あ、最後の本命が出てきたかな
俺は念のために、このフロアを一週しているらしい外側の廊下を回り、ギフトで火を点けて回った。それから、階段を駆け足で上がり、さらに地下一階を目指す。
火災警報が鳴る頃には、もう地下の二つのフロアを炎上させていた。
もちろん、地上階に上がっても、やることは同じである。
階段周辺を最後にして、駆けながら放火を繰り返し、十分に燃え広がったら、さらに上へいく。この方法なら、空でも飛ばない限り、ほとんどの敵が逃げられないはず。
無論、たまたまこの廊下を走ってきた奴は、全員、俺のギフトの餌食である。
途中で消火装置が作動したが、別にフロア全域にまんべんなくついてるわけじゃないし、俺のギフトが元になった炎だから、なかなか消えない。
放火して回るのがあまりにも素早かったせいか、思った以上に敵の反撃も遅かった。
最初に警備兵の群れが「止まれぇえええっ」と喚いて行く手を塞いだのは、四階に上がった時である。
振り向くと、五人ほどの部隊で、全員が銃を構えていた。
「手を上げろっ。上げないと撃つ!」
「馬鹿だな……」
俺が首を振ると、殺気だった士官が睨んだ。
「なんだとっ」
「なんだとじゃなくて、俺みたいなの見つけたら、問答無用で撃たないとさっ」
言下に、もう散々使って慣れてきた炎のギフトを開放する。
うるさいほどの悲鳴が合唱で上がり、のたうち回る奴が続出だったが、それでも士官らしき男は根性見せて撃ってきた。
火だるまになりながらも、二発三発と……四発目で力尽きたが。
ちなみに、四発のうち俺の身体に当たりそうだったのは一発のみだが、それは直前で空中に停止している。
俺本来のギフトが、応用の効くもので助かったと言えよう。
逃げようと走ってくる、新手の女士官がいたので、そいつに向かって念動力 (PK)を開放し、弾の餌食にしてやった。
相手が敵だと、女性でも全然心が痛まないのが、我ながら意外だったが。
……別に一般市民じゃなくて、軍服着てたしな。
ということは、俺達をあんな目に遭わせた同類ってことだ。むしろ、女性差別はこれまで殺した敵に失礼ってもんだろう。
こんな調子で、多少の抵抗はあったものの、全て問題なく逆襲して片付けつつ、俺は六階まで来た。
ここまで避難できた者は少ないのか、この最上階は静まり返っていた……と思ったが。
どうやら、小癪にも待ち構えている連中がいたらしい。
目指すナントカ准将の部屋へ行こうとする途中、元の催し物会場跡に、警備兵二人と、左右から腕を掴まれて、青白い顔をした女性がいた。
女性のみ、たんなるジーパンとブラウスである。
「止まれっ。仲間を殺されたいか!」
「……仲間?」
「レジスタンスの戦士の一人だっ。顔を知らないのかっ」
女性の髪を掴んで無理に上向かせる。
気丈にも、その子は悲鳴一つあげなかった。
「捕虜はいなかったはずだ。事前に透視したから、知ってる」
「なんの話だ!? こいつはついさっき連行されたばかりで、今から尋問のために、准将の部屋へ連行する途中するところだった。……残念だったな」
「いや、残念なのはおまえら二人だね」
俺が余裕を失わないのを見て、警備兵二人が初めて不安そうにした。
「悪いが、俺はレジスタンスとやらじゃない。その女性だって、俺なんか知らないはずだ」
「その通りよ」
左右から腕を掴まれた女性が、皮肉な笑みと共に頷く。
「おあいにくさま」
「し、知らないにせよ、おまえだってこいつの――」
「演説中悪いけど、あんたらが勘違いしている点がまだある」
俺もまた、落ち着いて警備兵の恫喝を遮った。
「別に俺、手足を動かさなくても、相手を殺すくらいなら、簡単なんだな……こんな風に」
敵二人の脳内をイメージして、潰すように念動を加えると、たちまち二人揃って倒れてしまう。大脳が全壊したせいか、鼻から血が流れていた。
自分の左右でずるずると警備兵が倒れたのを見て、レジスタンスの女性とやらは、目を瞬いた。
「どうして、彼らは?」
「なんでもいいから、死にたくないならついてきてくれ。今から、最後の仕上げなんだ」
「この火事の原因って、あなたなのっ」
驚いたように問う女性に、俺は走りながら頷いた。
「そうだけど、本番はこれから……あ、最後の本命が出てきたかな」
最初に透視した方面軍司令官の部屋から、今になって人が出てきたのを見て、俺は目を細めた。
こいつは……ちょっと他の警備兵と違う気がするな。