第32話 クズスキル【代償執行】を手にしたオレは絶望を経てやがて絶対最強へと至る
巨人の再生能力は凄まじかった。
すでにカナタによって破壊された足は修復され、その2本の足でしかと地を踏みしめている。
一分の劣れも見せぬ憤怒の色を滲ませたその瞳で巨人は、カナタとイオナを捉えた。そして動く。止めを刺さんと2人へと、迫る。
「........」
だがイオナは知ってか知らでか。ただひたすらにカナタを優しく抱きしめたままであった。
すでにイオナの歌魔法による冷気は一切なく。あるのは熱。巨人がその身体から発する黒炎によって、灼熱の地獄のように変貌した神殿内。そして巨人は、沙汰を下す閻魔がごとく、ゆっくりと拳を振り上げる。否、沙汰はすでに確定。申開きも不要。
慈悲なく。容赦なく。
轟と唸りをあげ、巨人の拳が振り下ろされた。
世界を震わせる振動と、その振動により崩壊を見せる神殿。
猛烈な威力で地面が爆ぜる中、イオナは見た。
巨人の終の一撃を、カナタが片手だけで受け止めるのを。
「ーー! か、ナタ様.......!」
そう、カナタだった。オリガの心臓を動かしたことで、身体は崩壊し、精神も塗りつぶされたかに見えたカナタがそこにいた。
「心配かけたなーー」
ポツリとカナタが零す。その声も、ぶっきらぼうな言い方も、イオナが知るカナタにほかならない。
「もう、大丈夫だ。この戦いはオレたちの、勝ちだ」
「はぃ。......はい! はい、なのです!」
感極まったかのように、カナタの背に額を押し付けるイオナ。だが巨人にとっては2人の感傷などは些事なこと。攻撃を受け止められたことは予想外ではあるが、ならばこのまま押しつぶそうと、振り抜いた右腕にさらなる力を込める。だがーー
「ガッーーがアアアァァリアァァアアア!」
不動。巨人がどれほど力を込めようとも、カナタは微動だにしない。先程までのカナタならば、間違いなく潰されかねないほどの膂力が込められているはずだ。それでもなお、通じないとはどういうことか。
「骨を折ったり、裂傷を作るのとは訳が違う」
巨人の拳を受け止めたまま。否、その拳を僅かに押し返しつつ、カナタは呟く。ビシッ、とカナタの足元の地面に亀裂が入った。
「あれを全て代償にしたんだ.......。そんなオレが、オレたちが、負けるはずねえだろう....!
カナタの足元を中心にして大きな衝撃が発生し、亀裂の入った地面が吹き飛んだ。刹那、巨人の腕が震えーー爆ぜた。黒血が、黒肉が宙に舞う。
「⁉︎」
寸勁のような一撃を受け巨人は大きくたたらを踏むも、果たして痛みを感じていないのだろうか、すぐさまもう片方の腕でカナタを粉砕せんとすぐに体制を立て直す。この間、巨人は決してカナタとイオナから目を逸らしていなかった。いなかったはずなのにーー見失った。今の今までそこにいたはずの獲物が、いない。
「遅い」
声はアルビオンの真横。ちょうど耳の方からだった。弾かれるように巨人が顔を向けると、見た。イオナをその両腕で抱えたカナタが、右足を大きく振り被っているのを。
だが虚をつかれている巨人に、一切の迎撃を、防御する余裕はない。
「がぁあアァアああ⁉︎」
振るわれたそれは、巨人の豪腕を凌駕するような一蹴。顔面を蹴りつけられた巨人はそのまま真横に吹き飛ばされ、3度地面でバウンドしながら神殿の壁へ頭から突撃した。
大きくバックステップし巨人からから距離をとったカナタは、抱えていたイオナを地に下ろす。そこまでしてからようやく、カナタはイオナへと声をかけた。
「イオナ、ケガはないか?」
「ですです」
「そうか。なら消化試合だ、さっさと終わらせるぞ」
「あの、それよりも......」
ちょいちょいと、イオナがカナタの袖を引く。身を屈めろということか、とカナタが察すると、腰を折り彼女へと目線を合わせた。すると。
