第24話 この世界はーー
膝を折り、カナタ地面に崩折れると、
「カナタ様⁉︎」
全てを見守っていたイオナが慌てて駆け寄るが、今のカナタには手を上げて応じるのが精一杯であった。
息をせき切って、カナタのそばまでやってきたイオナは倒れ伏したカナタを覗き込む。
「なんてムチャなことを。カナタ様は、あんぽんたんです、です」
「ムチャは承知の上だ。でもオレの【代償執行】はあんな使い方しかできないんだよ。流石のハズレスキルだからな」
「今まで、もあんな戦い方を?」
「それしかなかったからな。まあ、こんな無茶は初めてだが」
その時、カナタの視界にあるメッセージが浮かび上がってきた。「レベルアップしました」という無機質な字列が、目につく。
「カナタ様? どうかしましたか?」
カナタの視線が宙を彷徨うのを見たイオナが問いかけた。
「レベルがアップしました、とさ。本当にどうかしている」
「何が、ですか?」
「ステータスが、だよ。敵を倒したら経験値がもらえて、そしてそれが一定値を超えるとレベルが上がる。本来目に見えない概念が目に見える数値となっていることが、だ」
イオナはじっとカナタを見つめ、口を挟もうとしない。
「はっきりと言っておく。俺はこの世界を『異常』だと思っているんだ。だってそれ以外に考えられるか? 言葉が通じるのもそう。念じれば出てくるステータスもそう。全てが『都合が良すぎる』んだ」
今カナタは何不自由なくイオナと会話をしているが、それもおかしい。明らかにカナタの人種とは異なるにも関わらず、ここでは会話での意思疎通ができている。仮に、もし仮にこの世界に統一言語があり、万人との意思疎通が可能であるならば、なぜカナタはそれを話すことができるのか?
実はゲームの中の世界です、と言われたほうがむしろ納得できるような、そんな世界。
「死体は消え、光になって消える。システムメッセージのようなものが視界の端に見えるーーどう考えたって普通じゃない。だが、オレとともに召喚されたヤツらは何も疑問に思っていなかった。もちろんアダルブレヒトも言っていた『そういうものだ』と」
初めは静かに語り始めたカナタの口調は、最後には熱を帯びていた。そうしなければ納得できない、そんな気持ちがあるのかもしれない。
そして、もし。もし仮にこの世界がゲーム世界であるのならば、被害者たちーー雪乃たちもどこかで生きている。そう考えることができる。
だがそれならば、この痛みはなんだ。この感情の渦巻きはなんだ。あの雪乃たちの死のリアルさは、現実と思わざるを得ない。
分からないことだらけだ、とカナタは静かにこぼした。
カナタは欲していた。この世界の正体を。己が壊すと誓った、その真実の姿を。
「ーー教えろイオナ。いや、教えてくれ。この世界は偽りのものか、それともーー」
そんなカナタを、イオナは優しく抱きしめた。いつかのように、その頭を撫でながら。
「ーーカナタ様は、お強いのですね」
イオナが優しく紡いだ言葉。
「人は誰しも、前提を受け入れます。なぜならばそれが心地よく。みずからは傷つかないから」
血を流しすぎたせいか、ずっとカナタの耳鳴りは止まないままだった。それなのに、イオナの言葉はカナタの耳朶にはっきりと響いた。
「こういうものだ。そういうものだ。人は弱いからこそ、納得をするのです」
「ーー単に、偏屈なだけかもしれないぞ」
静かに首を左右に振るイオナ。
「いえカナタ様ーーあなた様の抱く疑問は、正しい」
そして静かに告げた。世界のありのままの姿を。
「それは、どういうーーことだ?」
「この世界は紛れもなく現実です」
イオナは告げる。この世界はゲームなどではない、と。つまりは雪乃たちは死んだのだ。紛れもなく。
「そしてステータスや経験値と言ったシステムも、本来ならば存在し得ないもの」
口が異様に乾くのを自覚しながら、カナタはイオナから視線を逸らさない。
「なぜ……イオナはそれを、知っている」
「私が持つ、いえ持っていた能力。その能力こそ【俯瞰眼】。そう呼ばれるものでした」
それはカナタの問いかけに対する返答とは噛み合わない。だがカナタはそれを問いただす訳でもなく、ただイオナの言葉に耳を傾け続ける。
「カナタ様は多次元宇宙論をご存知ですか?」
「いや」
「宇宙、世界は無限に存在しています。波動関数の収縮を想定せず、すべての解に対応した世界が存在しているのです。さらに言うと、その全てにおいて時間軸も固定されていない。そんな鏡合わせのように無数に存在する世界を観測できるのか【俯瞰眼】」
言わばそれは、今認識する次元よりも、さらに高い次元より俯瞰することで並行世界、現在・過去・未来を観測するプロビデンスの目。
「ーー私もかつて、この異世界に召喚されました。ですが私は、カナタ様のような疑問を抱きませんでした。そして、最初は単なる興味でした。この世界の過去を知りたくなったのです。一体どのような文明が育まれ、どんな風に人の営みが紡がれてきたのか」
ありし日を思い出すかのように、イオナは言う。
「何が、見えた?」
「何も」
「ーー」
「何も、見えなかったのです」
いつしか、イオナの小さな肩が小刻みに震えていた。それを押さえるように、イオナは自身の肩を掻き抱く。
「この世界には過去がないのです。ある時を境にして、いきなり文明が、人が登場していたのです」
本日もお読みいただきましてありがとうございます。(定型分になってしまいすみません)
だんだんとこの世界の謎も出てきますので、どうか楽しんでいただければ!
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