第25話 偽り
「世界五分前仮説」なるものがある。だがそれは、それを観測する者がいない限り机上の空論でしかない。だがイオナは観測した。観測してしまったのだ。その”境界”を。
「最初は間違いかと思いました。だからこそ、何度も観測する内にさまざまな矛盾点に気づき、そしていつしかカナタ様のように疑問を抱くようになりました。この世界は一体何なのか、と」
イオナがカナタと同じ異世界より召喚された者であることも、カナタにとっては驚きであった。だが、それを口にできないほどカナタは今驚愕していた。ーー世界がいきなり誕生するとは、一体どういうことだ。
「この世界の始まり、その前は一体ーーどうなっていたんだ?」
「同じです。同じように異世界より人間を召喚し、魔物を打倒させていました」
「つまり、同じってことか?」
「そうです。そしてその世界は、ある日突然消滅しました」
「なんでだーーなんで、消滅したんだ?」
その問いかけに、イオナは瞼をふせ首を横に振る。
「その答えを得ようと私は更に過去を観測しようとしました。その時ある男が私の前に現れたのです」
「ガスパール、そう名乗る祭服を着た男性でした」
● ● ●
カナタは今、洞窟内にて横になっていた。ふと首を横に傾けると、イオナが小さな寝息をたて眠っている。
イオナの話によれば、ガスパールに捕らえられたイオナは【俯瞰眼】の能力を剥奪され、この無間牢獄に封印されたとのことだった。
ーーあなた様の抱く疑問は、正しい
ーーある時を境にして、いきなり文明が、人が登場していたのです
なぜイオナが、最初はこの世界に対して疑問を抱かなかったのか。そして、なぜカナタはそれに対して疑問を抱いたのか。
その答えはまだ分からない。だがカナタはようやく得た、この世界は現実だという答えを。
「(ガスパール)」
ふと思い出す。あのアダルブレヒトの側にいた男のことを。
アレが何者なのか。イオナを捕らえたということ、それは「不都合な事実を知られたくないから能力を奪い、捕らえた」というのがもっともらしい理由だろう。だからこそ、会う必要がある。そうカナタは考えた。
「(あいつは知っているはずだ。この世界の秘密をーー)」
イオナのおかげで、ようやく掴んだ。その細い糸を手繰り寄せ、いつか至る。この世界を壊すという大望に。
「ーー」
その時、カナタの瞳からひと筋の涙がこぼれ落ちた。
ーー帰ろう。俺も雪乃も。真樹も可憐も里穂も、ちょっとアレだけど優哉も。
ーーみんなで、ちゃんと俺たちの世界に、帰るんだ
今更だ。内心でカナタはひとり毒づく。
悲しんでも現実は覆らない。だからこそ。
ーーかつて果たせなかったなら、これから果たせ!
もう振り返ることはしない。涙も決して流さない。だからこそ、このひと筋の涙が真の決別。
ひとり誓いを胸にしたカナタは呟く。誰に言い聞かせるでもなく、ただみずからのために。
「やってやる。必ず。ーー必ずだ」
● ●
ひと眠りした後、カナタとイオナは洞窟の中を歩き始めた。
当然ながら天井があるため、黄昏の光は入り込んでいない。夜目が効くカナタはともかく、イオナはこの光源のない洞窟は大丈夫かといささかの不安を覚えていたが。
「カナタ様、ここ、少し窪んでいるの注意してください」
そこら中にヒカリゴケのような苔が生えているため、洞窟は意外と明るさが保たれていた。
「知っている。というか見えている。オレのことはいいから、まっすぐ前を見てろ」
「そうは行きません。引っ掛けて転んだりしたら、一大事です」
「……手を繋ぐのも、そのためか」
「ですです」
必要ないと振りほどくと、イオナは頬を膨らませ小さく抗議の意を示すも、カナタはそれを無視した。
「カナタ様のためなのに……」
「気持ちだけで結構で。それよりもイオナ、体調はどうなんだ」
「ばっちぐーです」
変わらずの無表情で腰に手を当て、小さな胸を張るイオナはそう宣言した。
それに対し「期待している」とだけ答え、2人は洞窟の中を進み続けるのだった。
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