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第3話 ハードにんげんライフ

 ふあ~、よく寝た。


 ん~、なんで寝てたんだっけ? そだ、朝ごはんを食べたら眠くなって寝たんだった。今は、薄暗くなってきたし夕方か~。それで、ここは桜の木の上か。寝ぼけ眼で周囲を見回したけど、今いる場所って地味に高いね。よくこんなところまで登れたな、私。


 夕方まで寝ちゃうなんて、ちょっと寝すぎじゃないかって思ったけど、よくよく考えたら、猫って薄明性とかいう、朝方と夕方が活動時間で、昼間も深夜も寝てる生き物だったね。ということは、この生活のリズムは、猫としては正しいのかな?


 さて、せっかく起きたことだし、本日の第2ラウンドはこの池の周囲を捜索しようかな。私は大きく伸びをして、体をほぐしてから、桜の木を降りることにした。地面までは3m。身体能力的には飛び降りても大丈夫なんだろうけど、飛び降りるなんて怖いことは出来ないので、木の幹に爪を立ててゆっくり降りる。


 ずり、ずりずり、ずりずりずり~。


 ふう、猫の小さい体で、3mちょっとの高さは、結構怖いね。っていうか、今思えばよく登れたよね。登った時のことは眠気のせいか全然覚えてないんだけど、こんなとこどうやって登ったんだろう? う~ん、考えてもダメだ。きっとイージーにゃんこライフなこの猫ボディがなんとかしたんだだろう。


 とりあえず、池の水を飲んで喉を潤わせて、いざ出発だ。


 姿は、人間の姿で行くべきか、猫の姿で行くべきか迷ったけど、今回は猫の姿にした。なぜなら今は夕方だ。私の頭脳が、もうすぐ森の中は暗くなると告げている。その場合、人間の目よりも、猫の目のほうが夜目が効くという結論にいたった。決して、私の本能が、猫の姿のほうが高性能だよ、イージーにゃんこライフだよ、とささやいたからではない。


 私は暗くなりつつある森の中を軽快に走る。流石はイージーにゃんこライフだ。目は暗さをものともせずによく見えるし、いくら走ってもぜんぜん疲れない。しかも、ちょっと調子に乗って三角飛びとか、アクロバティックな動きをしても、全然平気だ。バランスが崩れるとか、そんな不安が一切ない。これが猫のバランス感覚とでもいうのだろうか、凄すぎる。


 すると早速、お夕飯発見だ。


 お夕飯は、頭から1本の角の生えた兎だ。ウサギにしてはかなり大きくて、体長は1m以上ありそうだ。それに、ネジバナみたいに捻じれた角がすっごく禍々しい。でも、私の猫としての本能が告げているんだよね、あれは美味しいと。でも油断は禁物、相手は兎だ。あの大きな耳によって私の接近を素早く察知し、逃げるに違いない。


 私は身を低くして、じりじりと近寄る。そして、しゅばっと飛び掛かり、ぺしっとやっつける。


 ふ、私のイージーにゃんこライフボディに勝てると思うなよ!


 すっかりこのイージーにゃんこライフにはまっちゃってるけど、このままじゃだめだね。明日は人間としての私の実力も、ちゃんとチェックしないと。猫ボディがこんなに強いんだから、人間ボディも強くなっているのかもしれない。なにせ見た目は元の日本人の私じゃない。猫ボディに引っ張られているのか、髪の色が茶色だし、これは期待してもいいと思う。


 もぐもぐもぐもぐ。


 うん、この兎肉もなかなか美味しい。兎肉って、ゲームなんかだと定番だけど、実際に食べるのは初めてだ。どう美味しいのかって? 美味しいものは美味しいんだよ!


