俺達二人の運命が、決まった瞬間である
唖然としていた監視兵達が、今頃になって慌てて立ち上がる。
「わ、笑わせるなっ。頼む、どうやら出番だぞっ」
一人だけ悠然と座ったままだった巨漢に喚いた。
「わかってるっ。おまえらは、そこで縮こまってろ」
立ち上がってのしのしと歩くと、そいつは金網をバリバリと手で引き裂き、球場内に飛び降りた。
後はドスドスと急ぎ足でこちらへやってくる。
「そういや、囚人仲間の誰かが言ってたな」
俺はさすがに緊張して呟く。
「万一、本当にギフト持ちとして囚人の誰かが目覚めた場合、取り押さえる役目のギフト持ちがいるとか」
「エースというんだ、小僧」
やや腹の出たそいつは、偉そうに教えてくれた。
「ギフトを持つ兵士は、軍人の中でもエース扱いとして別格でな。俺様もこの任務が終われば、司令部付きとして出世する予定よ」
「なにが俺様だよ、のぼせ上がった馬鹿め」
俺が言い返すと、短気な奴らしく、早速ぶちっと盛大に切れたらしい。
「ほざくなあああっ」
いきなり喚き、「炎よっ」と叫ぶや否や、俺達を指差した。
途端に、真紅の炎がバンッと何もない空間に生じ、そのままこちらへ向かってきた。
「大やけどでも負って、少しは身の程を知れっ。俺様を射程に入れたのが間違いよっ」
「おにいちゃんっ」
心配してしがみついてきたシオンの肩に、俺は優しく手を置いてやった。
「安心しろ、シオン」
言葉と同時に左手の掌を持ち上げ、相手に向ける。
途端に、のたうつ炎の固まりは、俺達の直前で四散し、消えてしまった。
「なにっ」
「あー、あんたのお陰でだいぶ使い方がわかってきた。なるほど、さっきがナイフだったのは、俺の感情を具現化したせいか?」
「なにをわけのわからないことをっ。今度こそ俺の炎で――うおっ」
途端におっさんが喚いて首筋を押さえた。
そのままジタバタと暴れるが、まるで役に立たずに、すうっと上空へと浮き上がっていく。
俺はただ、そいつを指差して持ち上げるイメージをするだけで良かった。
自称エースは、最初は暴れまくっていたがどうにもならないと知り、二十メートルほど上空で叫んだ。
「下ろせ、下ろしてくれっ」
「わかった」
俺がすぐに能力をカットすると、特大の石ころみたいに落下して、べしゃっと地上で血の花を咲かせた。痙攣はしているが、もはや死んだだろう。
そっとシオンを窺ったが、彼女に慈悲の表情はない。
小声で「おにいちゃんをひどいめに遭わせたんだもの。当然だもんっ」と呟いていた。
内心でため息をつく思いだったが、しかし俺達のような目に遭った者を、誰が責められよう。実際俺はまだ怒りが収まっていなくて、観客席で逃げようとしている連中に叫んだ。
「おいおい、どこ行くんだよっ。やっとあんたらの番だぞっ」
陽気に叫んだ俺は、再び無数の刃を生じさせた。
うん、これが一番俺の気分にしっくりくる!
「とっくりと俺の気持ちを受け取ってくれ。ほれ、第一陣」
言下に、刃が殺到し、連中の半分を薙ぎ払って肉塊に変えてしまった。
あともう少しで出口に到達しそうだった連中である。
「た、助けてくれっ」
間に合わないと悟り、尻餅をついたり這って逃げようとする残り半分が、俺達に叫ぶ。
「頼む、頼むよっ」
「ただの任務なんだ!」
「好きでやってたわけじゃないっ」
(嘘つけ、嘘をっ)
どの面もだいたい覚えている。当然、殴られたり鞭で叩かれたりした記憶ばかりで、よい思い出は一つもない。
「助けろって?」
俺は首を振って優しく言ってやった。
「おまえら、俺達や死んでいった他の囚人が何度もそう頼んだ時、一度でも助けてくれたことがあったか? 行けっ」
最後に命令を下すと、俺の怒りを示す刃の群れが一斉に放たれ、悲鳴を上げて逃げ惑う連中をまんべんなく斬り裂いていった。
全てが済むと、俺はまたシオンを抱き上げ、囁いた。
「さて、シオンはどうしたい? 俺は今後、帝国の連中に復讐する道を選ぶつもりだけど」
「おにいちゃんといっしょに行くのっ」
シオンが俺の首にしがみついて答えた。
……俺達二人の運命が、決まった瞬間である。




