいた。
そして中には「自分が元いた世界へ帰る方法を見つけた!」と喜びはしゃぐ者もいた。
もちろん、オリガにとってもそれは想定外のことであった。みずからの願いを叶える方法を彼の若者は発見したのか、と期待を抱いた。
確かにその若者は、別の世界へと渡る方法を見つけた。だがそれは、若者がいた「元の世界」ではなかった。
ーー66週目の世界
オリガは、やはり自分の考えこそが願いを叶える唯一の方法と確信した。
そのためには、もっと多くのリソースが必要となった。
ーー94週目の世界
オリガはあることに気づいた。レベルアップに加えて、さらなる力を呼び起こすためのトリガーが「感情」であることに。
その方法により、七体のの怪物が生まれるもそれは、オリガにとっては些事なこと。
想定どおり、本来以上のリソースを確保できた彼にとって、絞りカスには用などないのだから......。
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