第19話 囚われの少女
一週間お疲れ様でした。
そして本日も投稿遅くなりすみません...!
そこはカナタが長足の天使像を破壊した場所からそう遠くない場所であった。
回廊は回廊。しかし無数の扉が左右に並んでおり、今までの風景とは少し異なっている。扉は鉄のような重厚なものであるが、オリガの部屋の扉にあったような意匠はなく、無機質な印象をカナタは抱いた。
長足の天使像は果たして闇雲に逃げていたのか。
それとも、仲間がいる場所に行こうとしていたのかーーもしくはこの空間から脱出する出口へと。
どちらにしろ構わない。
敵がいれば、壊す。そして強くなりーー為すべきことを為す。
「面倒くせえが仕方ない、ひとつひとつ調べていくしかないか」
言って近場の扉を開く。するとそこは、オリガの部屋のように天井があり室内は闇に覆われている。
次の部屋も同様、次の部屋も、その次も…………………………
● ● ●
一体どれほどの部屋を開け放っただろうか。
カナタがふと振り返ると、長い回廊に開け放しにされた扉だけが残っていた。
どの部屋にも何もなかったというわけではない。ただ鎖だけが残されていた部屋もあれば、僅かに血痕のような黒いシミが残されていたような部屋も確かにあった。だがどの部屋にも、生きている者は存在していなかった。
扉を無視してさらに回廊を降ったほうがよいのではないか、という考えがカナタの頭によぎらなかったわけではない。しかし、もしも偶然開け放った扉が出口に通じていたら、もしくは敵がいたらと思うと開けずにはいられなかったのだ。
だが、何かがあると期待していたわけではない。その扉を開けるまでは。
そこも密室。室内を灯すような明かりはない。当然空気もよどんでおり、カビのような匂いがカナタの鼻をついた。
そしてこれもカナタが半真祖となった特性なのか、今のカナタは非常に夜目が効いた。
その中に何かを見た。
「……誰かいるのですか?」
「ッーー!?」
唐突に、鈴の鳴るような声がその空間に響いた。
見れば、銀髪の少女だった。オリガのように杭を打たれているわけではないが、その両手には鎖が巻き付けられており、鎖のもう片方は天井に打ち据えられている。膝をおり、両腕を吊り上げられているせいで前傾姿勢になっている少女の目には、包帯が巻かれていた。
まさか話しかけられると思っても見なかったカナタは息を呑む。
そして意を決して、答えた。
「あぁ……一応言っておくが、怪しい者じゃない」
「……」
「まあ、そんな反応になるのはわかる。とりあえず近づいてもいいか」
少女の答えを待つことなく部屋へと踏み込み、後ろ手で扉を閉める。
「突然でアレだが、アンタに聞きたいことがある。出口はどこだ?」
「イオナ」
「........なんだって?」
垂れていた首をあげ、包帯ごしの視線でじっとカナタを見据え少女は言う。
「イオナリオ・ルルア・リシェール。私の名前です、です。長くて言いにくい場合は、イオナとお呼びください」
一体どれほどの時間ここに囚われていたのだろうか。イオナの手はひどくやせ細っていた。カナタが握ればたやすく折れてしまいそうなほどに。
「イオナ、ね。オレのことはカナタと呼べ。もう一度聞く、出口を知っているのか? もし知っているならさっさと答えろ」
「ーーはい。と言っても確定的な情報ではありませんが……」
「それでもいい。出口はどこだ」
イオナは視線を地へと向ける。その所作は、答えに窮したわけではないことをカナタも理解していた。
「さらに下か」
「はい。ですが未だかつてこの無間牢獄から脱出できた者はいないと言われています」
「無間、牢獄......」
「その名の通り、牢獄です。この世界に仇なす者を永遠に幽閉する。私もある能力を有していたが為に、ここに囚われてしまいました」
イオナの言葉を聞き、カナタは妖しげに口元を釣り上げる。
今イオナは言った「この世界に仇なす者を」と。であればーー
「イオナ。ここから出て、オレと一緒に行く気はあるか?」
「? どういうことでしょうか? 私には言っている意味がーー」
「オレの目的は、この世界を壊すことだ」
「ーー」
「理由は後で話す。それに来たくないと言っても、悪いが来てもらうぞ」
言い終わるやいなや、カナタはイオナを拘束している鎖に手をかける。
「ぐっっ!」
万力の力を込めて、天井の鎖を引き千切ろうとするもそれは微動だにしない。全力のカナタをあざ笑うかのように、鎖が擦れる音だけが部屋に響き続ける。
「くはぁっ! チッ! なんだこの鎖、ビクともしない!」
「この鎖は言わば魔法のそれに属するものです。【鉄鎖封印・結界魔法】。恐らくは力でこれを断ち切るのは不可能かと……」
「……方法は?」
「対象の死」
淡々と少女は答える。
だがカナタは感じていた、その声には明確に諦観の念がある、と。
「死してはじめて、この封印は解かれるのです」
それはいわば死の宣告。
この封印を受けた時点で、その者の運命は決するのだと、イオナは静かな声で語った。
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