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第1話 終わりの召還の始まり

「ようやくーー」「カナタ。お前あのゲームやってんの? じゃあ俺とフレンド登録しようぜ」

「がんばろうぜカナタ。大丈夫だって!」「カナタくん、あのねーー」

「起きたか」

 その声を聞き弾かれたようにカナタは起き上がる。「がッーー!」刺すような頭痛に頭を抑えながらも、視線をあたりに巡らせた。


 縦長の空間には等間隔に柱が建てられており、視線の先には祭具が(まつ)られている祭壇のようなあつらえ。そこから視線を上にやれば巨大なステンドグラス。

 ただ広く殺風景という訳ではなく、多くの長椅子が所狭しと並ぶ(おごそ)かな空間。


「教会」と称すれば最もしっくりとくるはずであろうその場所に6人の少年少女がいた。

 教会とは不釣り合いの学生服姿で。

 

     ● ● ●


 ここは何処なのか。そして自分はなぜこんなところにいるのか。わからないことが多すぎる。

 まだ(もや)のかかるような頭を必死に回転させ、カナタは思考を巡らせようとするが、

「ーーッ⁉︎」

 再度頭が痛む。それを思い出してはいけない、と誰かが頭を必死に叩いて妨害しているかのように。


 そんな針のむしろに手を突っ込むような思考のすえ、辿りついた答えはたったひとつだけだった。

「か、なたーーそうだ、俺の名前はカナタだ」

 それ以外のことはどうにもこうにも思い出すことができない。まるでつい今さっきこの世に生まれたかのような。


「これは制服。これはシャツ。ボタン、ネクタイーー」

 尻餅をついていたカナタはそのまま自分の服装に目をやり、確かめるように呟く。それが何であるかはわかるし言葉でも表現できる。つまるところカナタはエピソード記憶がすっぽりと抜け落ちている状態であった。


「なんだよこれ! ケータイも県外だしwifiも飛んでねえじゃんか!」

「これってユーカイ? 意味わかんないんだけど! さっきまで渋谷にいたのになんでこんなとこにいんの!」

「みんなとりあえず落ち着いて! 騒いでも得になることは何もない!」

 そんな記憶喪失のカナタと違い、他の少年少女たちは明らかに動揺していた。

 この厳かで静かな教会に、悲鳴にも聞こえる叫び声が放たれると、それは木霊(こだま)のように響き渡った。


 よくよく観察をしてみると男子も女子もそれぞれ違う制服を着用しており、誰ひとりとして同じ制服を(まと)う者はいない。もちろんカナタもそのひとりであった。 

 そんな取り()めのないことをぼんやりと考えながら、カナタが周囲を見回すとひとりの少女の目が合った。

 黒く長く、そしてよく手入れさせれているであろう(つや)のある髪。鼻梁(びりょう)が高く、大人びだ顔立ちで見ていると引き込まれそうになほどに大きく美しい瞳。10人が10人とも美人と(ひょう)するような少女だった。


 じっと見つめるカナタの視線に耐えかねたのか、最初はモジモジと恥ずかしそうにいていた少女は、まっすぐにカナタの元へやって来た。

「えへへ……何だかよくわかんないことに巻き込まれちゃったね。ねね、もしかして君は何か知ってるの? Youtuberの炎上目的の動画撮影のための仕掛けとか?」

「へ?」

「……え?」

 お互いにポカンと口を開ける。そして沈黙。

 段々と少女の顔が赤らんでいき、あわあわと口を動かすも上手く言葉を(つむ)げてはいない。

「ご、ごめんなさい! 挨拶(あいさつ)もせずにいきなり‼︎」

「い、いや」

 最終的に茹でタコのように真っ赤になった少女はその場でペコリと頭を下げる。

「私、雪乃(ゆきの)島村(しまむら)雪乃」

「あぁ、こっちもゴメン。ジロジロ見ちゃって。俺はカナタ。……苗字は思い出せなくて」

「なんで? 頭でも打った?」

 雪乃はそう言うと、背伸びをしてカナタの後頭部へと手を伸ばす。わずかに香る甘い匂いに今度はカナタが赤面をする番だった。

「ーーっ! 大丈夫! 別に頭打ったとかじゃないから! 多分……」

「あ〜赤くなっちゃって……カワイイ〜」

 クスクスと笑い出す雪乃を見て、ようやく自分がからかわれているいることに気づいたカナタは慌てて問いかけた。

「雪乃ーーさんはこの状況、理解は……してないよな。さっきの言葉から察するに」

「てーんでわかんないよ。バイトが終わってさあ帰ろうと思ったら急にこうピカッと光って、それで気づいたらここにいたんだもん」


 ことの顛末(てんまつ)を覚えている雪乃ですらこの状況を理解していない。であれば、記憶喪失のカナタであればなおさらだろう。

「でも、ちょっと思い当たる(ふし)があるんだよね。カナタくんは……そっか記憶喪失だもんね。あのね、最近よく耳にするウワサがあるの。ある日突然、目の前で人が消えちゃうことがあるんだって」

「神隠し、みたいに」

「そう! それでね、ウチのクラスの男子に言わせると、それは『異世界転生』なんだって! 私もね、友達からラノベ借りて読んだんだけど、それがすっごく面白いの!」

「そ、そうなんだ」

 着々と話が脱線しつつあることに気づいていない雪乃は、下り始めたジェットコースターのように止め()なく語り続ける。

「ラノベは知ってる? うん? それも覚えてないの? あのねライトノベルの略でね、今の流行が異世界転生なんだよ! 主人公が異世界に召還されて、すっごい力を授かって悪い魔物を倒す使命を授かるの! もう読んでいてスカッとするからちょ〜気持ちいいんだよ!」

「つまり……俺たちの状況がそれってこと?」

「だったらいいよね‼︎」

 大きな瞳をキラキラと輝かせ、雪乃はカナタに力説するのだった。

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