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〝はじめよう〟

「ようこそ。此処は君が〝想像〟して〝創造〟するセカイだ。」

意味が解らない。

「意味が解らない?昔から変わらず君はこの言葉が好きだね。それはさておいてルール説明をしようか。」

少女は僕から離れるとくるくると回りながら話す。

「まず、君の不安要素を取り払おう。」

僕はもう頭が働かなくなっていた。

不安要素なんてものがあったかどうかも思い出せない。

「まあ、落ち着いてくれよ。君はこう思わなかったか?〝僕がいたセカイはどうなっているのか〟と。」

そこで僕は思い出す。

そういえばそうだ。

僕はこの訳の解らない世界にいる間に現実世界とやらでは僕が行方不明になっていたら迷惑な話だ。

「大丈夫。行方不明になんてなっていないよ。少し語弊があるけど君のセカイは〝静止している〟状態だから。あるいは此処が〝加速している〟ともいえる。」

〝静止している〟?

時が止まっているとでもいうのか。

「君らの概念に合わせて言うとそんな感じかな。そして、君はこのセカイから抜け出せない、なんてことはない。」

「今すぐにでも抜け出したいぐらいなんだけど。」

「そう言わない。不安がなくなったところでルール確認だ。」

少女は白い指を立てる。

「一つ。此処は君が〝全て〟だ。」

さらに指を立てる。

「一つ。此処は君が〝想像〟したモノが〝創造〟される。言い換えると、イメージしたモノがクリエイトされる。」

なるほど。

ソウゾウとソウゾウというのはそういう言葉遊びだった訳か。

ドヤ顔の少女が少々うざい。

「うざくない。ためしに君の好きな林檎でも思い浮かべてみると良い。」

そういわれて僕はあの赤い果実を頭にぼんやりと思い浮かべる。

甘くて、瑞々しい、禁断の果実を。

「何が起きるっていうんだ。」

〝想像〟したからなんなんだ。

本当に意味が解らない。

少女は憤慨する僕を不思議そうに見つめる。

「君は美味しそうな林檎を握って何を熱弁したいのかな?」

僕は弾かれたように自分の手を見た。

そこには〝想像〟した通りの林檎があった。

赤い果実そこに在るのが正しいかのように手に収まっていた。

まるで最初からそこに在ったかのように。

少女は驚く僕を見て楽しげにまた指を立てる。

「一つ。此処は君のセカイだから〝全て〟は君に委ねられる訳だけど〝ジカン〟という概念は僕が決めさせてもらった。ついでに地面とか重力とか上下左右とか細かい物もね。」

少女が上に向かって指を振ると、何もなかった白い空間に数字が表示された。

「あれだけ大きな時計なら何処からでも見えるだろう?時間制限は君のセカイでいう1週間。解りやすく言うと7日間。さらに言えば10080分。もう少しいうと604800秒。その間に君の好きなセカイを〝想像《創造》〟してくれ。」

「何で僕がそんなことをしなければいけないんだよ。」

「良いじゃないか。戯れに理由はないさ。君は日々暇で、僕も丁度暇だった。君はちょっとばかし変わった体験ができてゲンジツセカイに戻った時に何も影響はない。いつも通りの駅でいつも通りの時刻に目を覚ますだけ。」

つらつらと少女は流れるように言葉を紡ぐ。

「ちなみにあの制限時間は君が一度でも〝創造《想像》〟しない限り動き出さない仕組みだよ。」

少女は巨大な数字を指差す。

無機質な黒い数字は『7.00.00』を示す。

「僕があの時計が零になったところを〝創造《想像》〟したら?」

「君、賢くなったね。そうすれば直ちに君はゲンジツセカイに戻るよ。一度でも〝想像《創造》〟したことには変わりないからね。でも、君はそうしない。」

「何を根拠に?」

「さてね。」

少女は悪戯っぽく笑った。

実際、僕に此処をすぐにでも出たいと言った感情はなかった。

無機質な大学での日常に価値を見出せなかったところだ。

丁度良いと言えば丁度良い。

そこまで見透かされると本当にエスパーを疑いたくなる。

「エスパー?そんなものある訳ないさ。」

もう、何も突っ込むまい。

「さあ、真っ白なキャンバスは目の前に。君はどんな色でこのセカイを染め上げるのかな?」

――さあ、〝はじめよう〟


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