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第9話 死

 ゴポ。

 空咳とは違う。やけに重い音とともに、真樹(まさき)が大量の血液を口からこぼした。


 剣が深々と突き刺さった自らの胸に視線を落とし、ゆっくりと顔を上げその剣を握る優哉(ゆうや)の顔を見る。そしてまた自分の胸に視線を落とし、崩れ落ちた。


「何してんだ! テメェ!!」

 手にしていた剣を投げ捨て、カナタは渾身の力で優哉を殴りつける。スピードと体重が乗った一撃。通常であるならば、戦意を()り取るはずであろうその衝撃はしかし、優哉に少しのたたらを踏ませるだけであった。

「……お、おい。すげえ、すげえぞ! おお、俺、レベルアップしたって! だからさぁ、お前え、お前の一撃なんか痛くもかゆくもねえよ!」

「ーーッ!」

「お、オレの目の前にウィンドウが出てき、きてよ! ヒャ、100ポイントの経験値を、入手しましたてーー!」

「……」


 カナタはゆっくりと真樹を見た。未だに胸から血が流し続けている彼は、もはやピクリとも動かない。眼球も動かない。その様はまるでーー


「イヤァァァァアアアアアアアアア!」

 絶望の絶叫。里穂(りほ)の悲鳴が、カナタの耳朶(じだ)を打つ。


「つ、次はお前だ……お、オレはレベルアップするんだよ。つ、強くなるんだよ! そのためにしかたねぇんだよおぉぉおおぉ!」

 すでに正常ではない眼差しと、笑顔とも泣き顔とも取れないような狂気の表情を浮かべ、優哉がカナタ迫る。

「■■■■■■■あぁ!」

 最早言葉にならない声をあげ、カナタを真っ二つにしようと、優哉は振り上げた剣で袈裟(けさ)に斬りつける。転げるようにその凶刃を(かわ)したカナタは、ふたたび優哉と距離をとる。


「(クソ! クッソ! クソクソクソ! なんでこんなことに!)」

 絶望はカナタ。

『みなで一緒に帰る』雪乃(ゆきの)とそう誓い合ったのはわずか昨日。その誓いが早々に音をたてて、崩れた。

 否、誓いだけではなかった。カナタの心もまた、音をたててひび割れ始めるーー



「【代償ーー」


 カナタは左手の人差し指を右手で握り込み。そしてーー


「ーー執行】ッ!」


ひと息に、人差し指を、へし折った。


「ーーーーーーーーーーーーーッ!」

 痛い、なんてもんじゃない。まともな思考なんて到底できない。

 だがその瞬間確かにカナタは感じた、身につける装備が軽く、みなぎる力が上昇していることに。


「うひ■■■■ゃ■■■あぁ!!」

 雪乃を始めとした女子たちは、衝撃の大きさにまともに動くことすら叶わない。ならば今ここで優哉を止めなければ、全員が、死ぬ。


 でたらめに振るわれる剣の切っ先が、カナタにはわずかにだがゆっくりと見えた。きっ先を半身を切ることでかわし「いいからーー」右手を強く握り込む「寝てろッ!」

 ゴッと骨を叩く音が響き、殴りつけた拳が火傷したように熱を帯びる。

「ギュへえぁあ!」

 顔面から地面に叩きつけられた優哉の周囲にパラパラと何かが落ちる。殴りつけられた衝撃で折れた、歯だ。


 少しピクピクとした後、伸びて動かなくなった優哉の剣を取り上げるも、カナタの心臓はまだドクドクと早鐘を打ったままだ。

「おい、おい! ジイさん! 真樹をなんとかしれくれ!」

 痛む指をかばいながらも、アダルブレヒトがいるであろう中空に向かって声を張り上げる。


「聞こえてんだろ! さっさとなんとかしやがれ! クソジジイ!」」

 すると、あの笑い声が木霊(こだま)した。

「ほっほっほ。人は突発的な痛みに耐えることはできても、()()()()痛みには躊躇(ちゅうちょ)するものですが。よくぞそのスキルを使いましたな、カナタ殿。()めてさしあげましょうぞ。だが、察するにステータスの上昇値は筋力値がプラス20……。レベルの上がった優哉殿を沈黙させる程度ですか。やはりカスですな」

「うるせぇ! いいからこっから出せ! 真樹を助けろ!」

「良いではありませんか。たがたが一刺しで沈む雑兵(ぞうひょう)など、この先いてもいてなくても子細(しさい)なことです」

 助けるつもりなど皆無。弱者は死ね、と断じるのその冷徹な言葉。


 痛むはずの拳を握りしめ、カナタは虚空を(にら)みつけた。

「ダメ……血が、血が止まらないーー! 里穂(りほ)ちゃん! 回復薬をーー早く!」

「あ……ああ……!」

「ーー‼︎ 可憐(かれん)!」

 すがるような言葉は雪乃。すでに自身のスキルを真樹に施すも、流れ出る血は止まらない。

 すぐさまメイドより支給をされていた回復薬による治療を里穂に願うも、彼女が前後不覚になっていると見るやいなや、可憐へと呼びかけた。


「真樹! 回復薬だ! 早く飲め!」

 雪乃の言葉にすぐに反応した可憐は、飲めばケガを癒し体力を回復させると言うポーション飲ませる。だが真樹の体から流れでる血は止まらない。


 それはつまり、

「無駄でございますよ。私には見えておりますが、すでにその者のHPはゼロ。今さら治癒魔法やポーションではどうにもなりません。いいから早く、残りの皆さまも戦ってはくれませんか? 老体にはこの地下はいささか寒すぎるのですよ」

「ーーっつ! 真樹くんは、助かる! 勝手かなこと言わないで!」


 不安を払拭するような雪乃の絶叫はしかし、アダルブレヒトの笑い声によってかき消される。

 そして終わりはあまりにもあっけない。

「ーーハッ……」

真樹の口から一際大きな血塊が溢れる。それを最後に、真樹は呼吸を止めた。

名前の誤り大変失礼いたしました!

キャラクターの名前部分修正いたしました。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ー真樹がカナタに迫る 真樹死んどるんやないの? 人物名は間違わないで欲しいかな
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