第27話 意思による器
黒色の大盾でもって、戦斧の一撃を防いだカナタの行動は早かった。わずかに盾を傾け、流線型の盾の表面に沿わせて斧の軌道を逸らす。その結果、勢いが衰えていなかった戦斧に引きずられるように、騎士像の体幹が大きく崩れた。
その隙を逃すまいと、カナタは盾を持たぬ左手の中指、その中節骨と基節骨を噛み砕く。
「フッーーーー‼︎」
大盾を支点にしカナタはみずからの体を大きく反転させる。遠心力を上のせして放たれた一蹴は、騎士像を大きく吹き飛ばした。
カナタは今度こそ意識を外すまいと、騎士像へと注目しながら手にした大盾の感触を確かめる。
「お見事、です。カナタ様」
「オレが持っていたのは『剣』じゃなかったのか?」
カナタは当然の疑問を口にする。先刻、光の中から現れたのは短いながらも紛うことなく剣であった。だが彼が今携えているのは大盾。騎士像の一撃に対してほぼ反射的に剣を振るった次の瞬間に、それが盾になるというのはどういうことか。
「カナタ様が手にしたのは、剣であり剣でありません。千変万化のデミウルゴスはその名の通り、カナタ様の気持ちによって、その形状を変えるものなのです」
「じゃあ今のは、『攻撃を防ぐ』というオレの意思に反応して変形したと?」
「ですです」
「なるほどなーー」
カナタの今までの攻撃方法は、言わずもがな”近接特化”であり”攻撃専門”。そしてそれは、カナタの最大の弱点でもあった。だが、このデミウルゴスならばそれを補完して余りある。それは、つまり
「いいぜ。……いいじゃないか! イオナ‼︎」
カナタは意識を盾に集中させる。今はもう、敵の攻撃を防ぐ必要はない、今必要なのはあの敵を滅するための、獲物。
すると瞬く間に盾がその形状を変えた。盾の外角部が幾重にも折りたたまれ、棒状に変わる。その先端からはマズルが突出し、盾の持ち手はグリップへと姿を変える。実物を見たことなどはもちろん皆無。やけに機械的ながらも、、カナタにはそれが大型の”銃”であることが理解できた。
「やっぱり、お前を連れてきたオレの考えは正しかった!」
狙いを定め、トリガーを引きしぼると、大きな衝撃とともに破裂音が空間に響き渡る。
続けざまにトリガーを引くこと都合5度。
銃口から吐き出された銃弾は、空気を切り裂き騎士像へと迫る。
カナタはトリガーを引き絞ったその直後、銃を持っていない方の手、すなわち左手の親指でもって、左手薬指を強く押し付け基節骨の根元を折り砕く。
「【代償執行】」
そして強化された脚力で地を蹴り砕き、駆ける。銃弾を先頭に、その後ろを猛烈なスピードでカナタは疾走した。
全ての銃弾がわずかの時間のズレで騎士像の顔面へと命中。その銃弾が果たしてどれほどの威力を有しているのかは、カナタにはわからない。
ゆえに着弾し、騎士像が崩壊に至らなかったとしても、それは些末なこと。
右手首をスナップさせることで、バレルが展開する。手にしていた銃は、その長さを一メートルほどに伸ばした。さらに撃鉄がグリップ側に落ち込むと、鈍い音を発しながらバレルから刃が現れる。それは、その名に偽りのない剣。
「これでーー」
着弾とのズレはコンマの内。
「詰みだ」
カナタは変形したその剣でもって、銃弾を受けた衝撃でたたらをふむ騎士像を撫で斬った。
一瞬の静寂。騎士像は、ちょうど腹のところから甲冑ごと断たれ、上半身と下半身それぞれが音を立てて崩れ落ちた。
「盾にもなるし、銃にもなる剣」
刀身には一切欠けなどは見当たらず、その黒色を煌めかせている。カナタは刀を血振りするように、剣を振り払うと、バタフライナイフがごとく、元の短剣形状へと姿を変えた。
「切れ味も悪くない。まさか騎士像を両断できるなんてな」
「ですです」
歩み寄るイオナに対してカナタが言葉を投げると、微笑みながらイオナが答えた。
「ですが、ここまで使いこなせるとは思いませんでした。流石です、カナタ様」
「しかしなんでまた、こんなものがイオナに封印されていた?」
「なんででしたっけ?」
「……オレに聞いて、わかる訳ないだろう」
ため息をひとつ。踵を返したカナタは広場を進む。どうやら、動く騎士像はあの一体のみらしく、他の甲冑を着た石像は動き出す気配はなかった。
だがその時、カナタは音を聞いた。
屋内からでなく、外。今まで歩いてきた迷宮の方角から聞こえるその音は、ひとつひとつは大きくないにしろ、その数は今までの比ではない。明らかに、大量の何かが押し寄せる音であった。
「チッーー次はなんだ」
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