 ふ~、満足満足。


 私は、私の猫ボディよりもはるかに大きい、1m以上の大きさの角兎をペロリと食べると、眠くなってきたので、桜の木に戻っておやすみすることにした。





 翌朝。


 昨日の2回の狩りで、猫ボディの性能の高さは十分にわかった。桜の木の上にも、3mくらいの高さを、ジャンプ一発で登ってたことも判明した。というわけで、今日は人間としてのボディの性能チェックだ! 幸い昨日いっぱい食べたおかげか、お腹はぜんぜん減ってないから、朝から狩りに行く必要もないしね。


 ぽふん!


「ん~! やっぱ人間の体はいいね。じゃあ、まずは軽くランニングから始めようかな」


 私はとりあえず池の水を飲んで喉を潤わせてから、池の周囲を走り始める。


「なんか体が軽いかも? ふんふんふ~ん」


 軽い体に思わず気分が高揚しちゃったけど、どうやら気のせいだったみたいだ。体感時間で30分も走ると、息が完全にあがっちゃって、バテバテだ。こ、これはダメだ。


「はあ、はあ、はあ。あれ、これってもしかして、日本人だったころと体力変わってない?」


 とにかく、池の水を飲んで、休憩だ。一休みしたら、今度は森の中をちょっと歩いてみようかな。




「はっふ~う。よし、息も落ち着いてきたし、次は森の中を少し散策しよう」


 幸いなことに、靴は登山なんかにも使えそうなごっついタイプだ。これなら森の中を歩くのにも不安はない。ん? ちょっと待って、むしろさっきランニングで疲れたのは、この靴のせいじゃない? うん、きっとそうだ。ランニングシューズなんかと比べると、明らかに重いし。それに、この迷彩服みたいな服も、走るのに向いた服じゃない。どちらかと言えば山歩きに向いた服装だ。なるほど、最初っからランニングなんて服装に合わないことをするよりも、山歩きをすればよかったな。


 私は気を取り直して森の中へと足を進める。目標はとりあえず、木の実の採取かな? 猫の姿でなら生肉も美味しく食べれるとはいえ、甘いものはやっぱりほしいしね。この際ちょっとすっぱくても我慢する。


「ふんふ~ん」


 私は意気揚々と森の中を進みだす。


「ふあっ!」


 どてっ。


 森の散策を開始して3分、木の根っこに足を取られて、見事に転んでしまった。


「いたたた」


 ううう、まさかこんなに簡単に転ぶとは。っていうか、森の中歩くのって、難易度高すぎない!? 私は気を取り直して起き上がろうとしたんだけど。


「いった~!」


 なにこれ、右足がすっごい痛い。これ、もしかして、捻挫!? とりあえず適当な場所に座って、怪我の確認をしようと、靴と靴下を脱ごうとしたんだけど、ダメ、痛すぎてそんなこと出来ない!


「ううう~」


 情けないけど、涙が出てくる。こんな森の中で一人捻挫なんて、ううううう~。とりあえず、手当をしないと、捻挫ってまずは冷やせばいいんだよね? 冷やすには、池の水だ。まずは池まで戻ろう。幸い森の散策を開始してすぐにこけたから、距離は短い。


 でも、2本の足でもろくに進めなかった森の中を、1本の足で、ケンケンで走破する? そんなのは無理だ。ここははいはいで移動するしかない。あ、でも、それなら猫ボディのほうが向いているかな? よし、そうしよう。


 ぽふん!


 あれ? 怪我してない? 猫の体になった瞬間になぜか本能的にわかった。猫の体は、怪我してない! これ、猫ボディと人間ボディは完全に別物ってこと? うう~ん、よくわかんないけど、一度人間ボディに戻ってみればわかるかな?


 ぽふん!


「いたたたたた!」


 ダメ、治ってない。戻ろう。


 ぽふん!


 ふ~。なんか、猫ボディのほうが落ち着くかも・・・・・・。ううん、私はまだ人間だ。たぶん人間ボディで怪我をしたから考えがおかしくなってるんだ。とりあえず、池に戻って手当をしよう。


 猫の姿でとぼとぼ池に戻りながら私は思った。キジトラさん、猫ボディのイージーにゃんこライフはすごいけど、人間ボディがハードにんげんライフ過ぎるよ!



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