光が通って。
ドーム状の空間には、てっぺんから注ぐ光が満ちるようになってきた。
初日に見てとれた膨れていたお腹も形も無い。少年の体は、皮に骨が張り付いた、そうまるでミイラの様な姿をしている。その体にまとったボロ布の様な服も相まって、死んでるように見える。
ただ、小さく枯れ果てた身体は生を諦めることなく、胸の鼓動は血液をその枯れた身体全体に送り続けている。
送られてきた血液は、指先まで至った後に、また別の場所を廻る。
そうやって、循環する血液は決して外に漏れる事無く、身体の外から得たものを身体中に運び続ける。それは、この空間で一日目から唯一変わらないモノだった。
だが、変わらないそれも、そろそろ変わろうとしている。
突如、空間に訪れたのは、爆発する音と振動。
それが収まるころには、空間の天井部分が消えていた。
空間を、漏れ出た光でない目一杯の光が包んだ。
それは、何十年いや、この空間が生まれて初めての太陽との対面だった。
またも音と振動。何度目かの音と振動が回数を重ねて、そして収まった。
「ありゃ?こんな所にガキ?」
「どったの?」
「いやはや、これは。」
「どうすんの?」
そして、元空間だった場所にガヤガヤと十人の男達が現れた。
ただ、六人は残りの男たちによって捕まったのか、縄で縛られ、リヤカーのような物の荷台に乗せられていた。その荷台には、何やら財宝の様な物も見える。
「死んでるみたいだな。」
「持って帰る?」
「子供一人ぐらいどうってことないじゃろ?」
「見捨てるしかないよ。あれ見て。」
少年の鼓動は小さく、その体はミイラの様なのだ。彼らが、死んでいると思うのも無理もない。彼らの内の一人が何かに気づき、指差した方角を見れば、森の中のそこに何かがいた。
「仕方ねぇな。」
「魔力もうないしね…。」
「盗賊相手に大技使いすぎ。」
「そもそも魔力があっても、キツイかのぅ。」
どうやら、荷台の六人を退治するのに、魔力を使い過ぎたらしい。彼らは、少年を置いて行ってしまった。
残ったのは、少年。
そして、魔物と呼ばれる化け物。
森の中から出てきたのは、ブラッドグリズリーと呼ばれる魔物。
真っ黒な毛皮に覆われた熊の魔物だ。その瞳は赤い。
徐々に近づく魔物に、なおも少年は目を覚ます様子は無く、まだ浅い呼吸を繰り返すばかり。
そして、ブラッドグリズリーが前足を上げて少年に襲いかかろうとした時、ブラッドグリズリーは大きな音を立てて倒れた。
視界の端を、黒いモノが横切った気がした。その一瞬で。
残ったのは、未だ眠る少年と倒れた魔物。
ドーム状の空間では暗くて見えなかったが、少年のその左手は、真っ黒に変色していた。
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