見てろよ、帝国軍の畜生どもっ
今の東京は、もはや日本の首都ではなく、ヴェルン帝国の植民地であり、占領軍の本拠がある場所だ。
当然、都内に住むのは帝国の関係者ばかりである。
自分達に協力的な一部の上級日本人と、そして帝国軍人、最後に帝国本土(異世界にある)からの移民達が、都内在住のまともな市民の全てだ。
それ以外の、反帝国側の人間や、あるいは一部のレジスタンスを称する者達は、全て「帝国の敵」である。
捕まれば当然、奴隷に落とされるし、隠れてて捕まっても、やはり奴隷に落とされるか……あるいは俺達みたいに無茶な「選抜テスト」に放り込まれるわけだ。
しかしそれでも、昔ほど人口がない都内だと、一旦潜伏するのには申し分がないわけである。
つまり、あの奇跡の選抜テストの翌日、俺達は都内中心部にはほど遠い、廃業したショッピングセンター内に潜んでいた。
途中、帝国の支配下にある某ビルに忍び込み、保存食も大量に奪ったし、このショッピングセンターには、まだまだ着られる衣料品や使える家具が地下倉庫に忘れられてたしで、最初の戦利品としては、上々である。
これまでロクなことがなかった反動か、嬉しい出来事はさらにある。
まず、あの死の間際に発現した俺のギフト(異能力)は、単純ながらかなり高い戦闘力になるとわかった。
だからこそ、こうしてまだ生きているわけだ。
というか、俺のギフトの根本は、おそらくPKなんだろうが、あんな光の刃を無数に出現させたことを見ても、だいぶ応用が効きそうである。
帝国側のギフト持ちなど、相手にもならなかったからな。
しかもあの巨漢を倒した後には、そいつが持ってた炎系のギフトも俺のものとなった。
ひょっとしてこの「他人のギフトを奪える力」も、俺が得た特殊なギフトなのかもしれない。もしもその条件が「相手を倒すこと」なら、簡単に奪えるとまではいかないが。
さらに嬉しいことに、同じく死の恐怖にあったシオンの方も、なんと二つのギフトに目覚めている。一つは治癒で、もう一つは得体が知れなかったものの、いろいろと実験を繰り返すうちにギフトの根本がわかった。
俺は仮にそのギフトを「拠点作成」と名付けてやった。
「シオンの拠点作成は、ゲームのように魔力量が表示されて、その量に応じて施設を広げられるって、よくよく考えると凄く便利かもな」
ショッピングセンターの地下倉庫にあった小さなソファーに二人して座り、俺達は今後の計画を立てている。
缶入りの保存パンを食べ終わり、紅茶を飲みながら、シオンと二人で話し合っていた。あの地獄から生還したお陰で、シオンの顔色も良くなったし、なによりちゃんとシャワー浴びて、女の子っぽいブラウスとミニスカート姿になったお陰か、驚くほどの美人さんになった。
腰まである長い金髪も、泥水で汚れていた時が嘘のように、天使の輪のごとく、ランプの明かりに輝いている。
元から「泥で汚れてるけど、実はこの子すげー美人だな」と思っていたのが当たった。まだ十歳でこのレベルなら、将来は神がかった美貌になるかもしれない。
ただ、本人は全然意識していないのか、今は楽しそうに今後のことを語っていた。
「地上に作ったら守るのが難しいから、地下に拠点を作るのはどうかな?」
「おお、いいなっ」
俺は手を叩いた。
今後の俺達の計画としては、「帝国の連中に復讐し、自分達同様に迫害されている者を助ける!」ことで意見が一致していた。
十七歳と十歳という年齢の差はあれど、そして生まれ故郷の差はあれど、俺とシオンは同じ地獄を生き抜いた同志である。
「異世界生まれのシオンにわかるかどうか心もとないが、昔のゲームでダンジョンを舞台にしたのがあってさ。アレみたいに地下にうねうねと一大ダンジョン帝国を築くか、俺達の」
俺は冗談交じりで提案した。
「でもって、帝国のギフト持ちのエース様が討伐に来たら、どいつもこいつも俺が倒して、めでたくギフトを奪うと」
「……とてもいいと思うのっ」
シオンは目を輝かせて何度も頷いた。
この子の場合、自分のことだけなら、そんなに帝国を怨まなかったかもしれない。
しかし、幼女の自分を庇って俺がなんども怪我したのを見てたため、もはやすっかりアンチ帝国である。
「二人の力を合わせれば、きっとやれると思うっ」
「話は決まったな」
俺はニヤッと笑った。
「じゃあ、次はどこの地下を拠点にするかだが――やっぱり、都内限定で考えるか。日本中どこでもいいっちゃいいけど、敵の本拠はここだしさ」
「うんっ。遠慮なく、司令部の地下にもダンジョンつくろうねっ」
俺達は顔を見合わせ、いっぱしの悪党のように笑い合った。
見てろよ、帝国軍の畜生どもっ。