「心配、させないでほしいのです。カナタ様」
かつて自分がそうされたように、カナタの額へとイオナがデコピンを見舞った。あまりに咄嗟のことで、最初は目を瞬かせたカナタだが、すぐに喉を震わせた。
「すまんな。許せ、イオナ」
「はいな。ーーあれ、カナタ様、背が伸びていませんか? それに気のせいか体つきもだいぶ変わっているような.....」
「ああーー」
今初めて気づいた、とばかりにカナタは自分の体を見下ろしている。そして2、3度腕を回して答える。
「多分、オリガの心臓のせいだ。あいつの心臓と四肢に合わせた変態とかだろう」
いまいち自分でも得心がいっていないのか、カナタの言葉に自信はない。
「まあ今はいい。まずはアイツだ」
壁に激突し、瓦礫に埋もれ地に伏していた巨人が腕をつき、ゆっくりと上半身を起こす。カナタによって破壊された左腕もすでに再生していた。
「イオナは距離をとってひたすら歌魔法をぶちかませ」
いつの間にか、カナタの右手にはデミルウゴスが握られている。それを逆手に持ち替え、大きく前傾姿勢をとった。
「はい。お任せくださーー」
イオナが言う終わる前に、カナタがイオナの目の前から消えた。そして次の瞬間、巨人の再生した左腕が切断され、宙を舞った。
「ーー⁉︎」
驚きは果たして誰のものか。
かつてのカナタの速さとは次元が違う。笑い像戦での【保身なき代償執行】。それを発動した際の最高速度すらをも超えている、それもただの初速で。
遅れて物体を断ち切る斬撃音が響く。そして質量を持った何かが高速で移動したことにより生じた暴風が、吹き荒んだ。そしてイオナがその斬撃の音を認識した刹那、アルビオンのもう片方の腕がカナタの斬撃によって断ち切られる。
「グアガッツ! ーーーッッッッッ‼︎ オォオオオオおおオリイガアアァァァッツ!」
カナタを迎撃せんと巨人が腕を振るおうとするも。遅い。再生した瞬間に切断され続け、結果巨人は一度たりともその腕を振るえていない。ならばと蹴りを繰り出そうとするも、それも無駄。カナタは初動を感知し、すぐさま一刀に叩き伏せているのだ。瞬きの間に巨人はその身体に傷を増やしていく。だが頭を落とされても、腕を切られても、足を断たれても。巨人は事切れない。
「(......間違いなく効いているはずだ)」
デミルウゴスを大剣に変化させたカナタは、巨人の頭頂から股座までを両断。
「(だが死なない)」
それでも一瞬にて再生する巨人を見て、カナタは思考を巡らせていた。すでに身体のありとあらゆる箇所を攻撃して見せたが、「核」のようなものはなし。それならばーー
「(時間の巻き戻し、もしくは命のストック)」
高速で動いていたカナタが、足を止めたことで地面が爆ぜる。それにより撒き上がった粉塵の中、カナタはデミウルゴスの刃を右手の肘窩に押し当て、躊躇なく刃を奔らせる。噴血。上肢動脈の複数を切断したことにより、大量の血液のカナタの足下を濡らしていく。
「手数を増やすぞ」
ーー時間を巻き戻すなら。それを上回る速度で破壊すればいい
ーー命をストックしているなら。それら全てを破壊すればいい
「咲き誇れーー【代償転化】」
カナタがそう唱えた瞬間、彼の足元を濡らしていた血だまりが消えた。そして、音もなく振動もなく神殿内のそこここから真紅の刀が文字通り、生えた。カナタはスキルを発動させ、自分の血液で無数の刀を創造したのだ。
「2000振りだ。耐久力は心もとないが、その一振り一振りがお前を殺す」
巨人から視線を外すことなく、カナタはデミウルゴスを持たない左手を静か天に向かって掲げる。すると、無数の刀が音もなく空中へと浮かび上がる。
そしてそれらの無数の剣先が、巨人へと向けられた。
「耐えられるなら、耐えて見せろ」
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