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本日一人目の犠牲者である

 シオンが上昇のボタンを押すと、すぐにケージが上昇を始めた。


 しかも、かなりスピードがあるっ。

 普通のエレベーターみたいに、前のドアがないので、もの凄いスピードで流れるダンジョンの石壁が、そのまま見える。


 しかし、これもギフトである以上、普通のエレベーターよりよほど安全だろう。

 実際、すぐに地表近くの空間に到着してしまった。


 出るとちょっとした部屋みたいになっていて、隅っこに石段があった。





「こっちこっち」


 シオンが率先して先へ進み、石段を上がっていく。

 ものの二十段ほど上がれば、今度こそ行き止まりで、踊り場の先が塞がったようになっていた。


「わかった。今の現在地が司令部の地下フロア直下で、あとは通路を新たに設置して、繋げるだけなわけだ?」

「そうなのっ。今すぐやる?」


 楽しそうに目を輝かせるシオンだが、俺は笑って止めた。


「まあ、もう少し待ってくれ。先に俺が透視で内部の様子を窺うから」


 言うなり、俺は上を見上げ、ギフトの力を開放した。

 たちまち、透過立体投影みたいな光景が脳裏に広がり、地上六階、地下二階のおおよその構図が掴めた。

 かつての百貨店の時と違い、占領後に帝国軍が内部を改装して、余計な通路やら部屋やらがだいぶ増えているようだ。


 元の百貨店のままだと、フロア自体がほぼ巨大な広間みたいな場所ばかりになって、使いにくかったのだろう。




「金庫……金庫……」


 声を上げながら、本館を地下から上に向かって透視していく。

 小型の金庫は最初から無視して、頑丈そうでなおかつ要人の部屋にあるような、大型のものに目星をつけて見ていった。


 結局、オーソドックスに最上階の六階に目指すものを見つけた。


 名前と階級付きの広々ととした部屋で、元は催しもの会場になってた場所を区切り、方面軍司令官の部屋にしたものらしい。


「あった。木製のでっかい机の横に、でんっとある金庫がそうじゃないかな。部屋のドア上に、ナントカ准将って階級名書かれてるし」


 それに他に見つけた金庫なんて、手下げ金庫よりちょっとマシな規模のものしかない。

 まさか、そんな場所に重要書類は入れないだろう。


 よしっと俺は声に出し、位置情報スクリーン付きの、短距離トランシーバーを二つ出し、片方をシオンに渡した。


 緊張した顔でシオンが俺を見たので、何度か話し合った作戦を説明した。


「透視した感じじゃ、六階に金庫はあったものの、捕虜らしき人が捕まっているような場所は見当たらなかった。だから俺は、大男から奪ったギフトで地下から始めて、どんどん上階へ上がり、その都度、フロアを炎の海にしてくる。深夜といえども、司令部だけにかなりの人数がいるから、軍の幹部も兵士も一緒くたにして始末しちまうつもりだ」


 特に反対もなく、シオンは大きく頷いた。


「シオンの役目は?」

「もちろん、あるともっ」


 俺は笑顔で金髪を撫でてやった。


「最後の六階でめでたく金庫の中身を頂いた後、当然、俺は脱出しなきゃいけない。そこで、シオンに頼みたいのは」


 特にそんな必要もないが、俺はシオンの耳元にごにょごにょと呟いてやった。


「……というわけ。ほら、この位置情報つきトランシーバーなら、子機を俺が持てば、いつでも俺の位置がわかる仕組みだ。だからな、脱出の合図を待ってくれ」


 この作戦の利点は、シオンが俺と一緒に司令部に潜入しなくていい点だ。

 しかもそれでいて、役目自体は重要なのである。


 事前に聞いた時は渋りかけたシオンも、「命を預けるんだから、シオンの役割は大事なんだよ」と言い聞かせると、もう「一緒に行くぅ」とゴネることもなくなった。


 事実、脱出の時はシオン頼みだしな。





「わかった、おにいちゃん!」

「よしっ。なら、今すぐに通路を繋げてくれっ」

「うんっ」


 ボードを立ち上げたシオンが、予定していた最後のパーツを置いて、この踊り場と地下フロアの一室を繋げてしまった。


 ギュインッと微かな音がして、俺達の立っている場所からさらに上に、突如として階段が出現する。


「じゃあ、行ってくる! 俺が上がった後、脱出までこの通路は塞いでしまっていいよ」

「うんっ。気をつけてねっ」

「もちろん。シオンも注意するんだぞっ」


 俺は片手を上げ、すぐに石段を駆け上がった。

 予定通り、物置みたいになっている、部屋の真ん中に四角い穴ができていて、俺はそこから飛び出した。


 ここから先は、どうしたって警備兵に見られるに決まっている。なにしろ、司令部の内部に来ているのだ。


 そこで、足音だけは警戒したが、それ以上のことは特にせず、ドアを開けて廊下へ飛び出した。




「――っ! なんだっ」


 素っ頓狂な声がしたので、そちらを見ると、ちょうど廊下の角を曲がって姿を見せた警備兵がいた。俺を見て目を丸くしたのみで、まだ銃すら抜かずにいる。


 まあ、見た目は単なる私服のガキだしな、俺。

 なかなか敵には見えないか。


「はははっ、そう悩まないでくれよっ。照れるじゃないか!」


 俺は破顔して、いきなりギフトを開放した。


「二人で、殴り込みに来ただけだしなあっ」


 途端に、バンッと派手な音を立てて、青白い業火が炸裂し、渦を巻くようにして廊下を走った。


「ひっ」


 寸前で気付いて逃げようとした警備兵を丸呑みにして、さらに廊下を驀進していく。

 熱で廊下の空気が陽炎みたいに揺らいでいた。


「ぎゃあああああああっ」


 すぐに凄まじい悲鳴が起きて、炎の向こうで警備兵が狂ったようにのたうち回っている。



 本日一人目の犠牲者である。



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