第17話 託されたもの
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巨像がただの石くれとなる様を見届けたカナタの視界にそんなメッセージが舞い降りた。
がむしゃらに戦い続けていたゆえに全く気づくことはなかったが、ジェヴォーダンの獣、そして無数の石像を蹂躙していた最中にも同様のメッセージは確かにカナタへと届けられていたのだ。
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■■■彼方 17歳 男 半真祖
職業:
レベル:119
筋力値:1230
体力値:1800
耐性値:1800
敏捷値:1955
魔力値:980
魔法耐性値:776
スキル:言語理解、■■■■、代償執行、代償転化、自己回復、血流操作、■■■■、■■■■、■■■■、■■■■
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「ようやくか......。危うくホントに寝ちまうところだった」
カナタの戦いを見届けていた銀髪の男が口を開く。
「さっきは『静かにしろ』って言ってなかった?」
「……屁理屈までも言うようになるとは思わなかった。やっぱりお前はカナタだ」
男の言葉尻はどこか弱々しい。当初部屋に入ってきた時とは比べるべくもない。
だが彼の体を気遣うよりも先に、カナタにはどうしても問いかけておきたいことがあった。
「それよりも、だ。聞きたいことがある。まずはひとつ『半真祖』ってのはなんだ?」
「そうだな、お前にもわかる単語でいうと『吸血鬼』。だから半真祖は『半吸血鬼』ってやつだ」
「おいちょっと待て、俺は人間じゃなくなったってことか?」
男が何の気なしに呟いた言葉に、カナタはつぶさに反応する。だが男は、それも当然とばかりに「当然だろう。世界を壊すなんてバカげたことを考える奴が、人であると思うか?」飄々と答えるだけだった。
「......なるほど、俺の口から自然と屁理屈が出たのはやっぱりアンタのーー」
「オリガだ。そう呼べ」
「オリガの責任ってことだ」
そうカナタが言うと、くっと喉を鳴らすオリガ。
「半真祖の特性をお前はもう知っているはずだ。常軌を逸した自己修復、だからこそはお前は自分の骨をボキボキ折ることが、できた」
「じゃあ、なんでオリガは?」
回復しないんだ、と問うまでもなく、カナタの視線にはその疑問が込められていた。
「当然だ。核たる心臓をお前に託したからだよ」
「ーー! ちょっと待て、じゃあお前は⁉︎」
「じきに死ぬ。いくらオレでも、動力炉なしに動けるほどチートじゃないんだよ」
カナタは自分の胸に手を当てた。脈動する心臓の鼓動を確認するが、別にそれが2重に感じられる訳ではない。
「確認しても意味はない。なぜなら、今はまだオレの心臓はお前の中で鼓動していない、からな。と言うよりも、もしオレの心臓が動けばカナタ、お前は死ぬ。だがあの時はそうする他なかった。だから、許せ」
体に爆弾を埋め込んでなんて言い草だとカナタは感じたが、反論はできない。あの時オリガがいなければ、間違いなく死んでいたのだから。
「オレの心臓が動けば、まず間違いなくお前の存在が耐えきれない。オレという存在に上書きされ、お前という存在は消えてしまう……。だからカナタ、お前自身の心臓を止めるな。止まればオレの心臓が動き出すからな。……そうだな、今より、もっと強くなれば、大丈夫だろう」
先ほどからオリガの瞼が痙攣するように動く、それはまるで瞳を閉じるのを拒むよう。
「あと何を言うべきか……そうだなーーとりあえず、お前はお前が信じたことを為せ。そうすれば道は続く」
「その道がどん詰まりだったら?」
「甘えるな。その時はお前が道を作れ」
ピシャリと遮るような言葉。第三者が耳にすれば、それは冷徹に聞こえるかもしれない。
だがカナタは違った。オリガは命を与えてくれた、そして力さえも与えてくれた。それ以上に何かを望むのは違う。ひとえにそう感じたから。だからこそ、聞かずにはいられなかった。
「......オリガ。なぜここまでしてくれた?」
「そうだな強いて言うなら、託したからだ」
何を、と答えるよりも先にオリガが続ける。
「こんな世界は間違っている、そう思いながらも何もできなかった男がいた。弱かったんだ……心が。だからこそ止められなかった。いや止まってしまった」
遠い昔を思い出すような声。今にも消えてしまいそうな男はそれでも、そこに後悔の念を宿らせる。
「その結果だ。今の世界も今のオレも。……本来ならばオレがケリをつけるべきこと。だけど、それも叶わないだからこそーー」
すでに胡乱だったオリガの瞳に、滾るような熱が宿る。
「お前に託す」
その時、何かがカナタの視界を横切った。雪乃たちが消滅した時にも見た、光の粒子。オリガの身体の末端から、流れいでる光。
「オリガ、お前はーー」
「ああ、オレが何者か、ということについては、まだだ」
カナタの言葉を遮るように、オリガは言う。その強い口調とは裏腹に、オリガの頬は少しだけ緩んでいた。
「それは、お前が、見つけるべき、だ。そうでなければ、オレと、一緒になってしま、う……」
「......最後に、ひとつだけいいか」
「なんだ、早くしろ。もう、ほと、んど何も聞こえない、んだ…….」
「ありがとう、あとは俺にーーいや、オレに任せろ」
それはきっと、オリガが聞きたかった言葉。
だからだろうか、オリガの顔は今際の際とは思えないほど安らかで、穏やかだった。
「ああーー。今度は、しくじるなよ、この弱虫野郎」
オリガの終わりの言葉は短く。
杭に貫かれ、ここに幽閉されて幾星霜。やっと、オリガは眠りについた。
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