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第18話 追う者逃げる者

遅くなってしまいすみません....!

 オリガの最後の粒子が空間に消えるのを見届けていたカナタは、そっと呟く。カナタはじっと見届けていた。

「なずべきことは、わかった」

 その眼には、一切の迷いはない。


 視線を杭へと移す。そこに残されていた漆黒の外套だけが、そこに誰かがいたことを雄弁に物語っていた。

 カナタはその外套を羽織り、部屋を後にする。

「背中と腹に穴が空いてるが……これは繕えばなんとかなるだろう。それよりもーー」


 カタリ、という僅かな音。巨像を殴り飛ばした時の壁の残骸が堆積している場所から聞こえたその音をカナタは聞き逃さなかった。


「出てこい。出てこなければその残骸ごと吹き飛ばーー」

 カナタの言葉が言い終わらぬうちに、うず高く積まれた瓦礫から何かが飛び出した。天使像だ。

 だがその天使像は先ほどまでカナタが破壊し尽くした微笑みの天使像とは異なる形をなしていた。顔や体はほぼほぼ同じだが、その()()()()()()()。見ようによってはひどくアンバランスなその天使像はカナタへ迫ることはなく、一目散に背を向けて走り出した。

 決して自分ではカナタを打倒し得ない。先刻の蹂躙、そして巨像の末路を密かに見ていたであろうその長足が選んだのは、逃げの一手であった。


 目を見張る速さで逃走する天使像の背中が、瞬きの間に小さくなる。

 その背をカナタは射抜くように見つめていた。


「オレは、オレのなすべきことをする」


 そしてゆっくりと左手の中指を口にやり、ためらう事なく噛み砕く。

「【代償執行(ガテンツァ)】」

 回廊に一陣の風が吹き、瓦礫とともに堆積していた塵が舞い上がる。


 そしてその次の瞬間には、すでにカナタの姿は消え失せていた。


    ● ● ●


 天井のない回廊から見える空は、変わらず黄昏。

 カナタがこの空間に訪れてから既に1時間ほど経過しているが、陽が完全に沈むことはない。


 その陽に照らされながら、長足の天使像はアスリートもかくやと思われるフォームで回廊を駆ける。

 最初は他の天使像にならい、オリガが封印されていた部屋へと殺到したのも束の間、瓦礫の中に埋もれてしまったその天使像。幸か不幸か、そのおかげで破壊を免れることができた。


「あの敵は自らの手に負えない」そう判断しての潜伏、逃走。


 たとえば微笑みの天使像の長所は数の利。巨像の天使像の利は怪力。

 そして長足の天使像の利は脚力にあった。

 他の追随を許さぬ脚力に追いつける者はない。逃走という望まぬ行為であったとしても、その自負を長足の天使像は持ち合わせていたのだ。

  

 だがーー


「逃すと思うか?」

「hugaroliakop!?」


 顔面に裏拳を受けたことにより、そこを支点にして180度回転した天使像は、その後頭部を回廊へと叩きつける。何が起こったかを理解できない長足の天使像は、転倒ではなくその混乱によって、前後不覚に陥っていた。


「お前はどこに行こうとしていた? 仲間がいるところか?」

 そんなことを問いかけながら、カナタは倒れ伏した天使像の首を鷲掴み持ち上げる。

 もちろんカナタは返答などは期待していない。だが、だからと言って逃すはずも、ない。


 一瞬の寂寞。

 そしてそれは長足の天使像にとってはチャンスであった。

 カナタは長足の天使像を、すでに「戦意のない逃走者」としてしか見ていない。しかも今は、掴み上げられていることで、カナタと長足の天使像の距離が、非常に近い。

 つまりそれはーー

「k,,,,,,,:kpfairjagpopk!」

 カナタだけでなく、()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 「ガハッ!」

 果たしてどのような衝撃が加われば、人体からこのような音が発生するのか。そう思えるほどの快音が響いた。

 膝蹴り。

 掴み上げられたまま、天使像はその長い足の膝をカナタの腹部へとめり込ませていたのだ。


「kkkkkkkkkkkja!!」


 もし普通の人間であるならば、その圧力に内臓が押しつぶされるほどの加重。口から、鼻から、耳から、いや穴という穴から行き場を無くした血液が噴出するほどの一撃。

 それすらも、


「…………aja?」

「【代償執行(ガテンツァ)】」

 カナタは自らの糧へと変える。


 口から、僅かに血を滴らせたカナタがそう呟いた瞬間。天使像を鷲掴んでいた指がその石の肌へと食い込む。

「gyihukl !!!!!!!!!!! gawr!」


「怪力専門もいれば、お前のような足技専門もいるってことか」


 果たして石像が首を絞められることでどんな不都合があるのか、カナタには当然検討もつかない。だが、必死にカナタの手を振りほどこうとしている姿を見る限り、決して良いことではないのだろう。


「とりあえず道案内ご苦労。ここから先はオレひとりでいく」

 そう呟き、右手を握りしめる。


「⁉︎? gajria--------」 

 ただそれだけ。それだけで、石像の首が折れ頭部が音を立てて地面に落ちた。


「だからお前は、ここで壊す」

 首だけになって転がる天使像の頭部が捉えた最後の視界は、カナタの足。

 かつて自分たちが行ってきたのと同様、それは一方的な蹂躙であった。

本日もお読みいただきまして誠にありがとうございました!

明日投稿予定の次話では、ようやくヒロインの登場となります。(お待たせいたしました)

引き続き楽しんでいただければ幸いです。


そして、もし面白いと思っていただけましたら、励みにもなりますので評価をお願いできればうれしいです。

よろしくお願いいたします!

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