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魔獣に殺されそうに2(終) 次は、どう考えてもおまえらだよな?


 合図の声と共に、俺はシオンを抱いたまま、全力で走った。


 こんな残酷なテストまでして、どうしてギフト持ちを集めたいのかは知らないが、巻き添え食って死にたくはないっ。


 とにかく今は、魔獣どもが飛び出してくる入り口から、なるべく遠ざかるしかあるまい。背後では早速、耳を塞ぎたくなる悲鳴の渦と、それから魔獣の吠え声が満ちているしっ。


「助けてくれっ」

「なんでもするから、助けてえ!」

「痛いぃいいいいっ」 





 ていうか、むしろ今までやった四回のテストより、悲鳴の数が多い気が……なぜかクソッタレの監視兵達も、今まで以上に派手に笑ってやがるし――。


 我慢できずに振り向いた俺は、ぞっとして呻いた。

 魔獣の数が……数がどう見ても俺達と同じくらいいるじゃないかっ。




 連中が爆笑してやがると思ったら、そういうことかっ。


(駄目だ、こりゃ助からないっ)


 早速、全力疾走で迫ってきたブラックウルフという名の魔獣を見つけ、俺は心中で呻いた。真っ黒な姿と、頭に生えたツノが特徴が……しかし、こいつの武器はツノだけじゃない。牙もあれば、鋭い爪もある。ほぼ全身が武器なのだ。


 体格も大人二人分はあり、追いつかれた俺は、いきなり衝撃と痛みを感じ、ふっ飛ばされた。

(爪で背中を裂かれたかっ)


 派手に血が噴き出すのを、絶望感と共に感じた。

 そして、数メートルほど滑空して地面に叩きつけられるのも。寸前で背中から落ちるように身を捻ったので、シオンはまだ無事だったが、重傷を負った背中に激痛が走った。


 しかし、のんびりしていられない。視界の隅に、再び追撃してきたブラックウルフが見えている。




「くそっ」


 俺はシオンが下になるよう、今度は自分が俯せになり、断固としてその身を庇う姿勢を取った。今やれることは、他にない。


「おにいちゃん、おにいちゃんっ。死なないでぇえええっ」


 気丈なシオンが、初めて泣き声を上げた。

 自分のためではなく、俺を心配して。

 あいにく俺の意識は既に薄れかけているのだが、それでも否応なく見えた。俺の首筋に噛みつこうとして巨大な頭が迫り、牙を剥き出すのを。


(せめて……シオン……シオンだけはっ)


「殺させないぞぉおおおおっ」


 なにができるはずもないのに、全身全霊で叫んだその時――。

 俺の胸の内で、なにか熱い固まりが弾けた。







 ――な、なんだっ。

 一体、なにが起こったのか、俺にはさっぱりだった。


 胸で熱い固まりが弾けた瞬間に襲われ、俺は手で魔獣を払いのけようとした気がする。しかし、その魔獣はどこにもいなくて、ただ周辺には血と肉の塊が散乱していた。


「……こ、これはもしかして」


 シオンを抱いたまま起き上がると、「おにいちゃんっ」とシオンがなぜか声を張り上げた。


「ど、どうした!?」


 胸の中でもがくので、一旦降ろしてやる。

 というか、怪我のせいで立っているのが辛くなりつつあった。


「なおせるわ、今のシオンなら、なおせるもんっ」


 なにを? と問う前に、とうとう座り込んでしまう。

 そんな俺をシオンは「がんばって。すぐ、すぐだから!」と逆に力付け、なにかしきりに背中を撫でてくれた。


「お……おおっ」


 なんと、痛みが引いていくじゃないかっ。


「おまえ、もしかしてっ」


 念のために問うと、シオンは泥だらけの顔で、大きく頷いた。

 とその時――。


 もはや生きているのは俺達だけになったらしく、魔獣どもがこちらへ殺到してくるのが見えた。しかし、シオンじゃないが、痛みが引いて頭の中がクリアになった今の俺なら、わかる。


 もう、少し前の俺とは違う……なにか得体の知れない力が、この身に宿っているのだ。

 まだ威力まではわからないが、どう使えばいいかは、不思議と最初からわかっていた。


「た、試してやるっ」


 目をぎらつかせた俺は軽く右手を振り、自分の周囲に無数の輝く刃を生じさせた。

 普通のナイフと違うのは、持ち手の部分などがなく、上下共に尖った刃になっていることだ。

 しかも、刃全体が光っていて、あたかも光の粒子で出来ているように見えるが、本人の俺にもその原理などはわからない。


 わかっているのは、己の心が命じるままにイメージしさえすれば、多種多様な攻撃ができるという、それだけだっ。




「しかし、今はそれで十分だっ」


 俺の叫び声に応じ、瞬く間に輝く刃の群れが散った。

 それぞれが全く別々の軌道を描き、口元を血で汚して、涎なんか垂らしている魔獣どもを、容赦なくザクザク斬り裂いていく。


「ギャウウウンッ」


 たまらず、デカい前足で刃を跳ね避けようとしても、無駄だった。

 逆に自分の前足が斬り飛ばされ、鳴き叫ぶ有様である。

 四十の魔獣は幾多の肉切れと化し、たちまち元球場に飛び散り、もの言わぬ肉塊と成り果てた。


 魔獣の一掃が終わると、俺はぐるりと観客席を見渡した。


「さて……次は、どう考えてもおまえらだよな?」



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