木曜日の無い男
私は小さな会社に勤めていた会社員だった。
独り身だが、人並みの給料も貰っており、今の生活には満足している。職場での人間関係にも不自由が無く、酒も控えている。
そんな私は自身の体に異変を感じていた。
私には1週間を暮らしている内、木曜日の記憶が無いのだ。
昔からではなく、最近になって気付いた事だ。
ある日の水曜、ドラマ好きの女の同僚の話を聞き、人気らしい木曜ドラマを見ることにした。
その日も、いつも通り変わらない生活を過ごしていた。
風呂から上がると、
「明日は木曜か、話に聞いてたドラマを見てみてようか。」
私は床に入った。
その日だけ私は何故か早起きだった。私は歯を磨き、
「今日はやけに早く起きれたな、出社まで時間が余った。今朝のニュースでも見てみようか」
テレビを付け、ニュースを見る。
ふと左上を見ると、そこには10月8日金曜日 06:43と表示さていた。
そこで私は、おかしいことに気付いた。
「おかしい、今日は木曜のはずだ。」
私は1日分寝過ごしたのか?そうなると会社では無断欠勤になる。
「とんでもないことをしてしまった。早く会社に行かないと、私の信用に関わる。」
私は飛んでいくように出社した。
会社につくと、私は上司のもとへ直ぐ様立ち寄った。
「昨日は大変な事をしてしまいました…。」
上司は不可解な面持ちで、
「昨日?何のことを言っているのか分からないな。」
「いえ、無断欠勤だなんて…。仕事に何か支障はございませんか。」
「無断欠勤?いつしたというのだ、それに今日なんていつもより早く出社しているではないか。この調子で今日も張り切ってくれ。」
「はい、分かりました。ですが、本当に昨日は欠勤してないのでしょうか…。」
「ああ、昨日もいつも通りに出社していたよ。」
「そうですか、失礼します。」
私はその金曜も普通に仕事に務めた。よほど安心したのか、いつもより仕事が早かった気がする。
昼休み。私は女の同僚に木曜の事について話を伺った。
「おかしな事を聞いているのは承知しているが、一つ聞いていいかな。」
「別に構わないけど、何かしら。今朝の事について?」
「聞いていたのか、まあその話だ。昨日の私の様子について聞きたい。」
「昨日なんて、びっくりするほど何も無い日だったわ。強いて言えば、今日はドラマがある。のような話。そういえば、あなたは昨日のドラマ見た?私は原作も知ってるんだけど…。」
「実は昨日の記憶が無いんだ、すっきり一昨日から今日にタイムスリップした気分だ。」
「何かの冗談?本当に覚えてないの?」
「ああ、全く。」
「ふうん、まあいいわ。来週も同じ事が起こったら言ってみて、何か協力するわ。」
「ありがたい。そうさせてもらうよ。」
会社は終業時間を迎え、帰路につく。
私はかつて無い不可解な体験をしたからか、謎の人物、宇宙人、そんな何かと邂逅を果たすやもと内心期待していた。
だが、そんなことは一切無く、家に着いた。
「全く…。」
私はしょっちゅうこんな事が起きると流石に面倒臭い。と思いつつも休日の割合が増えると内心楽しんでいたところもある。
翌週も同じ事が起きた、だが同僚はすっかり忘れていた様子だ。
私はそこまで困っているわけでもない、彼女も興味が無さそうなので、この話は丸々無かったことにした。
そんな木曜日の無い生活を過ごしていたある日の事、私は水曜の0時まで起きていたらどうなるのかと、ふと疑問を持ち、検証することにした。
そこでテレビを付け、夜まで時刻のそれをまじまじと睨んでいたが、
11月26日 水曜日 11:59 の次の瞬間
11月28日 金曜日 00:00 になった。
木曜日そのもの自体が過ごせないという事が分かった。
失われた木曜日は知らない自分が過ごしている事もなんとなく察し、この件についてはお手上げ。もう諦めることにした。
その半年後、木曜日に続き今後は月曜日の記憶が飛んでいた。
「またか…。」
気付いたのは火曜の昼。
折角の休日を楽しんだのに、しかも月曜日は知らない自分が働いてくれる。
私は調子に乗った。このまま平日が全て無くなったら毎日が休日だ。しかも収入はこれまで通り入ってくる。
そこで私は、ふと疑問に思った。
「1週間全ての記憶が無くなったら自分はどうなる?」
全身の身の毛がよだった。
半年後、水曜日の記憶も飛んでいた。