即物的なお宝だなあ
金色の勲章を幾つも着けた制服で、中年痩身のおっさんなのだが、凄みがある。
「あんた、ギフト持ちなのか?」
俺がぞんざいに尋ねると、向こうは鼻を鳴らした。
「貴様ごとき小僧の質問に答えるいわれはないな。……それより、貴様の放火のお陰で、わしは皇帝陛下によけいな言い訳をする羽目になるだろう。八つ裂きにしても飽き足りん」
途中から、顔が醜く歪んでいた。
冷静そうに見えて、腸は煮えくりかえっているらしい。
こいつらのやったことを考えれば、こっちも同様なんだが。
「さっきみたいに倒さないの?」
捕虜だった女性が囁いたが、俺は肩をすくめた。
「そうしたところだが、まだ訊きたいことがある。おい、おっさん!」
俺はさらにぶっきらぼうに相手を呼び、尋ねた。
「あんた達が隠匿する、ホムンクルスの製造方とやらは、本当にここにあるのかっ」
「……なんだと?」
「ああっ!? 耳が遠いのか、おっさん!」
横で女性がハラハラしていたが、俺は気にしなかった。
帝国軍の、ましてや高官に配慮するいわれはない。
「ホムンクルスの秘密だよっ。すぐ教えれば、その礼に一瞬で殺してやるぞ? まあ、殺すのは同じだけどな」
「貴様はっ。そんなことのために、ここを火の海にしたのかっ」
そろそろこのフロアにも炎が迫っているし、煙も上がってきているのだが、相手は気にせず喚いた。
「まさかとは思ったが、そんなことのためにっ」
「価値観は人それぞれだろ?」
「笑わせるなっ」
叫んだ後、本当に狂ったように哄笑するっ。
「がっはっはっ! だがっ、あいにくだったな! 秘密は確かに存在するが、それは私が持つギフトの一つであって、計算式や書面で残る類いのものではないっ。落胆しつつ死ねっ」
狂気の叫び声と共に、ふいに周囲の大気が歪むのがわかった。
とっさに自分達の周囲にシールドとも呼ぶべき念動の壁をイメージしたお陰で、俺まで届かずに済んだが。
命中していたら、少なくともレジスタンスのねーちゃんは死んだかもしれない。
「なにっ」
「なに、じゃないよ。教えてくれて助かった。で、今のは大気を自在に操り、攻撃に使うギフトか? 予想したよりショボいな。ホムンクルスギフトの方に期待するか」
俺は息を吐き、決断した。
「いずれにせよ、あんたの用はもう済んだ!」
俺は素っ気なく言い放ち、右手を上げてから、ずんっと下ろす動作をした。
途端に、偉そうな勲章のおっさんはその場で床に叩きつけられ、潰れてしまった。
「……え、ええっ!?」
レジスタンスの女性が困惑して口元に手をやっていたが、俺はわざわざ「今のは念動で頭上から思いっきり圧力かけただけ」などとは説明せず、代わりにその場で司令室を破壊し、置いてあった金庫を眼前まで引き寄せた。
急がないと、炎はともかく、煙に巻かれる。
ギガガガッと床を擦るひどい音がして俺の身長くらいの金庫が滑ってきたが、構わずこれも念動でこじ開けようとする。
「……お?」
意外にも一度では開かず、次にかなり本気でPKを開放して、ようやく金庫の扉がねじ曲がって吹っ飛んだ。
「純金っ」
中身を見て、女性が叫ぶ。
「――の、延べ棒? 即物的なお宝だなあ」
俺は呆れたが、ギフトとやらは頂けたし、特に文句はない。
初めてトランシーバーを出して、シオンを呼び出した。
『おにいちゃん、無事っ!?』
「へーきへーき」
心配そうなシオンの声に、俺は優しく応じる。
「俺の位置がわかるなら、迎えに来てくれないか。そろそろ危ない感じだ」
『すぐいくねっ』
慌てたようにぶつっと通話が切れた。
「誰と話してたの?」
ジーンズの女性は不思議そうに尋ねたが、俺は笑顔で教えてやった。
「すぐわかるよ……ほらっ」
ガンガンガンガンッととんでもない音と振動が何度か続いた後――。
突如として、俺達から少し離れた床を綺麗に貫き、石壁がずんっと迫り上がる。
言うまでもなくシオンの「拠点作成」ギフトである。
ダンジョンのパーツの一つであるエレベーターが、地下からここまで繋がったわけだ。
「おにいちゃん!」
エレベーターケージが開き、シオンが顔を出す。
「ごほっごほっ」
「ついてきてっ」
俺は即座に、既に咳をしている女性の手を引き、そっちへ走った。