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とある商人の話

 多くの人間が通ることで道になった様な、剥き出しの土の道を、黒目黒髪の青年が御者する馬車が、歩を進めていた。

 青年の服装は長袖の黒のシャツに、黒のカーゴパンツ。そんな全身黒づくめの服装に身を包んだ青年の手には、白い手袋。

 彼が御者をする馬車には、布をかぶせられた壺や木箱などの様々な物が積まれていた。


「エルヴィスさん!!」

 村に到着すると、一人の少女が、馬車の御者をする青年にそう声をかけた。

 黒髪黒目のその青年は、人好きしそうな温和な笑顔を少女に向けた。


「こんにちは、リリカさん。」

 青年は馬に止まる様に指示を出し、馬車もそれに従い進む速度をゆっくりにして、やがて止まった。

「今日も、ご苦労様です。」

「いえ、これが私の仕事ですから。」


 穏やかな雰囲気なまま、会話を続ける青年と少女。会話に花を咲かせていると、その村の住人が青年の元へと集まってきた。


 そして始まったのは、青年が商品として取り揃えた物品と村人達が作った物の物々交換。

 青年が壺に入った塩を取り出せば、村人は収穫した農作物を交換し。

 青年が木箱に入った農具を出せば、村人は自作した服を交換した。


「私はそろそろ行きますね。」

 村人との交換が一通り終わった頃を見計らい、青年はそう言って物々交換の為に降ろしていた荷物を場所へと積み始めた。


「もう行っちゃうんですか?!」

 そんな青年に、リリカと呼ばれた少女が残念そうに声をかけた。

「ええ。今日中に王都に戻らなければならないので。」

「そうですか…。」

 少女に手を振り、青年は村を後にした。


△△△

 馬車と共に村を出た青年は、村に居る間中は保っていた笑顔が、消えた。

 人間特に笑う必要が無ければ、真顔になることもあるだろう。


 だが、違う。

 青年のそれは、文字通り消えたのだ。


 まるで、霧が晴れる様に。

 空虚な廃墟のように。

 まるで、夢の様に消えて行った。


 青年のその顔からは、何の感情も感じることはできない程に死んでいた。


 ただ、青年の目は泣いている、そんな気がした。

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