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第23話 決着

 繰り出された打撃はどれほどだろうか。とうにカナタは数えるのをやめていた。いや、数える余裕なんてものは、すでに消え失せていたのだ。


 いかな真祖から力を託され、半真祖になっているとしても、痛覚が消失しているわけではない。その痛みは、カナタの意識を刈り取るに十分なほどとなっている。

 しかし、痛みで体を止めるわけにはいかない。意識を途切れさせるわけにはいかない。


 あと一撃。


 次の一撃で終わる。


 今度こそが最後の一撃だ。


 そんな希望を抱くことも今は無意味。今はただ己の体を壊し続け、その胸に滾る熱を消さぬよう走り続ける。


「がぁあああああああ!」

 カナタの踵落としをその脳天に受け、笑い像の足元が大きく陥没し、そこを中心として四方に床がひび割れる。カナタの紅の瞳が赤光に(たぎ)り、光を()く。背後からの肘打ち。更に残光を曳き、側頭部への回し蹴り。


 カナタのスピードは人域を凌駕していた。笑い像にはカナタの存在は黒い残像と、赤い曳光(えいこう)としてしか認識できていない。そんな存在へと攻撃を当てることは不可能と判断した笑い像は、いつしか攻撃の手をやめ、腕を顔の正面にて交差し防御の姿勢を取っていた。


 まるで、このまま耐え続ければカナタは自滅する、と知っているかのように。


 防御するならばそれでいい、その腕ごと頭を砕く。

 過去より現在は速く。未来は現在よりもっと速く。カナタは限界を超えて()()()()()()()()


 壁を踏みしめ笑い像へと飛びかかり、中空にてみずからの体を回転させたカナタは、膂力に遠心力を加えて打撃を見舞う。だがその瞬間ーー


「がっーー!」

 

 カナタの腕の関節、肘の上部の上腕骨が砕けた。更に皮膚が破れ墳血が空間に舞う。それと同時にこらえようのない嘔吐感に押されて血を吐き出した。


 頭が、腕が、足が、いや体全体が今にも引きちぎられそうにーー痛む。


 チカチカと視界に光が走るのを無視し、呪いのように唱え続けるは。【代償執行(ガテンツァ)


 痛みは置いていく、それは邪魔なものだから。

 迷いも捨て去る、それは体を鈍らせるものだから。

 そう、石像に対して「我慢比べ」と言い放ったカナタではあるが、彼は既に理解しているのだ。


 これは敵との戦いでなく、ただただ()()()()()であるということを。


「(もっとーーもっとーーもっともっともっともっともっともっともっと!)」

 打ち上げられたカナタの掌底は、砲弾のよう。離れてその戦いを見守るイオナの足元にまでその衝撃は伝わる。


「(もっとーー重く)」

 間髪を入れず、カナタは笑い像の膝を足場とし、その顎に強烈な膝蹴りを見舞った。空中へと舞い上がった笑い像の足を両手で掴み、上半身をバネにして地面へと叩きつける。


「(もっとーー速く)」

 仰向けとなった笑い像に(また)がるカナタは、その顔面を滅多打ちにする。一撃見舞われるごとに笑い像の後頭部は地面にめり込み、その下半身は衝撃の大きさを物語るかのように跳ね上がる。


「(もっとーー強く)」

 カナタの拳の骨が砕けた。中手骨(ちゅうしゅこつ)が皮を突き破り露出するも、そのまま殴り続ける。回復を待っている暇は、ない。


「(全てを壊すためにーーもっとだ‼︎)

 カナタは跳ね上がった笑い像の下半身を掴み、ジャイアントスイングの要領で天上へと放り投げる。そして激突し、地に落ちてきた笑い像の右頬を目掛け、カナタは折れた拳をさらに強く握りしめた。


 打撃音が響いたその時にはすでに、カナタの拳は振り抜かれていた。音を置き去りにした一撃を最後に、カナタは攻撃の手を、ついに止めた。

 

 ーー静寂。

 永遠に続くかと思われるその攻防はしかし、唐突に終わりを告げた。

 空間に響き続けていた激突音、衝撃音、破壊音も止み、今ふたたび洞窟内は無音となったのだ。




「……っ。かは」


 先ほどとは比較にならないほどの血塊をカナタは吐き出す。腕も力なく下げられており、そこからも血が滴っている。立っているがやっとと代弁するように、足は小刻みに震えていた。


「………………w wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww」

 甲高い笑い声が空洞内に木霊した。それはもちろん笑い像によるもの。

 その笑声(しょうせい)は自らの勝利を確信したがゆえのものだ。


「www wwww wwww」

「うるせぇな……お前のその甲高い声は、頭にエラく響くんだよ」


 そして笑い像は、腕を振り上げる。自らの眼前にて背を向けるカナタにトドメを刺さんと、その腕を振り下ろした。


「wwwwwwwww! ……………………………!  !!!!!!!!!!」 


 ーーはずだった。だがその攻撃はカナタには届かない。何故ならばーー


「どれだけ絶望しても悲しくても笑うことしかできないっていうのは、幸せなのか不幸なのか」


 そう呟きながら、口の端や、瞳から血を流すカナタが振り返る。

 その時、初めて笑い像は自分の体を見た。全身くまなくヒビ割れ、今にも瓦解寸前の体を。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「………………………w?」

「オレの、勝ちだ」


 カナタが一歩踏み出すと、笑い像は一歩後退する。ただそれだけ。ただ地面を踏みしめるだけで、笑い像の片足が崩れた。


 その失われた足を愕然と見下ろし、次いでカナタの方へ顔を向ける。笑い像の表情は変わらない。


「だがまぁ、今際の際に笑っていられるのは、幸せなことなんだろうな」

 カナタが手をあげ、その笑い像の顔に触れ、呟く。


「穿てーー【代償転化(カデナ)】」

 血刀が石像の頭部を貫き、後頭部から突き出した。

本日もお読みいただきまして誠にありがとうございます。

明日からも早めの時間に更新できるように、努めますね....!


まだまだ若輩の身でありますので、感想や誤字報告、評価などをいただければ大変うれしいです!


引き続きよろしくお願いいたします。

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