充珊 梅桃
小指の爪ほどの、縦割りがある小さな球体。
山のものなのに海を思い起こさせる澄んだ紅色。
半分を占める硬い種から簡単にかい離する、張りのある果肉。
酸味と僅かな渋みが先だって、あとからほのかな甘みが広がる。
「気づいたら梅桃の木が生えていた。たぶん、鳥が運んできたんだろうって」
俺が持ってきた梅桃の実を、舞子は一つ摘まんで口に運んでは含んで、口を動かして、たった数秒で食べ終えて、小さな種を掌に乗せる。
地面に捨てればいいと思うのだが乗せたまま、また一つ口に運び、口を動かして、種を増やしていく。
ゆっくり。ゆっくり。
緩慢な動きだった。
「小さな五枚の花弁の、白い花が、桜と同じ時期に咲いて、散って、若緑色の実が大きくなっていくにつれて色も紅に変わって。いったらしいの。五月中旬くらいに大部分が実る。陽に当たる実はより一層透明度が増す。すごく綺麗だって」
忘れていた記憶を思い出しているのだろう。
しかし、食べ続けるその顔に郷愁という言葉は当てはまらないように思える。
母上との思い出はそう多くはないはず。
だから、だろうか。
「小さいし、すぐに種に突き当たるから食べるのが面倒で……集中して食べていたから大きさと味は覚えていたけど。色は全く」
摘まんだ梅桃の実を持ち上げて光に当てて。
眩しげに目を細めて。
「うん。確かに。綺麗だ」
うんうん、と、二度頷いては、掲げたそれを口に運び、美味しいと満足げに呟いた舞子の掌には、種の山ができていた。
「ところでその種の山はどうするんだ?」
「……鬼は外」
「おい」
梅桃 うすらうめ: 輝き 郷愁




