〝夢の夢〟
「――たとえ夢だとしても、僕に非日常は要らない。」
僕は〝いつも通り〟の光景を投影した。
僕を中心に地面が構成され始める。
白が置き換わる。
世界が改変される。
「ユメの中でぐらい好き勝手すればいいのに。読者は多分チートで世界の創造主になるとか異世界ファンタジーで魔法戦争とかを期待していたよ?」
「知ったことじゃない。僕は小説のような劇的な展開なんて望んでないんだ。」
「ふうん。」
カミサマは小声で付け足す。
「登場人物がそれを言うのもどうかと思うけどね。」
「何か言ったかい?聞き取れなかった。」
「いや、何も。」
僕は近くにあったベンチに腰かけた。
生まれた頃からあった古臭いベンチだ。
「質問をしてもいいかな?」
僕はカミサマにそう問いかけた。
「良いよ。君が理解できるかは別だけどね。」
カミサマは僕の隣に腰かけると、どうぞというように手をこちらに向ける。
「僕がこの世界で死ぬことはあるのかを訊きたい。」
にやりとカミサマは笑みを浮かべる。
君の悪い笑みではなく、嬉しそうな純粋な笑みを。
「本当にニンゲンも賢くなったなぁ。そこまで考えているなんて。」
「賢くなった賢くなったって言うけど、君は僕の事をそんなに知らないだろう?偉そうなことを言わないでくれよ。」
上から目線で物を言われている気がしてちょっとムッとした。
「そう怒るな。ただ、僕は君の全てを知っているよ?」
カミサマは当然と言った顔をしてそう言った。
「全て?」
「そう、全て。」
全て、と言われてしまうと想像ができない。
「そうだなぁ…本名、生年月日、血液型、身長、体重とか主なのは置いておいて、体細胞の数、一日の発汗量、髪の毛の本数、今までに食べたパンの枚数等々っていえば想像できる?」
「目の前の女の子がそれを全部知ってるという事実を想像したくないな。」
僕は少しだけ頭を抱えた。
「君の事なら何でも知ってる。まるで小説のような台詞だねって僕が言うと読者はお前が言うんじゃないって突っ込むんだろうなあ。」
カミサマは一人で楽しそうに笑う。
「君の初恋の相手も知ってるし、その初恋の相手が死んでしまったことも知ってる。」
そう言われた瞬間、僕の中で何かが沸き立った。
「やめろ。思い出させるな。」
反射的に立ち上がってカミサマを手で制した。
「思い出したくないのなら忘れてしまえばいい。」
カミサマは止めない。
「何も言うな。」
「それでも忘れないってことはあの子の事が相当好きだったんだね。」
「うるさい。」
「それからだったよね。君が毎日を無気力に過ごしはじめたのは。」
「うるさい。」
「さっき君は非日常は要らないと言った。何故ならあの子がいない日常なんて全てがごみのようだからだ。」
「黙れ。」
瞬間、カミサマの身体が爆ぜた。
吹き飛んで、3m程前方に血だまりを作った。
僕は一瞬でもカミサマの事を殺したいと〝想像〟してしまったことに気付く。
結果、僕の怒りが爆発したかのようにカミサマが爆ぜるという事象が〝創造〟された。
僕は焦燥の念に駆られる。
激情に任せて殺してしまった。
黒の時計は進み続ける。
僕は――僕は――
「で、本題の君がこのセカイで死ぬかどうかだけど、結論を言えば〝不可能〟だと思うよ。」
血だまりの中のカミサマは何事もなかったように喋りはじめた。
「どうして?」
僕は混乱しながらもなんとか疑問を吐き出した。
「〝想像〟できないだろう?」
赤い池の中で少女は嗤う。
「少しでも死を〝想像〟できるかい?」
「絶望を。」
「枯渇を。」
「悲痛を。」
「苦悩を。」
「喪失を。」
「孤独を。」
「仄闇を。」
「訣別を。」
「老衰を。」
「怨嗟を。」
声が何重にも聞こえる。
気持ち悪い。
カミサマは起き上がると、僕にそっと囁いた。
「安心しろ。君は何もできないただのニンゲンだ。」
僕の意識は思考を放棄し、僕を暗闇へと放り投げた。
落ちてゆく。
「おやすみなさい。きっと良い夢が見られるさ。」
――〝夢〟のそのまた奥へ。